⑥
ぐええぇええぇぇええ!!喉がっ!!
Tシャツで喉がっ!!
「目、覚めたわね?」
「だからっ!さっきから俺、目が覚めるどころか永眠しそうな勢いなんだけど!?」
全く……びっくり仰天だぜ。
俺はまた船に乗っていて、今度は見知らぬおじいさんとランデブーしてたんだ。
『良い天気ですよねえ』
『ホントにねえ』
『いやあ、絶好の昇天日和ですねえ』
なんて、和やかな世間話を……
ん?
……昇天……???
「俺、今臨死体験してたみたい!無事に戻ってこれたよ、姉ちゃんありがとう」
「判れば良いのよ。判れば」
※※※※※※
紗貴の手をぎゅっと握って大興奮の由貴。
「否、お前まさに止めを刺されかかってたからな?Tシャツで喉窒息させたの、紗貴だからな?」
感無量な由貴の耳に、そんな的確な緋岐の指摘が届くはずもなくて。
「で、結局んところ、なして二手に分かれるんが最良なんや?」
そんなやり取りには関心もないかのように、蕎が白銀に問う。
「そもそも、それぞれの目的が違いすぎる」
―― 神剣を手中に収め、力を手にせんとする者
―― 神剣を破壊し、力を手にせんとする者
無論、この場合前者は忌部一族で後者が邪神なわけだが。
「でもさ、俺が一緒に行かないと忌部さん達にとっちゃ無意味なんじゃ」
「だから、なんだろうな」
そう、重い口を開いたのは翠琉だった。視線が自然と翠琉に集まる。
「神剣と、その使い手を一度に手中に収めるつもりなんだろう。その為の人質だ」
「そんなっ……」
由貴がはっとして言葉を搾り出すが、続きは翠琉に遮られてしまった。
「そんな、好き勝手はさせない。だが神剣も由貴も渡すわけにはいかない」
その言葉に白銀が徐に頷く。
「だからこそ、一気に叩くべきです」
つまりはそういうこと……二手に別れた後、一気に行動を起こす。
「神剣諸共、梵天の半身を打ち砕くのです」
それが叶うのは今翠琉の裡にある神剣の片割れ“崇月”のみ ――
「神剣が無事でないと知れれば、桜殿の命はありません」
だが見捨てる事など出来はしない。
「忌部へ再度、急襲を仕掛けます」
最優先事項は、桜の奪還ただ一つ。後のことはそれから考えれば良い事だ。
「なるほど……」
周が感心するように首を何度も縦に振る。蕎も納得するように一つ頷くと口を開いた。
「せやったら、早速どう分かれるか話し合うて……」
「待たれよ」
が、誰もが予測していなかった方向から待ったの声が掛かったのだった。
声の主に視線が集まる。
※※※※※※
……じいちゃん……?何で……
「桜殿の事は、捨て置け。神剣の破壊、そして梵天討伐が最優先事項じゃ」
俺は、じいちゃんの言葉に、一瞬耳を疑った。
「今、何て……」
喉が渇いて、上手く言葉が出て来ない。
「もう一度言わぬと判らぬか?」
でも、じいちゃんの全てが、本気だと無言のうちに語っていて。
「何でそんなこと言うんだよ!」
俺は、身を乗り出してじいちゃんに詰め寄る。姉ちゃんが「止めなさい」って言ってるのが隣から聞こえるけど、そんなの聞いてる場合じゃない。
でも、じいちゃんは能面みたいに無表情で。
「武器を手にした時点で“覚悟”は出来ておるはずじゃ」
その言葉に、俺は冷水を浴びたように全身の熱が引いていくのを感じた。
「……母さんも、戦ったのか?」
反応を見る限り、知らなかったのは俺だけみたいだ。
いつもそうだ。俺だけ、蚊帳の外……
「桜殿は覇神 由隆殿の実妹にして、稀代の譜術師じゃ」
―― 当然今回の戦にも関わっておる
「甘い考えは捨て置け。これは“戦”じゃ」
―― まごうことなき、命を懸けた
「そしてこの“戦”、是が非でも負ける訳にはゆかぬ」
その言葉に弾かれる様に、俺はじいちゃんに向かって、諦めたように俯いた姉ちゃん達に向かって声を上げていた。
「何だよ、覚悟とか、犠牲とか……ふざけんじゃねえよ!確かに、武器を持つには覚悟は必要かも知れない」
―― だけどそれは……
「死ぬ覚悟じゃない、生きる覚悟だ!最初から“死ぬ”事を怖れてないなんて、そんなのは“覚悟”をしてるんじゃない。“生きること”から逃げてるだけだろ!?」
―― それに……
「俺は、別に勝負をしてるワケじゃない。敵を倒す為に武器を手にしたんでもない。守る為に俺は闘う。それが俺の“覚悟”だ」
―― でも……
―― それでも……
「これが勝負だって言うんなら“誰か”が犠牲になった時点で負けなんだよ!」
―― 俺は絶対諦めない
「誰の命も奪わせない!」
―― それが……
「それが、俺の闘いだっ!」
※※※※※※※
由貴の言葉に、その場が深と静まり返る。思い沈黙に支配されていたその空気を破ったのは紗貴だった。
「甘い、甘過ぎるわ」
呆れた様な声音で言いながら、わざとらしい大きな溜息を付く。
「ホント、甘ちゃんね。甘々の激甘で反吐が出るわ。」
流石の由貴も、紗貴のその言葉に怒気を孕んだ視線を向けた。それを真っ向から受け止めた紗貴は、だがしかし悪戯気な笑みを口の端に浮かべる。




