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「何だって言うんだよ!」
珍しく、由貴の息も上がっている。
「全く……どうなってるのよッ」
気合いと共に、自らの破魔武具 覇世神杖で敵を祓い飛ばしながら、周が辟易した様に言う。
「けったいな技やな」
蕎が、苦々しげに言いながら、こちらも自身の武具 冥旺経典を駆使し、次々と浄化していく。一見、由貴達が優勢に見えなくもない。だが……
「これじゃあ、キリがねえな」
戒都も矢を放ち、確実に仕留めながら呟く。
「翠琉……これは……」
白銀が翠琉を守る様に敵を屠りながら眉をしかめる。
「魂自体を、操られてしまっている……奴に、囚われているんだ」
―― だから、普通の浄化術は全く通用しない……
白銀の考えを肯定する様に頷いてから、翠琉が言う。
―― そう、一見優勢に見えるこの状況……だがしかし、一進一退していた
否、やや押されていると言っても過言ではないかもしれない。骸と化した、かつての祓師達は姿こそ生前とは似ても似つかないものの、力はそのままだ。元々、精鋭揃いと誉れ高い覇神一族の祓師達の相手……しかも、1人2人などではない。その数16人にも及ぶ。
そんな、スペックの高い集団を相手にするだけでも、由貴達にとっては重荷でしかない。それなのに、彼らを浄化する事がどうしても出来ないのだ。
何度も攻撃を加える。攻撃を受けて、身体が崩れ落ちる。
だが直ぐに、元通りの形となって襲って来る。
相手は死人だ。体力は無尽蔵だ。
“力尽きる”という言葉とは無縁の集団なのだ。
更に追い討ちを掻ける様に、そんなゾンビ集団に加えて数多の醜を相手しなければならない。醜単体なら驚異ではない。だがしかし、数にものを言わせた攻撃を仕掛けられては、段々とこちらの体力が削られていき、底を尽きる事は明白だ。
ならば、本元を……操っている宮毘羅を叩けばいい話。
そう思い付いた面々は、何とか宮毘羅へと向かって行くのだが。
「頼むから!姉ちゃん……正気に戻ってくれッ!」
紗貴に行く手を阻まれる。阻まれてしまっては、操られていると判ってはいても、どうしても攻撃が出来ない。
「……時間さえ、稼ぐ事が出来たら……」
翠琉の使役する式神の中に、朱雀呼ばれる炎を司る召喚獣がいる。炎を司る朱雀の炎は、浄化の炎。現存する一切を燃やし尽くす事が出来るだろう。
それが、例え目視できない糸であっても、例外はない。即ち、魂を捕らえている……雁字搦めにしているといっても過言ではないだろう、宮毘羅の術すら燃やし尽くし、魂を輪廻の巣へと還すことが出来る。
その絶対的な力を持つ召喚は、だが発動までにそれなりの時間を要する。この絶え間なく繰り広げられている攻防戦の合間に召喚することは、無理に等しい。
「それでも……やるしかないか……」
そう、翠琉自身判っていた。彼らを救う道は、どんなに無謀だと思われていようと、1つしかないということは……
成功確立は限りなく0%に等しい。
それでも、方法があるのならば……
「白銀、頼む」
「御意」
翠琉が、白銀が応える声を聞いてから、呪の詠唱を始める。いち早く気が付いたのは、周だ。
「援護しますッ!」
すぐさま、翠琉に近付く敵を薙ぎ払いながら、白銀の隣で覇世神杖を構える。
蕎も周に続いて、翠琉を背後に庇う様に、経典を発動した。
「行け!由貴ッ!」
一方、戒都の援護を受けて由貴が何度目になるか判らない、宮毘羅への攻撃を仕掛けようとしていた。
「!?またかッ……そこを退いてくれ!姉ちゃんッ……」
勢いのまま斬り付けようとして、逆に攻撃を受けた由貴はバックステップで辛うじてかわす。由貴の言葉に、紗貴は何の反応も示さない。
「姉ちゃんッ……」
―― やっぱり、もうダメなんだろうか……姉ちゃんを倒すしかないのだろうか?
物騒な考えが、チラリと脳裏を過ぎる。
そんな考えを振り切る様に、首を横に振った。
「……“誰の命も、奪わせない”……ッ!」
―― そう、それが俺の覚悟だった筈だッ!
自身の弱った心を奮い立たせるように言って、再度姉と対峙する。そんな、刃を向け合う姉弟を眺めながら、宮毘羅は楽しそうな笑みを浮かべた。
「ほんに愉快よの。ほれ、興冷めせぬよう、しかと闘わぬか」
癇に障るその声に、由貴とその隣に並んで立った戒都はギリッと奥歯を噛み締める。
―― だが……
次の瞬間、紗貴と目が合った。
「……え?……姉ちゃん……?」
「どいつもこいつも……好き勝手言ってくれるじゃない?」
そう言って振り向き様に、宮毘羅へと紗貴が振り返る。
次の瞬間……
―― ゴトリ……
宮毘羅の両腕が、切り落された。血飛沫を避けるように、後方へと飛ぶ。そして、呆然と立ち尽くす由貴に向かって紗貴が不敵な笑みを浮かべる。
「何、間抜けな顔してるの?」
由貴の視線の先に居たのは、良く知る姉その人だった。
「……ほら、反撃するわよ?」
「おう!」
「よっしゃ、行くか!」
紗貴の言葉に、活路を見出したと言わんばかりの由貴と戒都が気迫を取り戻した。格下だと嘲り笑っていた者からの、思いも寄らぬ抵抗に、宮毘羅は怒りを顕にする。
「人の子の分際でッ!」
「言ったじゃない。“舐めてんじゃねえよ”ってね!」
その紗貴の言葉が口切となり、両者の力がぶつかり合った。
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