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「もう、バッカじゃねえの!?早くそういう大切な事は言えっつーの!」
「はあ、そうっスね」
何なんだ、この兄チャン。テンション上がりすぎだろ。俺のテンションがた落ちだよ。っていうか、周りドン引き過ぎて涙出ちゃうよ。
現状の簡単説明。何故か、さっきまで喧嘩上等モードだったお兄さんから抱き締められて、頬ずりまでされている俺。男に頬ずりされても、嬉しくないッ!
「助けてぇ~」
と、健気に助けを求めてみても、誰も助けちゃくれない。
ついさっきのことだ。
『なあ?神剣の守り人はん?』
『お前、なんでそれをッ……!』
そんな蕎の言葉に、過敏な反応を示した相手。そんな様子に臆することなく、蕎は続ける。
『16年前の覇神一族惨殺事件、唯一の生き証人が居るっちゅう噂、知らへんか?あれは、嘘やあらへん』
と、言いながら、俺をずずいと前に押し出した。呆気に取られた周りなんて、全く気に留めちゃいない。
『十掬剣……継げるんは、覇神ん当主だけや』
顎で、俺を指す。
『由貴、剣を出せ』
『おっ……おう』
拒否権なんてなかった。蕎は淡々と言ってたけど、なんか逆らっちゃいけない感じがしたんだ。……で、剣を出した途端……
「ホンット、大きくなったよなあ!こんな小さかったのに!」
って、そのサイズはダンゴムシじゃんかッ……というツッコミを入れる余裕もなくて。
「いやあの、苦しいです」
抱き締められたというわけだ。
「うーん、目元は妃咲……顔の感じは、由隆に似たみてえだな」
「キ……サキ……?ユタカ?」
ウキウキと語るお兄さんの口からいきなり出て来た聞き覚えのない名前に、俺の頭の中でハテナマークが飛び交う。
「何だ、お前……知らねえのか?お前の、父ちゃんと母ちゃんの名前だぞ?」
「え?」
どうやら、俺の驚いてる様子を見てお兄さんは、ちょっとだけ寂しそうに笑った。やり場のない罪悪感が、俺の胸を締め付ける。聞きたいような、聞きたくないような……思わず、足踏みしてしまう。そんな弱い自分も嫌だ。知りたくないって、心のどこかで思ってしまう。
「そういや、まだ名乗ってなかったな。俺の名前は覇神 戒都。覇神一族当主の庇護師だ」
どこかで……心のどこかで判っていた。判りたくなかった。それは、認めたくない真実。本当に自分でも情けないと思う。でもやっぱり嫌だったんだ。俺の父さんは“瑞智 早貴”で母さんは“瑞智 桜”だって、思っていたかった。
「今は神剣の眠る場所の、番人じみた事をやってる」
血の繋がりだけが“親子”の証じゃないって、判ってる。
「神剣の封印を施したのは、当時当主だった覇神 由隆……」
それでも縋りたかったんだ、その“絆”に。だから、聞きたくなかった。知りたくなかった。
「お前の、本当の父親だ。……桜が引き取った事は、聞いてたけど……そうか、何も知らねえのか」
でも、きっと知らないといけない。ちゃんと、“過去”と向き合うことが、俺の義務だ。知らないと、前に進めない。進む方向も、方法も判らないんだ。
「色々聞きたいって面だな」
何を、どう言葉にすればいいのか判らなくて困っていたら、どうやらお兄さん……戒都さんは、俺の気持ちが判ってくれたみたいで、苦笑いを漏らしながら言った。
「ゆっくり、話してやりてえとこだが、時間がねえ。先に進みながら、話してやるよ」
―― 着いて来な
そう言って、戒都さんは歩き出した。
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