①
「姑息な真似をしおって。その様な奇襲が、本気で通じるとでも思ったのか?」
翠琉が見えない目で、敵を睨み付ける。
―― そう、翠琉が睨み付けているのは、敵の筈なんだ。なのに……なんで、どうしてッ
「待って下さい、姉様!それは……その人は、紗貴さんですッ!」
既に臨戦態勢の翠琉を止めるように、周が叫ぶ。
でも俺は、そんな周に反射する様に叫んでいた。
「姉ちゃんじゃないッ!姉ちゃんが、俺達に攻撃なんかする筈がない」
そうだ。笑って別れたのがついさっきだ。
「待ってるから」そう言った俺に、姉ちゃんは頷いてくれた。
姉ちゃんが、俺に嘘を吐くはずがないんだ。
「あれだよ!敵が、姉ちゃんのフリをしてるんだよ」
うん。絶対そうに違いない。だって、緋岐センパイと一緒に戦った時の敵だって、姉ちゃんや翠琉の姿を真似したりしてたし。
だけど、俺達の葛藤を嘲笑うみたいに、姉ちゃんが再度仕掛けてくる。辛うじて避けながら、俺達はどうしたものか、考えあぐねていた。そんな俺達の目の前に、あの時……姉ちゃんが足止めした筈のアイツが現れた。嫌な笑い方だ。虫唾が走る。
「誤解のないよう、教えてやろう。そやつは、真に主らの仲間であった少女よ」
―― さあ、仲間同士で殺し合うがいい。丁度良い余興だ
なんて言って、楽しそうに笑う。もしも、ヤツの……宮毘羅の言っている事が本当って事はだ。つまり……それは……でも、姉ちゃんが俺達を……俺を裏切るなんて絶対にあるわけがない。
そこで俺は、ある1つの可能性に辿り着く。
「あ~、もう!頭に来たッ!」
「……由貴、落ち着きい」
蕎が諌める様に振り返る。そんなの構ってられるか!無視だ、無視ッ!
ドスドスと鼻息も荒く、姉ちゃんの前で仁王立ちする。そして、容赦なく睨み付ける。
「あのなあ……」
周りに妖のハーレムを作った、不気味キングの宮毘羅がニタリと面白いものを観る様に笑った。
「悪ふざけが過ぎるぞ、姉ちゃん!もっと手加減しろって!大体、姉ちゃんのはアソビの域を超え過ぎなんだって!俺なんか、今朝も死に掛かったんだぞ!?」
そう言って思い出すのが、つい数時間前の事だ。守衣を着る、着ないの押し問答の末、姉ちゃんから攻撃されて、軽い流血沙汰になった。挙げ出したら、キリがない。
「この間なんて、三途の川を知らないチョイデブおじさんとランデブーしちゃったんだぞ!?」
もう、あの時はホントに死ぬかと思ったんだ。
「俺は、慣れてるからいいけど……他の人達は、慣れてないの!そんなに元気良過ぎると、嫁の貰い手がなくなるんだからな!」
“男は守ってあげたくなるような女の子が好きになるもんだ”とか何とか、前にテレビで観た。それからすると、姉ちゃんは逞し過ぎると思うわけだ。姉ちゃんの将来が心配になって来た……これはいい機会だ。ちょっと“女の子らしさ”について説明しようッ!
「大体なあ……」
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