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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第二章【星の廻り】
22/92

ホント何かいきなり色々起こっていて、状況把握が難しい。

俺は、廊下を歩きながら水比奈さんから聞いた話を頭の中でまとめていた。


『翠琉さまは、何故かあなたを巻き込まないようにしています。ですが、あなたには“力”がある』


俺の中にあるらしい


―― 何らかの方法によって隠されていた力 ――


が、どうやら神剣崇月を持った時に開放された……ってことらしい。


“らしい”ことばっかりで、何か騙されてる気分がしなくもないんだけど


信じるしかないんだよなあ


で、翠琉と水比奈さんが言ってた“忌部”について……


もとは、破魔一族なんだって。

だけど、遠い遠い昔に裏切った。


そして禁忌とされる技を使い、通常では考えられないくらい永い時を生きている。


その“技”が“魂吸(こんきゅう)

その名の通り、人の魂を喰らって生き延びている。


そのもの達が世に蔓延る負の感情 ―― 所謂“邪念”を集め闇の住人“醜”を生み出す。


生み出した“醜”は喰らうか、

はままた意思を持つ“妖”―—

……“鬼魅(きみ)”となり新たな“醜”を生み出すか。

連鎖は延々と続いている。


それが『破魔の抱える“闇”』

即ち忌部一族なのだ。


忌部一族は歴史の節々に姿を現している。

ふと皆が存在忘れた頃に、災厄を世界にもたらす。


人の心を“闇”に染める。

その度に対峙して来た。

各々の家の記録にも、忌部一族の名は刻まれている。


だが、忌部一族の里まで特定するには長年の間至らなかった。

無論その裡に宿る力も相反するものだ。


神羅、覇神一統が使う力が“守の呪”と総称するとすれば


忌部一族の有する力は“破の呪”と呼ばれる。


そして、その忌部を導いているものが……


真達羅(しんだら)、ねえ?」


“真達羅”

そう呼ばれる忌部一族の導師。


滅多に人前へ姿を現さない。

故にその存在が確かなのか真偽は判らぬままだ。


だが、真達羅は忌部一族の導師であると同時に破魔一族に伝わる大罪人であるという記録が実在する。


破魔の創始者


―― 時遡ること幾ばくか……


創始者と謂われる珠美姫(しゅびき)

その人の実弟であった真達羅は姉を喰らった。


それによって偉大なる力を得た

しかし、姉を喰らった赦し難い大罪 ――


“天つ罪”を犯したその代償は大きかった。


「漆黒の翼に第三の瞳。そして輪廻の巣からの永久追放か……」


“輪廻の巣”は俺でも知ってる!


死んだ人間の魂が一度行くところだろ?

ゲームで良くある設定だ。


まさか実在するとは思ってなかったけど。

もう本当に何でもありだよな。


もうここまで来たら『地球は四角だった』とか言い出されても

「へえ、そう」何て軽く受け流してしまえる自信があるね!


まあとりあえず今から乗り込むところは、自分の姉ちゃん喰った悪人真達羅とその手下達忌部一族がいる。ってことになるんだよな?


しかも、その忌部一族はギネス記録を軽く更新してしまうくらい、ご長寿な皆さんで生き方がちょっとワイルドかつ非道過ぎると。


うん、何か敵の事は判ったぞ。


で、問題一個。俺はその破魔武具持ってないんだよな。

まあ、当たり前なんだけどさ。

ついさっきまで破魔のはの字も知らなかったわけだし。


とにかく!乗り込むのに丸腰じゃあ、やっぱりまずいでしょ?

ってなわけで水比奈さんに教えてもらったのが、うちにある……らしい覇神一族の継承武具


十掬剣(とつかのけん)


それが、道場の上座に供えられている。


俺も聞いたときはびっくりだって!

いっつも眺めてたあの何の変哲も無い日本刀が破魔武具とは!!


何で水比奈さんが知ってるのか

俺は道場に入って納得した。


「鏡、か」


練習のとき、形を見る為に置かれている姿見。

それがちょうど上座と正反対の場所にあった。


―― 翠琉さまと共に……そう仰るのならば、十掬剣を継承なさって下さい


それが水比奈さんから出された条件。


それなら、やってやうじゃねえか

ということで今に至る。


水比奈さんが言うのも最もだと思うしな。

武器もないのにひょこひょこ付いて行っても足手まといだろ?

そうなるのは真っ平ごめんだ!


女の子の後ろでおとなしく守られるってのは性に合わない。

だったらって事で、ここに来たわけだ。


「何でこんなところに覇神一族の継承武具があるのか?」

とか

「本当に俺が使えるのか?」

とか……考え出したらそれこそきりがないくらい問題が山積みなんだけど、今は気にしてる暇はない。

あの後帰ってから直ぐに、翠琉は客間に寝かせた。


何処に行ってたのか

何を話していたのか


白銀と周にかな~りしつこく問い質されたが、帰ってしばらくして目を覚ました翠琉が間に入って何とか誤魔化せた。


—— 今夜……


皆が寝静まったら、すぐに出る予定だって水比奈さんは言ってた。


夜には翠琉が目を覚ますだろうって、だから……


『一緒に行くならそれまでに破魔武具を手に入れる』


そう約束したんだ。


「よしっ!!抜き足、差し足、千鳥足……」


気合を入れて一歩踏み出したとき……


「それを言うなら、忍び足だろうが」

「うわあ!?」


いきなり後ろから声掛けるなよなっ!

