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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第三章【理由と覚悟】
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―― ああ……


何だか翠琉の言いたい事が、判ってしまった。不謹慎だけど、少し嬉しい。

本気で俺の事を心配して言っている。


自分自身だって大変なのに……

他人を慮る余裕なんかない筈なのに……


多分、これが『神羅(しんら) 翠琉(すいる)』って人間の本質。

だから、きっと俺も放っておけないんだ。


「何がおかしい」


思わず、口元が緩んでしまっていたらしい。翠琉、ちょっと怒ってる?


「ごめん。でも、これって俺の問題でもあるんだ」


そう、多分それは翠琉と会ったあの桜の散る夜から、俺は『部外者』から『当事者』に代わった。


―― いや……

俺が知らなかっただけで、本当は最初から俺もフィールドに上に立っていたのかも知れない。


「だったら、俺は戦う。覚悟なんて、とうに出来てるよ。もう何を聞いても驚かない自信もあるし。例えば「地球は四角だった」とか聞いても、平常心でいられるし」

「いや、地球は丸いだろう?由貴、お前頭大丈夫か?」

「例えばの話だよ!」


ううっ!真面目に哀れみの目で見られると、何か心が折れそうだ……


「とにかく!知っちゃったもんは気になる!で、俺にも関係ある話なら、俺も戦う!戦える力があるのに逃げるのは、それは卑怯者のすることだ」


それに翠琉は『日常には戻れない』って言うけど、絶対にそんなことないと思うんだ。

少なくとも俺は、そんなことないって信じたい。


「翠琉にも、信じて欲しいんだよ」

「私には、戻る場所も、戻りたい『日常』もありはしない。だから私は、全てを捨てて戦える」


そう言い切れてしまう翠琉は、強いようで何だか寂しい。

でも、聞いてはいけない気がした。


気丈な言葉とは裏腹に、スゴク泣きそうに見えたから……

だから、聞けなかった。


あ、でもそうか!


「よし、判った!じゃあ、俺達と一緒に楽しくって仕方ない、帰りたくなる『日常』を作ろう!」


我ながら何てナイスでグレイトフルな案なんだろう!


「は?」

「いいか?忌部一族とやらをぶっ飛ばして、梵天と羅刹天やっつけて帰ってきたら、まず花火だ!」


ああそうだ、後少しで8月になる。そしたら、夏の祭りがぼちぼち始まる。


「祭りに行って、それから……それからカキ氷!んで、皆でバーベキューとかしてさ」


ないものは、作ってしまえば良いんだ。俺は、守りたいものがあるから戦えるんじゃないかと思う。

何もないとか、悲し過ぎる。


だって、じゃあ『戦う』っていう生きる理由が


――『梵天』っていう敵がいなくなったその後は?


その先にある未来を、翠琉は見ていない。


しかも同年代の女の子がっ!

世を儚むには、どう見積もっても60年は早過ぎる。


「な?ほら、もう出来たじゃん。作りたい『日常』が」

「……何故……」

「え?」

「何故、昨日今日あったばかりの私に、そこまで親身になれる?しかも、私はバケモノなんだぞ?」


もう、どうしてくれよう、溜息しか出ないぞこれは。どうやったら、ここまで暗い性格が出来上がるんだ?


「何回も言わせるな!翠琉は、ただの女の子!少なくとも、俺にはそう見える」


よし、決めた。

今、決めた!

翠琉が自分の事を『バケモノ』って言う間、俺は隣でずっと『ただの女の子』を連発してやる!


「とにかく、行くぞ?」

「え?私はまだ、お前の同伴を許した覚えは」

「俺は、俺自身のものだ」


頭のてっぺんから、足のつま先まで、俺自身のものなんだ。


「だから、悪いけど翠琉に俺を止める権利はないよ」


—— そう ……

“戦う術”を持たないなら致し方ない。着いて行ってもただも足手まといだ。


でも今の俺は違う。足手まといにならない為に、十掬剣を手に取った。

ちゃんと“戦う術”も持ってる。“戦う理由”だってある。“覚悟”だって俺なりにして、ここまで来たつもりだ。なら、誰にも俺の意思を止める権利はない。


観念したかのように、翠琉が溜息をついた。


やったね、俺の粘り勝ち!


「付いて来い」


言いながら、神社の境内へと続く階段を翠琉は登り出す。

その後を、俺も追うようにして付いていった。


はっきり言って、恋だの愛だのは良く判らない。敦とか蕎は「恋」だとか言ってたけど、でも俺自身はまだピンと来ない。


ただ判ってるのは、放っておけないってこと。


そして……これは、翠琉だけの戦いじゃなくて、俺の戦いでもあるってことだ。


「翠琉?」


先に歩いていた翠琉が、突然立ち止まった。不思議に思って名前を呼んでみたけど、反応がない。首を傾げながら翠琉の隣に立って、俺は思わず叫んだ。


いや、叫びかかった。


「えぇぇえぇぇええ!!?あっ‥‥ふがっ!!!??」


何で、姉ちゃんと緋岐先輩がここに!?しかも、なんで俺の口の中に黄色い大魔王が?

いやいや、その前に、その覆面マスクっぽいのはどういう趣味だよ二人ともッ


「由貴!?敵か!?大丈夫か?……貴様、何をした!」


翠琉は由貴の倒れる気配を感じた瞬間、警戒から臨戦態勢へと変わった。


「まあまあ、お嬢さん落ち着いて?私らも、ちょいとばかし、忌部さんに恨みつらみがあってね。そう、弟がやられちゃったのよ……だから、その仇討ちに行きたいの。同行させてもらえないかしら?」


—— よっ……、よくもぬけぬけとッ


スラスラと滑らかに嘘八百言いやがって、姉ちゃんの馬鹿やろ……って、え?


ガフッ!!!


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