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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第四章【過去の呪縛】
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迂津至命の恫喝にも似た叫びと同時に、両者の刃が火花を散らした。


―― その瞬間……


何かが割れる音が響き渡った。周りを形成していたモノが、ガラスの破片のようにパラパラと崩れ落ちる。


組み合ったまま、由貴(ゆき)迂津至命(うつしのみこと)は一歩も譲らない。


周りの変化なぞ、二人の眼中にはなかった。激しい闘気と殺気がぶつかり合う。緋岐(ひき)は、自身の前に姿を現した鏡と水比奈(みずひな)に苦痛の表情を浮かべて問い掛ける。


「……何故……」


そして背後から凄まじい気の奔流を感じて振り返った。それまで睨み合い、剣を交えていた由貴と迂津至命も思わず振り返ると呆然と見やる。


その先に居るのは翠琉を取り囲う巨大な竜。


「行け」


その竜が一度上昇すると一気に須慈目掛けて急降下を始める。そして須慈を呑み込むと地面へと吸い込まれるように消えていった。土煙が立ち昇るだけで、既にそこには須慈の姿は跡形もなくなっていて。


紗貴自身も、驚いていた。


『今から、奴を囲う様に陣を描く。奴がそこから出ないように攻撃してくれ』


意図も判らぬまま、その言葉に従った。翠琉は攻撃の合間を縫って、須慈に気付かれぬよう器用に地面に刻印を刻んでいく。


目が見えていない筈なのに、それは寸分違わない正確さで……


奉霊(ほうれい)(とき)()たりて、()(つど)うは万象(ばんしょう)に集いし眷属(けんぞく)(あら)ぶる御霊(みたま) (まか)(いら)え、訃音(ふいん)()げよ。森羅の漲気(ちょうき) 輪廻(りんね)(そう)へと(みちび)(たま)へ……()でよ、青竜(せいりゅう)!』


呪を唱え始めた瞬間には、翠琉の周りにとぐろを巻くように影が現れた。何事かを悟った須慈が防ごうと動くが、後の祭り。目に見えぬ“何か”に阻まれ、攻撃は届きすらしない。


呪詠唱が終わったとき姿を現したのは、荘厳な竜。


突然の出来事に紗貴も生唾を飲み込んだ。


破魔術と呼ばれるものは多種多様に富んである。


召喚術もその代表格の術といえよう。


それは、土地霊や付喪神といった、あくまでも地上に現存する精霊と契約を交わす事で可能となる術で。


四大元素の長として伝わる青竜という名にも紗貴は驚いたが、何よりもその呼び出された竜の放つ気。


地上に現存する精霊のものではない。


―― つまりは……


幻とも謂われている伝説上の召喚獣を目の当たりにしたというわけで。


俄か、信じ難い光景が眼前で繰り広げられていた。同じく、その場で茫然と事の成り行きを傍観してしまった緋岐に水比奈が問う。


「恐ろしいですか?翠琉さまが」


言葉に、詰まってしまった。恐ろしくないといえば、嘘になる。人が持ち得る筈のない、人智を超えた召喚術を目の当たりにしてしまったのだ。その緋岐の様を見て、水比奈は少し寂しげに微笑んだ。


「皆、そうです。翠琉さまは悪くないのに……皆、畏れる」


神羅一族がその最たるものだ。幼い子どもに“邪狩り”をさせておいて、事を成せば「バケモノ」と罵る。自分達のつまらぬプライドを守る為に生じた矛盾からは目を逸らす。


水比奈は緋岐をきっと睨み付けて言葉を続ける。


「そして迫害し、痛めつけることで、自分達の体裁を保とうとするっ!」


それは緋岐の心を締め付けるには充分過ぎる叫びだった。



――迂津至命――


ご苦労だったな

一旦その場から退け

後は我らが同志


水比奈に託すが良い


どこからともなく声がその場に響き渡る。それまで全身に殺気を漲らせいた迂津至命は、あっさりと剣を退く。


「仰せのままに、我らが導師」


そして、そのままその場から掻き消えたのだった。


「まずいっ!戻らないと」


焦燥感にかられるように声をあげたのは由貴だった。


『由貴、急ぐぞ。お前んちが危ない』


そんな緋岐の言葉が由貴の脳裏を過ぎる。


いきなりの撤退命令……嫌な予感を感じるなという方が無理な話だ。だが、そんな勢いに思わぬ方向から待ったが掛かった。


「ここから先へは、通しません」


由貴は自分の目を疑った。


―― 緋岐先輩と相対しているのは……



翠琉の式神であるはずの水比奈、彼女自身だったのだ。


「信じられない……だってッ……」


ふと、頭によみがえるのは、幸せそうな水比奈の微笑み。


『翠琉さまの式神ということが私の誇りです』


「あの時の笑顔が作り物だったなんて、俺には到底思えない」


―― だが、確かに水比奈さんは緋岐と対峙していて


「どういう事だ、水比奈」


静かにそう言って前へ進み出たのは、誰でもない。翠琉自身だった。込上げて来る怒りを抑えているのが、その後姿からも伝わって来る。


水比奈は、黙ったまま答えない。


「どういう事だと聞いている!」


沈黙を破ったのは、そんな翠琉の叫びだった。


水比奈が重い口を開いた。


「翠琉さま、私と共に参りましょう。忌部へ、あの頃へ帰りましょう」


「問いの答えになっていない!」


翠琉が間髪居れずに叫ぶ。その様に溜息混じりに水比奈は言う。


「共に、来ては頂けないのですか?」


「無論だ。例え、私が忌部と同類であるとしてもだ」


その声には、一つの迷いもなくて……どんな言葉も、翠琉固い決意を揺るがす事は出来ないと水比奈は悟ったのだった。


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