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沙羅夢幻想~地上編~  作者: 梨藍
序章 -foretaste-
6/76


―― ガバッ!!


屈み込み抱き付いて、頬擦りしてくる由貴に、白銀は言わずにはいられなかった。


(我が名は“シロ”ではいのだが)


「だってお前、白いじゃん!だからシロっ!」


自信満々にそう言ってのける由貴に、思わず白銀は脱力する。人間の行動であれば“肩を落とす”この表現が一番的確であろう。しかし白銀は、そのことを一瞬で脳内から削除し、対峙する二人へと意識を戻した。


「ククク……どうした?攻撃して来い。出来るのならばな……まあ、出来ないだろうが?下手に動けば、そこの人間の命はないからなあ」


優越感に酔って笑む操鬼を、白銀が威嚇する。


「やめろ、白銀!……操鬼、お前の望みは何だ?」


「ほう?物分りがいいじゃないか」


言いながら操鬼は歩を進める。

先にいるのは言うまでもなく翠琉だ。


「こうすることだ!」


―― ドスッ!


鈍い音と共に細い翠琉の身体が宙に浮く。

更に追加攻撃を一発二発と操鬼は容赦なく叩き込む。



※※※※※※



「なっ!やめろ!」


ひでえよ、あんまりだ!

見ているこっちが痛くなる!


「がはっ、くッ……」


ああっ!馬鹿野郎!

立つなっちゅうに!また攻撃されるだろうが!


—— って、え……?


「あいつ、目が見えてないのか!?」


「ああ、我が主の瞳は見えてはおらん」


…………


俺、思考ストップのため、しばらくお待ちください


…………


「おッ……おおおおぉおぉぉおお、お前はあぁぁ!……むぐっ!」


シロォ!?って、口塞ぐなあ!


「お静かに」


低音美ボイスでそう言われて、俺は反射でコクコクと何度もうなずくしかなかった。


わあ~ぉ……シロが一瞬にして、和服姿の美人な兄ちゃんになったよ。ミスターマ○ックもびっくりだな!


しかも、俺を抱えてジャ―ンプ……力持ちだな……


その前に、どういう仕組みで俺は……俺たちは空中に留まっているんでしょうか?と、いきなり翠琉が笑い出す。


「お前が馬鹿で助かったよ」


クロ助、何気に切れた?


「貴様、気でも狂ったか?……まあいい、止めだ!!」


「出来るのならば、やってみろ」


ああ!またそんな挑発して!

駄目だってば!

殺されるってマジで!


—— ってか……


「なあ、下降りねえ?後さ、どうやって俺たち空中に浮いてんのか、タネ明かししてほしいんだけど」


「すぐに片がつく。黙っておれ」


言葉で一蹴、俺撃沈。


いや、だからさあ……そんな、睨まなくてもいいじゃんか。ちょっと聞いただけなのに……


「御光よ」


シロが呟く。一体なんだ?


「どういうことだ!なぜ身体が動かない!?娘!何をしたあ!!」


クロ助ご乱心?


「どうした?来ないのならば、こちらから行くぞ?」


完全に優劣が逆転していた。手で数珠を弄びながら、操鬼を眺める。それを操鬼は怒りと畏怖の念を込めて睨む。


「足元、見てみろ」


翠琉の言葉に誘われるように、操鬼は自分の足元を見る。そして愕然としてしまった。

そこには幾何学的で複雑な陣が描かれていた。


「いつの間に!」


「そう‥‥縛呪(ばくじゅ)だ。これでお前の動き、全て封じた。私がただで殴らせると思ったか?……愚か者め」


「貴様、何をする気だ!?」


もはや、操鬼に余裕はない。ただ恐怖の念に駆られ、目の前の娘から視線を放せないでいた。


「こうするに決まっているッ!!!」


即答かよ、お前……


お?シロ?


「始まる……解!」


シロが一言なんか言った途端に、俺たちは光の膜らしきものに包まれた。

間を置かずに翠琉が数珠を構える。


奉霊(ほうれい)の時来たりて、此へ集うは万象に集いし眷属。(われ)(つど)い、(さそ)うは灼熱(しゃくねつ)儀式(ぎしき)()(ささ)げるは(せい)なる抱擁(ほうよう)


「いッ……嫌だ……やめてくれ……ッ……助けてくれ!!」


情けを請うが、翠琉は操鬼のそんな言葉に耳を貸そうとせず、呪を唱えあげた。


紅蓮(ぐれん)(ほのお)(したがえ)え我の前へその姿示せ、朱雀(すざく)!!」


―――ブワアアァァァ―……


うっ!わああ!すげえ!

滅茶苦茶でっけえ鳥が出て来たよ!

言葉の通り、火の鳥だ。


轟炎(ごうえん)をもって薙ぎ払え!」


しかも、翠琉のその一言で全部終わっちまった。

紅蓮の鳥が、本当に一瞬でクロ助を焼き払った。


—— 跡形もなく、だ……


これも、いつもの夢だったりして

何か、現実味がねえ……


「サンキュー……」


俺は、半ば放心状態で手をヒラヒラさせて呟いた。


「あ!」


反射的に由貴が翠琉に駆け寄ったが、間に合わず黒い怨気が翠琉に直撃した。

その衝撃に耐えかねた翠琉の痩身が揺らぐ。



(苦しめッ……苦しむがいい……破魔一族の娘よ。我が最期の呪詛でな)


一陣の黒い風に乗り、操鬼の最期の言葉と哄笑が響き渡る。俺は、倒れ込む翠琉を抱き留め、クロ助の残像を凝視した。



幻とか

幽霊とか



ましてや運命なんて

信じるほうじゃなかった。



――― そう……



この瞬間(とき)までは……

でも、否応なく腕の中にある重みが


“総て夢じゃない、現実なのだ”


と無言で俺に語りかける。


そして、この出会いが、全ての始まりだとは、この時の俺は知る由もなかった。




〈序章・了〉

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