⑧
「味方か……」
蕎の突然の出現に、一瞬敵が増えたのかと危惧した。だがそれが杞憂だったことが判ると、白銀は安堵の溜息を付いた。
「おいおい無視してんなよ!余裕じゃんかっ!」
言いながら、手に持っている旋棍で攻撃を仕掛けてくる。
「ちっ」
それを白銀は巧みにかわし、間合いを取る。自分の攻撃が避けられているというのにその少年はどこか楽しそうな笑みを浮かべる。しかしその笑顔は爽やかとはかけ離れており、白銀の神経を逆撫でしかしない。
「ケモノ相手とか、ビンボーくじ引いたかと思ったけど中々楽しめそうじゃん?」
「そのふざけた性根、叩きなおしてくれる!」
白銀の攻撃をかわしながら、少年がクスクス笑う。
「あはは。外見でしか判断できないなんてねぇ?向こうにいる若い娘と同じじゃん。見た目で判断すると、痛い目見るよ?」
「同感だ」
身の危険を感じたのか、白銀の言葉に少年は飛び退く。瞬間、もと居た場所は大きく抉られている。土まで赤く熱を孕んでおり、一瞬で高温で焼かれたことを生々しく物語っていた。少年の背筋に嫌な汗が流れる。
「何が神獣だよ。お前……何者だ?」
自分でも判る程に、声は震えている。
「先ほどの言葉、そのまま返そう……破魔一族の亡霊よ。見た目で判断すると痛い目を見るぞ?」
―― その笑みは、どこまでも冷たくて
「俺は鷹津嵩命。これは、俺の相棒の烈光天旋棍だ。……ねえ、あんたの正体も教えてよ」
普段の彼からは想像もつかない凄惨とも見える笑みを刷いた白銀が口を開く。その名に少年……鷹津嵩命は己の敗北を悟ったのだった。
―― 翠琉、すみません。あなたとの約束を違えます。あなたの側にいられなくなる前に、あなたの前に立ちはだかる敵を1人でも多く、屠りましょう……
今は側にいない、たった一人の尊い主に向かって白銀はそう呟いたのだった。
さて、こちらは娘にしては年端のいかない外見年齢をもう見積もっても少女の域を出ないと対峙している正宗と桜。
「お義父はん逃げてくださいって言うても、無理なんでしょうね」
視線は少女から移さず、隣で構えているであろう正宗に言う。
「心配無用じゃ。怪我が元で引退した身とはいえ、まだまだいける。それに……あやつ相手に1人は、ちいとばかり肩の荷が重かろうて」
それは決して桜の実力を甘く見ているのではなく、紛れもない真実。対峙する少女から感じる呪力は、それほどまでに巨大且つ凶悪で……生きてきた年輪の違いをまざまざと桜と正宗に見せ付ける。
「ねえ?最後のお話は済んだ?そろそろ、私と遊びましょ」
これから斬り合うとは思えない程、少女は愛くるしく無邪気に言う。
「そうだ、私……まだ名乗ってなかったわよね?此未都葵っていうのこっちは破魔武具の金剛武鞭……私が何で、貴方達の相手に選ばれたか判る?」
言うなり正宗と桜の返答も待たず、攻撃と共に花開くような鮮やかな笑みと共に言葉を続ける。
「あなたから剣の在り処を聞き出すにはさ、やっぱり一筋縄じゃ行かないでしょ?」
―― だからね、拷問してでも聞いてって導師からのお達しなの。ごめんね?
全く悪びれる様子もなく、そうのたまったのだった。
「やっぱりあんたらの狙いは、天定やね?悪いんやけど教えるわけにはいかへんわ。覚悟するんはあんさんやで?……覇神の恨み、ここではらさせてもらう!」
桜はそれまで浮かべていた笑みをすっと引くと鋭く言い放つ。それは、普段の桜からは想像出来ない激しさと強さを持っていた。
「わしもおるでな」
そう言って、正宗は瑞智家に伝わる破魔継承武具轟雷斬戟をその手に握りなおした。身長の倍はあるであろうその戟を構えて鋭い視線で相手を捉える。
図らずもこの夜、長年に渡り続いて来た忌部一族との因縁が各々の場所で終わりを迎えようとしていた。
長い夜が、幕を開けた瞬間だった。
〈第三章・了〉
[補足]
お付き合い頂き、ありがとうございます♪
さてさて大混戦模様の彼らなわけですが……
「混戦し過ぎて、訳わからんわ!」
という方の為に、ちょっとした今回のまとめを書きとめておきました☆
お役立て下さい♪
<忌部一族の里>
※[]内は破魔武具です。
由貴→[十掬剣]
青影(緋岐:ひき)→[不明]
VS.
翠琉→[神剣崇月・幻如来数珠]
赤影(紗貴:さき)→[不明]
<瑞智家>
周→[覇世神杖]
蕎→[冥旺経典]
VS.
珂倶遮命→[風霧]
白銀→[なし]
VS.
鷹津嵩命→[烈光天旋棍]
正宗→[轟雷斬戟]
桜→[なし]
VS.
此未都葵→[金剛武鞭]
戦いの勝敗や如何に!?乞うご期待!!




