③
……何か、おかしい。
調子が狂うっていうか……姉ちゃんが、おかしい。
別に姉ちゃんと本気の組手をするなんて事、日常の稽古じゃいつもの事だ。
でも、何か変だ。こんなに無口無表情な姉ちゃん、初めて見た。……自分で言うのもなんだけど、結構ヒドイ事たくさん言ったのに、全く怒らない。いつもの姉ちゃんだったら、スクリューパンチの1つや2つ繰り出しながら「おバカなゆきりん」と絶対零度の微笑みを俺にプレゼントしてくるのに。
……いや、別に怒って欲しいわけじゃないけどねッ!?でもやっぱりおかしいよ、こんなの姉ちゃんじゃないみたいだ。
一旦、間合いを置く。そして、ちょっと遠慮がちに口を開いた。もちろん、警戒したままだ。
「姉ちゃん……?おおい、姉ちゃん、オネエサマ?」
ダメだッ!反応ナッシーング!
一体全体どうなってるんだ?
あっちはあっちで、ドンパチ始めたっぽい。
手助けに行きたいけど、この姉ちゃんとの睨めっこ……確実に、目を逸した方が負けだ!
と、気合いを入れて睨み返した、まさにその時……
「姉ちゃん!?」
姉ちゃんが、俺の目の前から消えた。次の瞬間、聞こえてきたのは周の悲鳴だった。
「嘘ッ……紗貴さんッ!!」
……はいッ!?今まで、俺と対峙してたのに?いつの間に!?
半信半疑で振り返る俺は、そこで信じられない光景を目撃することになる。
「何で……何で、姉ちゃんが宮毘羅を庇ってるんだよ!?」
戒都さんの攻撃を受けて、左肩から血を流している。
それでも眉一つ動かさない姉ちゃんは、どこか人形じみていて。
「何が、どうなってんだよッ!」
「操られとるんや、宮毘羅にな」
蕎が応えてくれた。
珍しい……そう思った。
蕎が、本気で怒っている。
滅多に感情を外に出したりしないヤツなのに。
「主らも我が人形にと思うておったが、まあ1つ手に入っただけで良しとしようか」
相変わらず、ムカつく笑い方をする兄さんだ。
「どういう事だ……そこに、紗貴さんが居るのか?」
翠琉が、判りきった事を聞いてくる。
……いや、ちょっと待てよ?
翠琉は目が見えない代わりに、その気配で誰がどこに居るのかを判断している。その翠琉が、目の前に居る姉ちゃんが判っていない。それは、姉ちゃんの気配がしないってことだ。
「……ってことは、やっぱり姉ちゃんじゃない……?」
「言うたであろう?コレは、紛れもなくお主らの仲間であった少女よ。我が術中に嵌り、精神を壊された今は、意志なきただの傀儡だがな」
ちょっと待て。
精神が……壊された……?
「ただ、操られてるワケじゃないって事……なのか……?」
そんな俺の言葉には、誰も応えてくれなかった。
「そういえば……我が傀儡はこの地に沢山眠っておった筈……」
―― 呼んでみようか……?
言うなり、右手を掲げて何かを手繰り寄せるような仕草をする。まるで、そんな宮毘羅に応える様に、ふっとその場に現れたのは……
「ゾンビッ!?」
よく、映画とかで見るあれだ、動く骸骨の群れ。そんなゾンビの群れを見て戒都さんが声を詰まらせた。
「……ッ……皆……」
その声によくよく見てみると、その骸骨集団が手に持っている武器は、破魔武具だった。
「一体、どういう……」
気配を感じて振り返れば、そこには骸骨が居て。
―― 囲まれたッ!?
自分達の置かれている状況を理解した俺達は、背中合わせで敵と向き合い、四方八方から来るだろう攻撃に備えた。
「あれは、……16年前に殺された、覇神に名を連ねる奴らと、覇神に駆け付けてくれた奴らの亡骸だ」
振り絞る様な戒都さんの呟きに、破魔武具を握る俺達の手にも、知らず力がこもった。
「死者の尊厳を、こんな形で奪うなんてッ……」
周の声も、怒りに震えている。
「魂すら傀儡にしてしまえるっちゅう事か。えげつない術やの」
蕎は嫌悪感を隠そうともしない。
「さあ、行け」
涼しい顔のまま、宮毘羅が言う。
その言葉に応える様に、まず動いたのは姉ちゃんだった。
骸骨集団の戦闘に、スッと現れた。肩から、血が流れている。さっき宮毘羅を庇って負った矢傷だ。
早く応急処置をしないと、危ない。
痛くない筈がないのに、でも、姉ちゃんは無表情で。
「姉ちゃんッ……」
そんな俺の呼び掛けにも、うんともすんとも応えてはくれない。
「楽しい余興の始まりだ。さあ……我を楽しませておくれ」
俺の呼び掛けには応えてくれなかったのに、そんな宮毘羅の言葉に従う様に、姉ちゃんがこっちに向かって駆け出した。その姉ちゃんに続いて、骸骨集団も走り出した。どこから湧いてきたのか、醜……意思を持たない、化物の集団も仲良くこっちに突撃して来る。
「行くぞッ!」
数に圧倒されかかっていた俺達の士気を取り戻させたのは、そんな翠琉の檄だった。
「おおッ!」
気合を入れ直して、俺達も走り出す。力と力が、ぶつかり合った。
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