ああ、マジ怖いって……

声の主を振り返って、文句を言おうと口を開いたけど、じいちゃんのマジ顔見たら、何も言えなくなった。


「十掬剣か」


正宗がそう確認してくるのに由貴は静かに頷く。


「継承する気か」


そう問われ由貴は黙りこくる。


―― この日が来たか……


覚悟を決めて、正宗は由貴を見上げた。


「禊をして来い」

「はい?ミソギ?」

「身を清めて来いというておるのじゃ、このたわけ!」


―― スッパーン!


よっ、よりにもよって顔面直撃ですか……おじいさま……


「どっ、どうやってだよ」


うわっ、何か視線が痛い……ってちょっと!?


「なんだよ、その盛大な溜息はっ!判んねえこと訊いて何が悪いってんだよ!」

「うるさい」


―― スパーン!


ハリセン第二段かよ……いつも思うんだけどどこから出してるんだよ、そのハリセン

うう~痛い。余りの痛さにしゃがみ込んだ由貴を見据え、不安の余り二度目の溜息を付いた。


―― 案じたところで、動き出した星の廻りを止めることは叶わぬがな


無意味な杞憂でしかないことは正宗は判りきっていた。


そして、十六年前のあの日

この時が来ることは覚悟していたはずなのだ。


自分が今せねばならないことは、背を押すこと

……それも充分承知していた。


「風呂に入ればそれで良い。身を清め終えたらこれを着ろ」


そう言って手渡すのが用意してきた衣服。


「何、このへんちくりんな服」

「継承者に伝えられる守衣(しゅい)(シュイ)じゃ。これを身に纏い、もう一度道場に来い」


そう言ってじいちゃは去って行った。

何だって言うんだろう……実は、すごく気になってる事がある。


―― 俺は、本当に瑞智家の子供なのかどうか


だって、そうだろ?

俺は、滅ぼされた覇神一族の末裔だと言う。


だったら、

もしそれが本当なら

じゃあ俺は何なのかな?


分家だから、引き取ったとか?

でも、怖くて俺は聞けない。


そこに踏み込む為の、覚悟がまだ出来ない。

矛盾しているのが、自分でも判った。


でも、それでも俺は……


「じいちゃん、来たぞ?」

「お前はなんちゅう着方をしとる」


由貴は、至極真面目な面持ちで現れたのだが、いかんせん、衣服の纏い方がでたらめだった為、正宗は噴出してしまった。


「へ?いっ……いや、だって、着方わかんなかったし!」

「全く、いつまで経っても手間のかかる孫じゃの」


言いながら着付し直す正宗に気付かれないように、由貴は息と共に不安を吐き出した。


――そう、だよな。じいちゃんのとって俺は……孫、だよな?


自分の中に芽生えたわだかまりを、そうやって誤魔化したのだった。


「何をにやけておるか、馬鹿者が!」


―― ゲシッ!


「事あるごとに何で蹴るんだよっ!いてえじゃねえか!」

「ならば、もっとしっかりせんか。行くのであろう?」

「なっ、何でそれを」

「阿呆。破魔継承武具“十掬剣”をその手に欲するということは、闘う覚悟が出来たということ。そして闘う覚悟が出来たということは……」


―― 闘う相手がいるということ


「うん。……約束したから、どこに行くかは言えないけど」

「訊く気もない。始めるぞ?時間がないのだろう?」


言って、先に進む正宗の後を由貴も追う。


「座れ」


素直にその言葉に従い、由貴はそこに座す。


そして正宗も一振りの刀―――破魔継承武具“十掬剣”を挟み由貴の正面に座した。

手に持っていた祝詞を広げ、詠唱を始めた。


「匠葵耀尊の命以て

 八百万神等を神集へに集へ給ひ

 神議りに議り給ひて」


―― なっ、何だ!?このお経はっ!


いきなり始まった詠唱に由貴はただ驚くしかない。


だがこれが“継承の為の儀式”なのだと、浅はかな由貴にも理解出来た。

否、理解出来たのではない。

由貴の中に流れる“血”がそうさせたのかも知れない。


正宗の詠唱が終わると同時に、まるで最初から総てを知っていたかの如く十掬剣を手にする。

そして柄を握り鞘から抜いた。


刀身が主を待ち望んでいるかのように、闇夜に淡い光を放つ。

生唾を飲み込み覚悟を決めると由貴は今一度柄を握りなおし、自らの左手でその刀身をしっかり握った。


だが、血が滴り落ちる事はなかった。

刀身が一層激しく光る。


光が落ち着いたその時には既に刀はその場から消え失せ、左手にあるはずの傷も全く残ってはいなかった。


此れを持ちて、今より破魔東地守護総代覇神一族宗主と成り、その業を背負う事を誓う」


何故そんな言葉の羅列が澱みなく出てきたのか、由貴自身が知りたかった。

正宗も、その事に多少戸惑いを感じていた。

が、すぐに合点がいったのか一人頷いている。


―― やはり血に刻まれた記憶か。はたまた魂の因果か……


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