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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 【閑話休題】
102/108

神々廻家の事情(回想)

理不尽だと思った。


本当なら、イングランドで、ばあちゃんに弟子入りしてそのまま祓魔師(エクソシスト)になれたのに……


ある日、父さんの実家だっていう京都にある“神々廻(ししば)家”から呼び出された。何故か、呼び出されたのは俺と父さんだけで……変なこともあるもんだと思いならがも、その時は、興味があったけど一度も行ったことがなかった島国に行くことが出来ると、浮かれていた。


―― のも、京都について、父さんの親……つまり、祖父さんと対面するまでの話しだった。


だいたい半日、飛行機に乗って着いた先で言われた事に、俺は猛反発した。


「話が違うだろッ!!」


言葉に苦労はしなかった。

イングランドでは、日常生活では英語。家では日本語だったから。


でも、いっその事、日本語が判らない振りでもしてれば良かった。


っていっても、父さんは生粋の日本人、母さんはハーフ、弟妹もしっかり日本語で喋れるのに、俺だけ判らないっていうのは無理な話だったんだけど……


絶対に、嫌だと思った。早く、イングランドに帰りたいって、心底思った。


―― だけど……父さんに言われた


否、謝られた。


「ごめんな?槃……まさか、今代で……」


曰く、京御三家と呼ばれる神々廻、坐神(さがみ)土御門(つちみかど)には、それぞれ真承武具(しんしょうぶぐ)を持って生まれる子どもがいるらしい。


“終止を穿つ者”が現れた時、見定める事を課せられた“選定者”……その内の一人が俺なんだと言われた。


この時、「ばあちゃんに弟子入りして祓魔師(エクソシスト)になる」っていうのは俺の夢は絶たれた。


―― そう、思ってたんだ……


(終止を穿つ者が、なんだって言うんだ!!!)


イラってした。


「“終止を穿つ者”は、死んだとされていたんだけど、どうやら隠し、守られていたようなんだよ」


12年前、東方守護総代覇神(はがみ)一族が襲撃にあって、その時に生まれた“終止を穿つ者”と推測される赤ん坊も命を落とした……とされていた。


なのに、伝説???とされる、“黒の導師”がこの間現れて、「終止を穿つ者は生きている。選定者は見定め、鍵を開けよ」って言って来たんだってさ!!胡散臭いったらねえよな。


「どこのどいつだよ。そんな大層な肩書持ってる野郎は」


知る権利があるって主張して、しつこく食い下がったら、父さんが諦めたように溜息をついて教えてくれた。


とりあえず、いきなり京都に棲むとか、東京に進学するとかいうことにはならないらしく、3日後には一度イングランドに帰ることになっている。


それも、強制的に!!

日本に引っ越す準備をするためにッ!!!


信じられないし、許せないし

―― だけど、申し訳なさそうにする父さんを責める気にもなれなくて


そうなると、自然と怒りの矛先は“終止を穿つ者”に向いた。


「ミズチ ユキ……。女かよ。……まあ、お前よりイイ女なんて、この世の中居るはずないけどな!」


そう言って見上げるのは、生まれた時からずっと一緒にいてくれる奴だ。

耳から三対の羽が生えてて、長い銀髪に翠と銀のオッドアイでめちゃくちゃ美人!!


―― なんだけど、誰にも見えてないらしい……


唯一、祓魔師のばあちゃんには見えてるみたいだな……だけど、ばあちゃんにも声は聞こえないらしく、名まえも判らない状態だ。


『このお方は、いと高き方……お前を護る為に、居てくださっているんだねえ。大事におし……きっと、お前の一生の宝物になる』


俺が小さい時、そう頭を撫でながら教えてくれた。


触れないし、声も聞こえないけど、そんなの些事だ。

そこに居てくれるだけで、すっごく嬉しいし幸せな気持ちになるんだから。


「そんな、心配そうな顔するなって!ちょっと行って、どんな(ツラ)してんのか見て来るだけだから!」


ニカッと笑ってみせてから、父さんの財布からお金を抜き取って、俺は京都を飛び出した。


今考えれば、家出だって思われても仕方ない。

これは、後々判ったことなんだけど……俺が東京に向けて意気揚々と出発したころ、京都の神々廻本家は大騒ぎだったらしい。


周りが騒ぐ中、父さんだけが全く動じてなかったらしく、「冷たい男だ」なんて言われてたけど、俺は知ってる。


父さんは俺をそれだけ信頼してくれてたんだって思うと、逆に嬉しくなった。

で、新幹線を乗り継いで東京まで出て来て……人は多いし暑いしで、更に苛々した。


今考えたら、すっごい身勝手なんだけどさ。「こんなところに俺を来させるなんて!!ろくでもない奴だ!!」って、勝手に決めつけて、嫌いになってたんだ。

しかも、名まえだけじゃなくて、ちゃんと住所まで覚えたつもりだったのに、細かい住所は結局忘れてしまってて……


新幹線の往復切符に、「ミズチ ユキ」が住んでるっていう町まで行く電車賃だけで、お金がなくなった。蝉は煩いし、喉は乾くし、もう歩けないってくらい疲れて、そこら辺にあった公園のブランコに座ってみて…‥何やってるんだろうって、無性に哀しくなった。


