③
もう、飛び道具とか卑怯だよな!痛いっつーの!先に言っておくけど、別に先輩から殴られたから出血したわけじゃないぞ?
まあ、容赦なく叩かれたから、傷口には響いたけどさ。
この伊須厨と名乗ったお姉さんはやりにくい敵だ。最初は氷槍っていう、その名の通り刺した物を凍らせてしまう槍だけの攻撃だったんだ。
だから何とか間合いに入って仕留めたと思った瞬間、四方から小刀が飛んできて、逆に仕留められてしまった。ぎりぎりのところでかわしたから、致命傷にはなってない。
かすり傷程度だ。っていっても痛いんだけどね!だけど、痛いとか言ってられる状態じゃなかった。
攻撃は容赦なく続いて……
『どうしたの?逃げてばかりじゃない。それでは傷付くだけよ?痛いでしょう……いっそ逃げるのを止めたらどう?』
とか、もっともらしく言って来たりする。逃げるのを止めた時点で、俺が蜂の巣になるのは判り切った事だ。
その笑顔が何か無性に勘に触ったから『心頭冷却すれば、火もまた熱し!』そう、自分に言い聞かせて気合を入れなおしたら
『小童、“心頭滅却すれば火も亦た涼し”ではないかしら?頭は大丈夫?』
今日会ったばかりの敵にまでツッコミを喰らってしまった上に頭の出来の心配までされてしまったのは、まあ……この際だから怪我が痛んだからという事にしておこう。
とにかく!
何度か攻撃を受けて判った事。鋭砕飛刀は伊須厨の思いのまま、自由自在に操る事が出来る。だからこそ、隙がある。
―― そう……
『思うままに動く』からこそ、その武器を扱い慣れているからこそ生まれる隙。チラッと横目で見たとき、緋岐先輩の苦戦している姿が視界に入った。勿論、自分の事で精一杯だから先輩の事を気遣う余裕なんてありはしない。でも、俺は接近戦に向いてて緋岐先輩は遠距離に向いてるっぽい。
敵は、だから敢えて俺と先輩を引き離して各個攻撃を仕掛けてきたんじゃないか?
まあ、こんなの緋岐先輩の隣に無事辿り着いて考えた言い訳でしかないんだけどね。伊須厨に気付かれないように少しずつ先輩達の戦闘区域に入っていく。
そして、想定範囲まで移動したとき、一か八かの作戦を決行した。
『おばさんの割りに、身体動くね!』
こんな安い挑発に乗ってくれるか、はっきり言って不安だった。でも姉ちゃんが言ってたんだよね。女性に年齢の話は絶対タブーだって。見るからにお色気むんむんのこのお姉さんだったら、容姿をちょっと突付けば乗ってくれるかな?
……と、そんな淡い期待を寄せて言ったんだけど。
『小童がッ……女性に対する言葉遣いが、なっていないわね?』
予想以上の反応が返ってきたわけで……本当に、もう今まで手を抜いてたんじゃねえか?ってぐらい、バージョンアップした攻撃の応酬が俺を待っていた。
―― それこそ……
『小童って言葉使うところが、また年を感じさせるね!』
何て軽口が挟めないくらい。
言ったけども、根性で。
そしたら更に怒って攻撃も激しくなって、一瞬もうだめかとも思ったけども。
でもまあ、これが俺の狙いだったから結果オーライなんだけどな。
正直、俺の即席な作戦にいつ気付かれるか戦々恐々の思いだった。怒り方が尋常じゃなくって、その心配よりも俺自身の命の灯火がいつ消されるかの心配に、すぐに変わったけどね!
『ボウヤに死なれては困るのだけど‥‥』
さして、困ってなさそうに槍を引くと小刀が一斉に俺に向かって発射されたその時、わき目も振らずに逃げる振りをする。そのまま全速力で走って、掠るか掠らないかまで自分に引き付けておいて、迂津至命の背後で一旦止まり大きくジャンプする。
無論、俺が居るはずの場所には迂津至命の背中。俺の狙い通り、迂津至命の背中に伊須厨の小刀が深々と刺さった。
かのように見えた。
絶対に獲物を外さないという飛び道具に対する信用を逆手に取ってみたのだ。あんまり期待していた結果は得られなかったけど、でもまあ先輩と合流できたら良しとしよう。
後でこの事を先輩に報告したとき、俺が怒鳴られた事は言うまでもない。
「本当に、楽しませてくれるボウヤね」
あ、“小童”から“ボウヤ”に変わってる。
やっぱり気になるお年頃なんだな。
とりあえず、ご乱心は収まった様だが、怒りは収まってないらしい。
※※※※※※
正直、緋岐は由貴がここまでやるとはこれっぽっちも信じてはいなかった。戦闘においては、全くの初心者だ。これが初陣といっても過言ではない。
だから、攻撃を受けながらこの一人で相手をするには分が悪すぎる二人の敵を、どうやったら一気に叩けるのか、それを思案していた。
無論、由貴は戦力外として計算していた。
余談ではあるが後でそう告白したとき、由貴が不貞腐れたのは言うまでもない。
思いもしなかった嬉しい誤算。
―― これで予定より早く紗貴と翠琉を助けにいける
……何故、伊須厨があそこまで憤っているのか、気にならないわけではない。
どうやって同士討ちにまで持っていったのか。伊須厨の表情を見る限り、由貴の策に嵌ってしまった事は容易に想像出来た。だから、帰ってからじっくりと問いただす事にしたのだ。
思った以上の戦闘センス。構え直しながらしみじみ言う。
「脳みそに行くはずだった栄養、全部運動能力にいったってわけか」
「失礼な。俺は部分両道だ」
「それを言うなら“文武両道”な。もうお前、馬鹿すぎてわけ判んねえ」
戦いの最中に不謹慎だと思いつつ、苦笑を禁じえない緋岐だった。
それは余裕から来るもので、返って、敵を煽る。
「余裕じゃない?傷だらけのわりに」
「我々には一切傷はないというのにな?」
その迂津至命と伊須厨の言葉が合図となった。
由貴は、同時に地面を蹴る。既に緋岐は呪の詠唱を始めている。
「ここからが本領発揮だ!」
由貴が先陣を切って攻撃を仕掛ける。
第二ラウンド、開始だ。




