⑤
「と、いうわけだ」
何が『というわけだ』なのかというと、別に過去の回想を翠琉主導でやってたんじゃないよ!
これからの説明受けてたんだ。この神社、実は覇神一族の分家のものなんだって。
ここの御神体が偶然にも鏡で!翠琉の水比奈さんが“道”を作るには持って来いの場所らしい。
で、何の準備をしていたのかというと……1人とか2人なら簡単に移動出来るらしいんだけど倍の数に膨れ上がってしまったから、その為の門を作っていたのだ。っていっても、本当に作ってるわけじゃない。
実際は何やら難しい流体文字で地面に書き殴られてるお経で作られた陣があって、その真ん中に御神体らしい鏡が置かれている。
何で目が見えてないのに文字が書けるのか。そういう問題はきっと翠琉には関係ないんだろうな。っていうか何て達筆なっ!!
「聞いていたか?由貴」
「いっ、いいともぉ~」
「は?」
しまった!地面の文字に見惚れていたせいで翠琉の言葉聞いてなかった!どうやら俺は見当違いの受け答えをしてしまったらしく、3人の冷たぁ~たい非難の視線を浴びる事になってしまった。
「良いなら行くぞ。水比奈」
(はい、翠琉さま。用意は整いましてございます)
翠琉の言葉に呼応するかのように眩い光を鏡が放った次の瞬間、水比奈さんが現れた。そして、翠琉が呪の詠唱を始めた。ポツリ、ポツリと呪に反応して翠琉が書いていた流体文字が光出す。
因みに俺達……俺と姉ちゃん……じゃなかった!
今は赤影だった!俺と赤影と青影の3人は、鏡から現れた水比奈さんと呪を唱えている翠琉の後ろに控えている感じだ。
ん?翠琉の声に、誰かの声が重なった?
俺は声のする方を見る。
何と!緋岐先輩改め青影も呪の詠唱を始めたのだ!
「繋げ、水比奈!」
呪の詠唱が終わるや否や、翠琉が叫ぶ。そういや、どこに繋ぐんだ?そんな俺の心を読んだのか、振り返り様に翠琉が不敵な笑みを浮かべて爆弾発言をかましてくれたのだった。
「言っただろ?“乗り込む”とな」
ぇえ!?聞いてないしっ!しかも、何の比喩表現じゃなくて、そのまんまの意味ですか!?
「ちょっと、待っ……」
必死の抗議も空しく、俺は初のワープ体験をする事になったのだった。
本当に一瞬だった。そこは、やっぱりどこかの神社の境内らしくて。
しかも規模が大きい。でも今の俺はそれどころじゃなくて……
「おおお~ぅ」
はっ、吐き気と眩暈がッ……例えるならば、ジェットコースターの一回転を10回ほど連続で回られた感じ?もしくは、コーヒーカップを超高速回転させて、三半規管がおかしくなった時の感覚の方が近い。翠琉、赤影に青影が普通でいられるのか、俺には不思議でならない。でも、いつまでも伸びてるわけにもいかないらしい。
「なるほど。私達が来る事が判っていながら、敢えて招き入れたか」
翠琉の視線の先を追って見てみると、そこには古風ないでたちをした男女3人が目の前に立っている。まあ、古風って意味では俺達もあんまり変わらないけど。
「ようこそ忌部の里へ。いいえ、良くぞお戻りになられました……と言った方がよろしいのでしょうか?」
「黙れ!!」
翠琉が、間髪入れずに言葉を返す。何か敵が言っている意味が良く判らないけど、でも翠琉の気に障った事だけは確かだ。
「そこ、どいてもらえないかしら?」
赤影が言うのに、今度はがたいの良いおっちゃんが応える。っていうか、あの筋肉美は敵さんながらに天晴れだ。
「見事な上腕三角二頭筋が羨ましいぜ!」
「由貴‥‥そこに“三角”必要ない。ただの【上腕二頭筋】だ。」
青影が、いつもよりちょっとだけ遠慮がちにツッコミながら、臨戦体勢に入るのが気配で判った。俺も倣って、何時でも駆け出せる様に片足を引いて腰を落とすと、十掬剣を構える。
「どくわけにはゆかぬな。是が非でも先へと申すなら、我らを倒して進むが良い」
その隣に立っていたグラマーなお姉さんが何か印を空中に描くと、それまで俺達が居た筈の境内から見知らぬ空間に移動してしまっていた。でもやっぱりどこかのお寺とか神社とか、そんな建物の前のようだ。それまで隣に在った筈の翠琉と赤影の姿がない。
「空間を切り取ったか」
隣でそう呟くように言ったのは青影だ。
「あっ、青影……」
そう呼んだ瞬間、思いっきり殴られた。
痛いって!
「そのネーミングセンス、どうにかしろ!」
俺的にはナイスでグレイトフルだと思ったんだけど、どうやら緋岐先輩としてはお気に召さなかったらしい。ちょっとショックだ。
「でさ、先輩……空間を切り取るって、何?」
「ここは、亜空間。やつ等が作り出した、奴らが主の空間だよ。つまりは……」
「そう……私達を倒さなければ、ここから出る事は出来ない」
クスクスと可笑しそうに笑う声と共に、敵が姿を現した。3人もいるって事にも驚いたけど、それよりもショックだったのは……
「なっ、何で姉ちゃん……それに翠琉まで!?」
当然だけど、俺のこの驚きに二人は応えてくれなくて。あまりの驚きに、姉ちゃんの事を“赤影”って呼ばないといけない事も忘れて、姉ちゃんって普段通りに呼んでしまった。でも、そんな細かい事を後悔している暇は、全くない。
「由貴、構えろ!」
緋岐先輩の声に、俺は反射的に十掬剣を構えていた。金属音が響き渡る。目の前にいるのは、一緒に戦うと約束したはずの翠琉だった。
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