「大丈夫!!?」


俯いてたら、突然声をかけられた。


のっそりと顔を上げると、そこには心底心配そうな顔があって……Tシャツに短パン着てるチビだった。男なのか女なのか、イマイチ判断に困っていると、どうやら俺が気分が悪くて話せないと勘違いしたらしく、「待っててね!」と言ってどこかに走って行った。


(女子か……)


俺は、駆けて行く後ろ姿をぼんやり眺めながら、そんなことを考えていた。

自慢じゃないけど、俺の勘は外れたことがない。どんな些細なことでもだ。


―― だから、今回も外すことはないと思っていたのに……


数分も立たずに戻ってきたソイツの手に握られていたのは、濡らして絞ったハンカチだ。


「ひい兄ちゃんがね、ぼくが暑くてバターンってなった時、これしてくれたら気持よかったんだあ」

「男かよッ……」

「???どうかしたの???」

「何でもねーし」


自分の勘が外れたことに驚いた。

勘が外れたことが恥ずかしいやら、悔しいやら……思わず不貞腐れてしまった俺に構わず、ソイツは俺の首筋に濡らしたハンカチをペタッと付けてきた。


「ありがと……」


ボソッと言えば、そいつは嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「あ!!ぼくね、お姉ちゃんに水筒持たされたんだった!!はい、飲んでいいよ」


言いながら、ポシェットのように肩から下げていた水筒の蓋をキュキュッと回すと、一杯注いで差し出してきた。……なんとなく、断る理由がなくて、受け取ると更にニコニコしていて。


なんとなく、ムカッとした。


「いいよな、悩みがない奴は……」


しまったと思ってももう遅い。音になった言葉は取り消せない。

言うつもりじゃなかったのに……初対面の相手に、しかも色々と世話を焼いてくれている相手に対して、あんまりにも失礼なことを言ってしまった自覚はあった。


だから、謝ろうと思ったんだけど、先を越されてしまった。


「何か、悩み事があるの?良かったら聞くよ!!“ここであったが百年目”っていうし!!」

「それを言うなら、“ここで会ったのも何かの縁”じゃねえの?敵じゃねえし」


何だか、毒気を抜かれてしまって……

当たり障りがないように気を付けながら、俺はソイツに全部ぶちまけた。


どうせ、解決方法なんてない。

定められていたことだ。


逃げられるわけがない……でも、話してみると何だかスッキリして。


「聞いてくれて、ありがとな?何か、スッキリしたわ!!」


と、礼を言ったら、まさかの言葉が返って来た。


「あのさ、それってさ……諦めないといけないの???どっちかしか選んじゃダメだって、言われたの???」


ん???あれ????そういえば……そう思い至って、俺は思わず動きを止めてしまった。


「つまり、“このお仕事頑張りなさい!!”とは言われたけど、“こっちのなりたいものは諦めなさい”って言われたわけじゃないんでしょ?なら、全部なっちゃえばいいんじゃない???」


目からウロコとは、まさにこのことだ。

その時、漸く気が付いた。


確かに、“神々廻の選定者として終止を穿つ者も見極めろ”とは言われたけど、祓魔師になれだなんて一言も言われていない。


絶たれたと思った夢が、再度繋がった瞬間だった。


「それにさ……えっと、神主さん???になるか、神父さんになるか問題だっけ???どっちも神様のことなんだから、どっちも知ってたら“鬼に泥棒”じゃん」


「それを言うなら、“鬼に金棒”な!!?そこはかとなく残念な奴だな!?……でも、ありがとう!!!お前、すげえな!!!」


気持の赴くまま、力の限り、抱き締めたら、バンバン腕を叩かれた。


「苦しいってッ……そういや、名まえ聞いてなかったや、ぼくの名まえは瑞智(みずち) 由貴(ゆき)!キミのお名まえは?」


その名まえを聞いた瞬間の、俺の驚き……判ってくれるか?

東京に来るまで、恨みつらみをぶつけてやろうって決めてた相手が、俺自身見つけられなかった答えをサラッと見つけてくれた奴とおんなじだなんて、そんな偶然、フィクションでしかあり得ないって思ってたのに……おかしくて、楽しくて、嬉しくて……思いっきり笑ってしまった。


由貴はわけがわからずぽかんとしてたけど、そりゃそうだろうな。

もしも俺が由貴の立場だったら「笑ってないで名乗れよな!!」って、一発ぶん殴ってるところだ。


「俺の名まえは、四芝(ししば)E(エグバート)(ばん)。きっとさ、また会うことになるから……その時はよろしくな?」

「???また会うって、どうして判るの?」

「俺の勘!!」


改めて、この日、東京まで大冒険してよかったと思う。

そうじゃなけりゃ、きっと俺はスレて、不貞腐れたまんまだった。


由貴と別れてから、俺は直ぐに行動を起こした。

直談判したのだ。


それから俺は、2年の修行を詰んで晴れて祓魔師の資格を取得して、改めて日本へとやって来ることになる。


中学2年生の2学期という中途半端な時期にやって来た転校生が俺だと判り、由貴が驚きの声を上げるのを見て、ニンマリしたり顔で笑ったのだった。



〈神々廻家の事情・了〉

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