③
慌てて外に出たら、何かまた飛んでる変な着物っぽいのを着たお兄さんが居て……皆で楽しく睨めっこタイムだった。
ただの睨めっこなら、『かぁ~てぇ~てっ!』って走っていって即参戦するんだけど。お世辞にも、楽しそうだなんて言えない雰囲気だ。むしろ、『目を逸らしたら殺される』的な、命がけの睨めっこっぽい。
さて、出遅れてしまった俺はどうしたもんかな……何て悩んでいたら、姉ちゃんとばっちり目が合った。
俺にだけ判る様に、首を振る。このとき、俺はピンと来た。つまり、後ろからそろっと近付いて、攻撃しろって事だ!うん、流石、姉弟!アイコンタクトもバッチリだっ!
―― ラジャー!
そんな思いを込めて、頷く。そして直ぐに俺は行動を開始した。
「ちょっと、約束が違うんじゃないの?」
姉ちゃんが、すっげえ好戦的に相手の兄ちゃんに言う。もう、ちょっと奮発し過ぎってくらい闘気が溢れ出ている。結構離れてるのに、俺までビリビリ届いて来る。うーん。思わず足を止めてしまいそうだ。
でも、これが姉ちゃんの狙いなんだろうって事は、簡単に予測する事が出来た。こんだけ凄い闘気の中じゃ、ちょっと気配を消して移動すれば絶対に見付からない。
そう、この闘気は良い隠れ蓑の代わりをしていた。コソコソッと慎重に、背後へと近付く。十掬剣を握る手が、思わず汗ばむ。刀がすごく重く感じる。
『……大、兄……』
思わず、脳裏を過ぎったのは伊須厨の最期だった。俺に、俺じゃない“誰か”を重ねていて……そんな彼女を、俺が……敵とはいえ、未だにあの肉を裂く感覚が手から消えない。
「……っ……」
ああっ!もうダメだな、俺っ!もう迷わないって決めた筈なのに、直ぐに心が揺れてしまう。情けないったらありゃしない。大きく息を吸って、自分の呼吸を整える。チャンスは、絶対にやってくる筈だ。姉ちゃんだったら、きっと作ってくれる。
奇襲を掛けるなら、ここだろうっていうベストポジションに到着した俺は、ひったすら息を潜めてチャンスを伺う。もう、飛び出して行きたい衝動を我慢するのに必死だよ。
そして、チャンスはやって来た。なんと!敵さん自らチャンスをプレゼントしてくれたんだ。まさかの事に、驚いたね!まさにあれだよ、棚からぼったくり……あれ?もっと美味しそうだった気がする。
えっと……何だっけ?なぁんて考えてる間に、敵さんが動いた。そして俺は、絶妙なタイミングで渾身の一撃を背後から叩き込んだ。
「隙ありっ!」
「何っ!?」
おおおおっ!しまった、かわされた!しかも、何か敵が増えた!醜が沢山こっちに向かって飛んで来る。さらに,その攻撃の合間を縫うように、宮毘羅も攻撃して来る。
「何と!探す手間が省けたわ!童子、主に恨みはないが……これも主上の為、死んでもらおうか、あいすまんな」
うわ!?何でそんな嬉しそうに俺が集中攻撃されてるんだ!?
「ちっとも“ごめん”とか思ってないだろ!」
“ごめん”で済んだら、警察いらないんだよコンチクショー!!言いながら、大きく横に跳ぶ。何とか宮毘羅の射程範囲から抜け出したと思ったら、今度は醜から襲われる。
しかも、一匹とか二匹とか、そんな可愛い数じゃない。むしろ、数えるの無理!……こういうのを“うじゃうじゃ”って言うんだろうな、きっと。
ホント、おかしいよな……ついさっきまで俺達の方が人数多かった筈なのに、何時の間にやら数が逆転してしまった。多過ぎだって!
蛇にトンボみたいな羽が生えたのから、耳はウサギなのに、どう見てもワニっていう変なヤツに、コウモリっぽい羽が生えたクモetcetc.……何だよ、この世界ビックリ博覧会みたいな状況はっ!ペンギンって、見るだけで癒されるヤツじゃなかったっけ!?何でお前の尾っぽはそんなに長いんだよ!くちばしがデカイんだよっ!ついでに言うと、羽がそんな斧っぽい凶器なんだよ!それじゃあ、ただの短足鳥もどきじゃねえか!
っていうか、5人に対してこの数は、どう考えても卑怯だろ!?倒しても、キリがないっ!……って、まあ……さっき後ろから奇襲掛けた手前、文句言えないんだけどさっ!
「姉ちゃん、ごめん」
俺は、せっかく姉ちゃんが作ってくれたチャンスを無駄にしてしまった事を謝った。
「ホントにねっ!」
攻撃の手は止めずに、容赦なく言い切られた。言葉の端々から、イライラしてるのが良く判る。まあ、確かに失敗したのは悪かったとは思うけどさ。でもさ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか……なんて、ちょっと落ち込んでしまった俺に、姉ちゃんは予想外の文句を俺に言って来た。勿論、攻撃する手は止めることなく。
「あんた、私が合図出したの見たでしょ!?“早く行きなさい”って、合図」
そこで、思わず俺はあんぐりしてしまった。
「え!?あれって“後ろからやっちまえ!”って合図じゃなかったのか!?」
ふふふっ……どうやら、姉ちゃんと俺は全然判り合えてなかったらしい。
「とにかく、あんたが先に進めたら良かったのよ。全く……馬鹿じゃないの、のこのこ出て来ちゃってさっ!」
言うなり、姉ちゃんが醜の作るバリケードを突破して、宮毘羅に攻撃を仕掛けた。
「姉ちゃん!?」
―― その時……
正門の方から、いきなり突風が吹いた。いや、突風みたいに気が押し寄せたんだ。
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