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「何処に向かってるんだよ?」
俺達は、夜の裏山を走っていた。
で、誰にともなく訊いたみたら……
「とりあえず、急ぐから走りなさい!」
そう言って俺はお口にチャックをせざるを得なかった。もう時刻は日付変更線をとっくに過ぎている。頼りは周の錫杖の先に灯された提灯くらいの仄かな明かりのみだ。そうして黙々と裏山ハイキングを始めて10分くらいで、顔馴染みの兄ちゃんと姉ちゃんが待ち構えているのが見えた。
「将先輩!」
「やあ由貴、金曜日振り」
気軽に何でもないように片手を振りながら将先輩はいつもみたいに笑って応えてくれる。それがいやに安心出来た。
「さてと、時間がない。門は繋げてあるからね」
で、さらりと何でもない世間話のように将先輩の口から聞かされた言葉に、俺は背中に冷や汗を掻いた。
「まっ、まさか……また、瞬間移動っ!?」
「何で“また”が付くのかは知らないけど、そうだよ」
―― 嗚呼……
悪意なきその笑顔が今は無性に憎いぜコンチクショー……もうさ、この瞬間移動は名前を“恐怖!ジェットコースター連続10回転”に変えたほうが良いよ。
それか容赦なく回されるコーヒーカップ!
ホントに気持ち悪いんだって!
※※※※※※
そこはかとなくショックを受けたらしい由貴は、顔を真っ青にして硬直している。そんな由貴に見向きもせずに、紗貴は将に問う。
「どこに繋がってるの?」
だが、その紗貴の問いに答えたのは将ではなく隣に黙って佇んでいた少女だった。
「正じいが昔、修験を積む折に一時棲んでいたらしい隠れ家。分家の奴等にも知られてはないらしい」
「蘭子……」
「私も同伴するから。楼条院の当主である父がここを離れるわけにはいかんのでな」
言いながら紗貴に向かって微笑する。だが、その微笑は紗貴限定のものらしくすぐに表情を整えると他の面々に向かって言う。
「とにかく、詳しい事は移動先で話す。まずは移動を」
その言葉に、翠琉、白銀、蕎そして周の順に何の躊躇いもなく“「ほら馬鹿行くよっ!」未だ硬直したままの由貴の首根っこを引っ掴んで、続いて紗貴が。
「ああああああぁぁぁあ!!?」
由貴の断末魔らしきものが響き渡ったが、とりあえず無視。
「早く行くぞ、すまし」
そう緋岐に言い残して蘭子も消えた。最後に残った緋岐が、将へ物言いたげな視線を向ける。
察知した将は、もう我慢の限界だと言わんばかりに盛大に噴出した。
「なっ!!?」
全くの予想外の出来事に、緋岐は言葉を失って ―― 次の瞬間、自分の被っているものを思い出した。
「いやあ……その覆面、ないわあ……」
緋岐のその姿がツボに嵌ったらしく、涙を目に浮かべて笑い続ける将。何とはなしに気恥ずかしくなって、緋岐はついと視線を逸らした。
「ごめんごめん」
涙を拭いながら謝ってくる将に言いたい事がないわけではないのだが。
「将は、来ないのか?」
口をついて出たのは、そんな言葉だった。その言葉にやっと収まったのか……少し口の端に笑いの余韻を残したまま将は応える。
「うん。俺、今回は留守番しとくよ。俺が行ってもきっと足手まといだからね」
――自分の分は、弁えてるよ。
その言葉に緋岐は思わず押し黙ってしまった。そんな緋岐に苦笑を漏らしながら将は言う。
「踏ん張り時だぜ?お兄ちチャン。後悔しないように、気張って来なよ!」
背中をポンと叩いてエールを送れば、緋岐は「悪い」と一言。それに「何の何の」と笑って将は返した。すれ違い様、互いの手を一瞬だけがっしりと握り合う。
全ては瞬間の出来事のようで。
ぽつりと一人取り残された形になった将は、空を仰ぎ見る。
「どうか、皆が無事戻ってきますように」
願うのは、ただそれだけだ。
〈第五章・了〉




