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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第一章【罪と罰】
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『ほら、これをあげよう‥‥布都御魂(ふつのみたま)の宿った剣だ。私の渾身の一作。切れないものはない……布都御魂劔(ふつみたまのつるぎ)という、うちの一つだ』


『―――、流石は大兄、見事な一振りだな』



億劫もなく、素直な賛辞を述べるその青年に、苦笑を漏らす。



『そう、褒めないでくれ。なんともくすぐったくて叶わない』


『だが、本当に良い刀だ』



真面目に続ける青年に溜息交じりに言う。



『その剣に認められた証拠だよ。布都御魂は主を選ぶからね。認めぬ相手が振るっても、鈍ら刀より役に立たない』



満更でもなさそうに、剣を手に取った青年は両刃の剣を翳す。

それを見やりながら、言葉を続けた。



『これには、一対の兄弟剣がある』



―― そう、その剣の名は……



「……崇月天定(すうげってんじょう)佐士布都神(さじふつのかみ)(さじふつのかみ)の宿った剣、か……?」



って俺、何言ってんだよ!

でも、何なんだ?この剣は……


俺初めて持った筈なのに異様なまでに手に馴染んでるっていうか。


唐突に、この剣が何なのか、理解した。


いや、“思い出した”か?うん、こっちの表現の方がしくりくるかな。


布都御魂のうちの一つ、佐士布都神の宿った二振りの剣から成る神剣。


それが、この崇月天定。


その片割れがこの崇月?


「お前、まさか……緒鬼嶽命(おきだけのみこと)の?」


いやいや、白銀さん?

そうボクに疑問投げられても、俺自身良く判ってないんだってば。


そのまえに、オキナントカって誰よ?


皆、固まってるし。


いやいやいや、敵さんまで固まってるっておい、どうよ?


「お前は一体……試してみるか……」


って、何試すっていうんだよ!

怖いよ、黒尽くめ鎌男っ!!!


ああ!!

寄るなっ!

黒尽くめ鎌男っ!


「あっぶないだろ!?殺す気かよ!」


「俺は、お前の敵ぞ?」


—— あ、そうか……


古今東西、敵は倒すものだって決まってるもんなあ。


ってうわっ!?

鎌大きく振りかぶりやがった!


「あっぶねえ~……って……」


うっそぉ、マジかよ、そんな馬鹿な。


確かに上に跳躍して、攻撃避けたよ?

でもさ、何で俺は浮いてるんだ?


小学校中学校の時の文集の“将来の夢”の欄に“空飛ぶ”って書き続けて来た成果?


いやいや!

あり得ねえって!


さっきから、視線が痛いっ!

何だよ、一体俺が何したっていうんだよ!


まるで珍獣扱いじゃんか!

翠琉だって周だって、空飛んでたじゃねえか!


—— そうだよ!


みんな、飛んでたじゃん!


俺なんか判ったぞ!?


「人は皆、鳥の仲間だったんだ!」


「「「んなわけあるか!!」」」


うはあ、翠琉、白銀に周のキレイなハーモニー。

でもさ、容赦のよの字もない否定しなくたってさ、いいじゃんか。


「こんな馬鹿がッ……こんな阿呆が、そうだというのか?認めぬっ!」


黒尽くめ鎌男が何かキレた!?


「うわっ!?待て!落ち着け!!話し合おう!!話せば判る!きっと判る!!」


「何を、戯言をっ、食らえ!!」


「のおおおぉおぉおお!!」


「そんな、馬鹿な……あいつが、そうだというのか?」


翠琉は、呆然と呟く。


「とにかく、助けないと!」


そう言って飛び出そうとする周を押し留めたのは、誰でもない翠琉だった。


「待て。少し、確かめたい」


「翠琉姉様!?」


白銀に支えられ、左手で周の右手をしっかり掴む。


「もしも、あいつが緒鬼嶽命だというのなら。神剣の使い手というのなら……」


そう、神剣の真の主であるならば

これくらいのことは

一人で乗り切れるはず


それが、魂に刻まれた記憶の力


「判りました」


周は、その言葉に構えた錫杖を素直に下ろした。


そう、どうこう言っても由貴に羅刹の攻撃は一切届いてはいない。

寸での所で、総て回避していた。



※※※※※※



「くそっ!」


きりがない!

避けてばっかりだと、こっちがもたねえ。


とにかく、隙ついて一気に片付けるしかねえよなっ!


「覚悟!」


大きく振りかぶりやがった!


チャンス!!



※※※※※※



由貴が懐に入り込む。


そして、ほんの一瞬生じた隙に。


―――ザシュ!


肉を斬る確かな感触……

いや、人じゃないって判ってるよ?


—— でも……


何か、やけに生々しく手にその感触が伝わってきて。

成功したことよりも人を斬った事に、俺はショックを受けてしまった。


腹を切られた羅刹は、その傷を抑えながら……


口に笑みを浮かべて立ち上がる。


「どうやら、間違いないようだな。お前は。まあいい……今日のところはこの辺でひくとしよう。次に剣交えるときを、楽しみにしているぞ」


良かった、結構思ったよりも元気そうだ!

あんまり深手にならなかったんだな、うんうん。


「おう!気を付けてな!」


「馴れ馴れしく声を掛けるな!」


言いながら黒装束の鎌男、去る。

……っていうか、消え去った。


「間違い、ない。あいつが……」


身体が揺らぐ。どこか遠くで周の必死に自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。向こうから由貴が駆け寄ってくる気配がぼんやり判る。


しかし、抗う術を見出すことが出来ずに、翠琉はそのまま意識を手放した。


―――何故、お前なんだ……由貴……


言葉にならなかったその問いに、応えはなかった。



〈第一章・了〉


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