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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第七章【神剣の守り人】
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こちら一方、紗貴。宮毘羅からの攻撃を紙一重でかわしながら、カウンター攻撃を繰り出す。だがしかし、その攻撃が届くことはなくて。時折、鼻腔をくすぐる甘ったるい香りに紗貴は違和感を覚えつつも、それを考える余裕はなかった。


それが、そもそもの間違いだったのだ。


……じわり、じわりと……まるで、蜘蛛の巣の様に紗貴を絡め取っていく。それは正しく蜜色の罠だった。攻防の応酬を繰り広げてから、どちらからともなく間合いを置く。


―― まずい……


紗貴は、心身共に限界を感じていた。だというのに、相手は息一つ上がった素振りを見せない。


―― むしろ、まだ余裕綽々って感じよね


どういうつもりか知る由もないが、宮毘羅がまだ本気でないことは紗貴にも判りきっていた。それが余計、紗貴の癇に触る。


―― 落ち着け、焦るな。必ず機はある


自身を叱咤しながら、右腕に装着している絶風爪を掴む左手に力を込めた。


「か弱いことよ。もう限界か?」


嘲笑うような宮毘羅の言葉に、紗貴は闘志を隠そうともせずに睨み返す。


「お気遣い、ドーモ。けど……お生憎様。舐めてんじゃねえよって感じ?」


言いながら、渾身の力を込めて地面を蹴った。


―― 何ッ……?


……蹴った、つもりだった。


しかし、紗貴の意に反して身体は硬直してしまったかの様に、指先一つ動かす事が叶わない。


「な……に……?カ……ラダ……?」


―― 身体が、動かないッ!?


気付いた時には、言葉をまともに発する事すら出来ない状態になってしまっていた。そんな紗貴の様子に、ニヤリと満足そうな笑みを宮毘羅は浮かべる。


「ようやっと、効いて来たか」


「あ……んた……何をッ……」


朦朧としてゆく意識。霞む視線は定まらない。それでも、負けてなるものかと、その一心で敵を……宮毘羅を睨み付ける。


「ほう?まだ抗うか……面白い娘だ」


心底おかしそうに、くつくつと喉で嗤う宮毘羅は、そのまま紗貴の目の前へ手を翳した。それが、合図だった。


―― ガクン……


まるで、糸が切れた操り人形の様に、紗貴はその場に膝をつき、力なく項垂れる。その瞳からは、生気が消え失せてしまっていた。


「この香に、ここまで抗ったのは、主が初めての事ぞ」


―― 誇るが良い


言いながら宮毘羅が握っていた右拳を開くと、僅かな風に怪しい煙が舞い上がる。新しく手に入れた人形の顎に手を添えて、自身の方へと向けた。


「我の二つ名、まだ教えておらなんだな。“操師(そうすい)”……それが、我の通り名よ」


その二つ名の通り、宮毘羅は他者を操る。相手の意識を殺してしまい、その肉体を人形の様に操るのだ。


意識の“死”とは、即ち“精神”を破壊する事を意味する。


「だがの。時折、居るのだよ。主の様に頑強な精神の持ち主が……」


言いながら、さらりと紗貴の頬を撫でる。それでも、紗貴は何の反応も示しはしない。


「中々に落ぬ者に、この香を使う」


そう、あの攻防自体が、宮毘羅の仕組んだものだったのだ。紗貴も、判ってはいた。宮毘羅が“本気”ではないことを。しかし、“何故、本気ではないのか”その目論見を推し量る事が出来なかった。それが紗貴の敗因だった。


「壊しがいのある……作りがいのある、人形であったぞ」


紗貴に聞こえるはずがない。それは宮毘羅自身が一番判っている事だ。それでも尚、自身の人形へと語りかける。


「さて、主が来るのを待っておる童子どもがおったの。挨拶に行くとしようか」


クイッと宮毘羅が指を引くような仕草をする。呼応するように、紗貴が……否、紗貴であった“モノ”がその場に立ち上がった。



※※※※※



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