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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第四章【過去の呪縛】
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「由貴、構えろ!」


俺は緋岐先輩の声に反射的に十掬剣で攻撃を防いでいた。

本当に、反射で構えただけだ。

この状況が理解できない!


俺達は……俺、翠琉、姉ちゃん、そして緋岐先輩の4人は、梵天と羅刹天を倒す為に忌部一族のアジトに乗り込んだ。


勿論、忌部の皆さんだっていきなりボスを出してくれる程、優しい人達でもなくて。

緋岐先輩曰く、俺達2人は亜空間とかいう敵の作り出した空間に、閉じ込められたらしいんだけど。まあ、簡単に言ってしまえば足止めを食らったわけで……で、何故か仲間の筈の翠琉から攻撃を受けて今に至る。


「翠琉、何で……」


容赦が無い攻撃。翠琉は本気だ。

俺、何か怒らせる事したっけ?


「くそ!考えれば考えるほど訳わかんねえ!」


何とか押し返して一息つこうと思ったんだけど。


「ふっざけんなあ!」


思わぬ方向から攻撃を食らってしまった。


「がふ!先輩、何すんだよ!」

「あれのどこが翠琉なんだよ!俺の妹はあんな不っ細工じゃないだろ!」

「え?先輩、今何気にカミングスンしなかった?」

「アホか!それを言うなら、“カミングアウト”だろうがあ!」


痛い……容赦なくゲンコツで殴らなくても……


っていうか、妹って……

…………兄妹って……


「ええ!?」

「今は時間がない。ちゃんと後で説明するから」


確かに気になるけど今はそれどころじゃない。

っていうか、不細工って……?


「どこからどう見ても、翠琉な気が……」


目の前にいる翠琉の事ね。


容姿も武器も、翠琉そのもの……の筈なんだけど、こがどう違うのかが俺には判らない。


「由貴、容姿だけに惑わされるな。気を感じるんだ。翠琉の気は、あんな陳腐なものじゃない」


先輩に倣って翠琉(仮)に視線を移す。

ついでに、姉ちゃん(仮)も見る。


「本当だ、先輩。姉ちゃんじゃない」


緋岐は内心少し驚いていた。まさか、たった一言のヒントを与えただけで“呪力の気”を感じ取るようになるとは……


ほんの少し、由貴を見直したのだった。知らずに少し頬が緩む。


—— が……


「目元に、あの悪趣味なうさぎさんアップリケがないっ!」


びしっと指差して言う由貴。

緩んだはずの口元は引き攣ってしまった。


—— 大真面目に……


少し勝ち誇ったように由貴が続ける。


「姉ちゃんの被っていた頭巾には、満面笑顔のうさぎアップリケが付いてた!」


瞬間、場に沈黙が訪れる。

敵はうさぎのアップリケを見落としてしまっていたのだ!


「ふっ、これは、迂闊でしたね」


愉快そうに紗貴を象ったモノが哂う。すると翠琉の姿は掻き消えた。紗貴の姿が歪んだかと思うと、全くの別人に姿を変えた。


「中々、洒落た挨拶だな」


視線を動かさずに緋岐は殺気を隠すこともせずに言う。


「気に入って頂ければ光栄だ」


無表情なまま応える声を聞くのが先か、後ろから攻撃を受けるのが先か……緋岐はすかさず後ろを振り向き様に印を組むと攻撃を受け止めた。


「ほお?中々やりおる……気配は消していた筈なのだがな」

「それは、皮肉か?殺気を隠す気もなかったくせに……」


既にお互い臨戦態勢だ。……で、やっぱり話の流れ的に俺はこのグラマーなお姉さんが相手なんだよな?いきなり先輩がどんぱち始めたから何となく乗り遅れてしまった。先輩達とは対照的に俺達は未だ睨めっこ状態だ。


とは言っても、お互い自分の領域はちゃんと確保してて……俺が動いても相手が動いても、どちらかの間合いに踏み込めば戦闘開始。


そんな一触即発な雰囲気だ。


「瑞智 由貴……否、覇神 由貴と呼んだ方が良いのでしょうか?……まさか、瑞智家が隠していたなんて……」


「……は?」


何だ?何の話なんだ!?ついていけない俺がいる。敵が構えて攻撃を仕掛けてくるのが、スローモーションのようにゆっくりに見える。


(どうしよう……)


何か、色々混乱していて身体が動かない。


隠すって?あんまり考えないようにしていた真実を、ガツンと突き付けられた気がした。

目の前に敵が迫る。


「由貴ジャンプ!」


背後から、そんな先輩の声が聞こえてきて俺は反射的に上へ跳んだ。その瞬間、敵が構えた槍が空を真一文字に切り裂く。


もしも、先輩の声で上に飛ばなかったら俺は今頃真っ二つ!?


そんなことを悠長に考える間もなく先輩の声がまたまた響く。


「そのまま、P + →→ + K!」


はっ!これはっ!!俺は、先輩の出した指示通りに動いた。


つまりこういうこと。


Pはパンチ

→→はスライディングで

Kはキック


最近はまっているアーケードゲームのコマンドだ!部活が終わったら先輩達と一緒にゲームセンターに立ち寄って流行の格闘ゲームをして帰るのが日課になっていた。


まさか、こんなところで役に立つなんてっ!


「余計な事を考えるなっ!今は目の前にある敵に集中しろ。剣道の試合だとでも思って、脳天にぶちかましてやれ!」


いやいや、脳天にぶちかますのは流石にまずいよ先輩。何ていったって、今俺が手にしているのは竹刀じゃなくて真剣だ。一本取るどころの問題じゃなくて命を取ってしまう。


—— って……


「ダメだろ!?」


しかも参った事に相手は女の人……非常に戦い辛いっ!


「でも、やらなきゃいけないんだよな?」


—— そう……

覚悟を決めるとはこういうこと


これはコマンドを入力すれば良いだけのゲームじゃない。

現実に起こっている。死にたくなければ、闘うしか道はないんだ。


俺は改めて、手の中にある刀の重みを感じていた。

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