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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第五章【想いのカタチ】
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――それは、突然だった。


どこか心に油断があったのやもしれない。白銀(しろがね)鷹津嵩命(たかつかさのみこと)(たかつかさのみこと)の勝敗は既に喫していた。


「何でっ……何でお前がッ!!……お前こそ、こちら側じゃないかっ!!」


震えながら後ずさる鷹津嵩命を白銀は冷ややかな……そして、獰猛な笑みを浮かべたまま追い詰める。その瞳はまるで紅蓮の炎のように赤く染まっている。


「永き時の楔より、今解き放ってやろう。散るが良い」


言葉が早いか

断末魔が早いか


鷹津嵩命がいた場所は、溶解された土が未だ赤く沸立つばかりだ。息つく間もなく、白銀は後ろを振り返る。そこでは周、蕎の両名が珂倶遮命(かくさえぎのみこと)と激闘を繰り広げていた。




が、明かに周と蕎が優勢のように見えて。だからこそ隙が生まれた。気付いた時には遅かった。


それは突然だった。


大気が揺れた。


不気味な圧迫感に襲われた瞬間


「周!避けなさい!!」


言いながら白銀は駆ける。


―― だが……


「遅いな」


―― 間に合わない!


轟音が先か、周と蕎が壁に打ち付けられるのが先か。


「他愛もない。余興にすらなりはしないではないか」


表情の一つも変えず、女性は言う。その隣に浮遊している少女が下卑た笑みを浮かべて続ける。


「我らが来るまでもなかったかのう?」


鷹津嵩命や珂倶遮命とは比較にならない力が渦巻いている。


むしろ、この気は。


「お前たちが、なぜっ……?」


白銀の言葉に喉で笑いながら少女が続ける。


「そなたもであろう?久しいのう、今は“白銀”と名乗っておるとか?」


―― 何故!


心中で誰ともなしに怒りをぶつける。


「何故、我らが地上に降り立てるかが不思議なのかえ?」


白銀の困惑を見て取ったのか、少女がすっと目を細めて言う。


「お前だけが運良く地上に降りられたでも思うておったか?」


鈴が鳴るように、ころころと笑う少女。だがしかし白銀にとっては耳障りなものでしかなく。


「のう、我らが同胞」


白銀の真の名を口にしようとした少女の言葉を、攻撃で塞いだ。


「黙れ。貴様らと馴れ合うつもりは、毛頭ない!」


白銀が言うのが先か、血飛沫が両者を染めるのが先か。


「……なッ……で……」


少女に向けられた筈の鋭利な刃は、だがしかし珂倶遮命を貫いており。


……そう、珂倶遮命を楯代わりに自らの身に届く筈だった刃を防いだのだ。信じられないものを見るかのような、責めるような視線にすら興味を示さずに、微笑を浮かべたまま白銀を見つめる。白銀も少女も、鮮血に染まりながら微動だしない。


―― その光景は凄惨を極めていて


「遊ぶな。我らの使命を忘れたか?」


背の高い女性が、やはり表情を崩さずに少女を諌めた。フッと嫌な笑みを口の端に浮かべた少女は、一歩下がって白銀と距離を置く。


「其方がどういう心積もりかは知らぬ。だが、時は迫る。詮無き事よ。」


「お父はんっ!」


その時だった。後方から声が上がったのは。正宗が矛を支えに何とか膝を付かずに耐えている。


―― だが……


桜は此未都葵(こみずき)金剛武鞭(こんごうぶべん)に自由を奪われてしまい身動きが出来ない状態だ。


痛む身体を叱咤して(きょう)(あまね)が駆け出す。


「ほう?まだそのような力が残っておったか」


言葉ほど感心してはいないのか淡々と言葉を並びたてながら、少女は軽く手を上げた。それだけだった。その瞬間凄まじい衝撃波が二人を襲い再度、強かに背中を打ち付けられ言葉もなく倒れ込む。

「この女は預からせてもらうわ。五体満足に返して欲しければ、神剣“天定”を忌部の里まで覇神の血を引く者に持って来させる事ね」


此未都葵は淡々と表情もなく言い放つ。満身創痍の身を叱咤し、周は立ち上がった。


蕎もそれに続く。


「何、言ってるのよ。その人は、関係ないじゃないっ!」


叫ぶように言い放ちながら、渾身の力を込めて走り出す。


「愚かな」


嘲笑とも取れる薄い笑みを浮かべた少女の前では、周も蕎も無力で。


「この女こそが、覇神の生き残り」


少女の言葉に続く言葉を隣に佇む女性が詠うように紡ぐ。


「唯一の生き証人である男児を隠蔽せし者。その罪たるや、如何程か」


―― タン ――


まるで舞う様に後方へと一歩下がると、二人は此未都葵と並んだ。


「三日の猶予をあげる。それを過ぎたら、この女がどうなっても保障はしないわ」

―― でも、なるべく急いだ方がいいわよ?


私、気が短いの


同胞もあんた達の仲間に

討たれちゃったし


一人くらい私が殺しちゃっても

文句ないわよね?



その言葉と同時に、此未都葵ら三人は大気へ溶ける様に消えていった。



※※※※※※

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