京御三家の選定者
ちょうど、由貴達が戒都と分かれて洞の中に足を踏み入れた頃、緋岐は無洞窟から外へと一歩踏み出していた。
あまりの眩しさに目が眩む。そこに、複数の気配を感じて身構えた。
「誰だ!」
敵かもしれない。そんな警戒心丸出しな誰何の声に、ここで聞こえるはずのない呑気な声が応える。
「よ、先パイ……遅かったな?」
段々と目が慣れて来て、声の主の出で立ちが明らかになった時、緋岐は深いため息を吐いた。
「お前も、まさかの関係者か……槃……」
槃と呼ばれた少年は、どことやら日本人離れした顔立ちだ。髪の色もアッシュピンクで瞳の色は青空を彷彿させる水色。それでいて、漢服を彷彿させる長衣を身にまとっているのだが、どこかしっくりくるのだから不思議である。
「流石に、槃もかー……ってなるよね」
言いながら苦笑を浮かべるのは、高校の制服姿の将だ。隣には蘭子もいる。蘭子は珍しく守衣姿だ。
「遅いぞヘタレ。何をのんびりしている」
「無理言うなよ。これでも最速で頑張ったんだから」
仁王立ちでそう言い放つ蘭子に、溜息混じりに反抗する。それが、緋岐を現実に引っ張り戻した。
(そうだ。私は……俺は、雄飛じゃない。鴻儒 緋岐だ)
そんな緋岐の胸中を知ってか知らずか、将が尋ねる。
「でさ。緋岐……戻って来てそうそうに悪いんだけどさ……緋岐の隣で固まってるの、誰??」
将の視線を辿った先にいたのは、槃の隣に視線を向けたまま茫然としている璃庵。その視線の先には、何もないのだが、まるで人の目には見えない何かが映っているかのように、凝視したまま固まっている。
「璃庵???おい、大丈夫か?」
心配そうに声を掛ければ、ハッとした様に緋岐の方を向く。
「申し訳ございません」
返事になっていないようにも思うのだが、きっと今何を尋ねたところで素直に答えてもらえるとも思えず、とりあえず緋岐は話を進めることにした。
「神具 霞幻刹劫真具を守護してくれていた……俺とさっき式神契約を交わした風の精霊だ」
緋岐の言葉に促されるように璃庵は綺麗にお辞儀をする。
「璃庵と申します。以後お見知り置きを」
「よっし!人は揃ったな!!なら、俺達も神路山に急ぐぞ!」
パンッと1つ手を打ったのは槃だ。
だが、腑に落ちないのか、緋岐は厳しい眼差しを向けたまま槃に問う。
「なんで、俺が無洞窟にいると判った。何が目的だ?」
「そりゃ判るだろ……御神体守護が神々廻に課せられた役目だからな!」
明るく言い放つ槃に、緋岐は冷静に言い放つ。
「何で、このタイミングなんだって聞いてるんだ」
街に妖が溢れかえった時。
瑞智家が襲撃を受けた時。
今、この時ではなくとも、正体を明かすタイミングは他にあったのだ。だからこそ、敢えてこのタイミングで現れた是非を問う。
そんな緋岐にフッと笑みを深める槃。
「“選定者”だからだよ。京御三家に伝わる真承武具の持ち主に与えられた使命だ」
―― 後は……
「俺の勘、かな?今、この時だ!って感じた」
それは、何とも槃らしい言い分で。
緋岐は深いため息を吐き出すと、警戒を解いた。
「全面的に信用した訳じゃない。けど……今はこんなとこでもたついてる場合じゃないからな」
緋岐の言葉に反応したのは将だ。
「そうだよ!急がないとッ……槃の勘は侮れない。その槃が、俺と蘭子さんも行った方がいい気がするって言ってるんだ」
「ああ、急ごう」
蘭子が先を促せば、槃が念の為にと“遮蔽”が発動する様に呪が刻まれた札をそれぞれに渡す。
「ヴィルサルガ!マリス、レノス……もう少し頑張ってね」
将の声に呼応する様に、赤毛の猫と烏が人を乗せられる程度の大きさまで巨大化する。
「璃庵、頼む」
「畏まりました」
言うや否や、璃庵は白虎へと姿を変えた。
「んじゃまあ、行きますか!」
槃の声が合図となり、緋岐、将、蘭子は一斉に空へと飛び立ったのだった。




