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黄昏の精霊剣士  作者: えびみそまる
第一章『渇望の国』
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第4話 再会

「俺も行くとするか。そろそろ、リュドさんと約束の時間だ」


 一日ぶりに胃にものを押し込み、心身ともに満たされたのも束の間、食事を終えたイチタは休む間もなく中央広場へと戻る。



しばらく後……。


 イチタは噴水前のベンチに座り、道行く人を観察しながら男の到着を待つ。


「やあ」

「あ、リュドさん」

「待たせて済まない」

「いえ。それより、話というのは?」

「うむ。君に一つ、見せたいものがある」

「見せたいもの?」


 リュドは神妙な面持ちでそう話すとさらに続けた。


「ああ、そろそろ始まる時間だろう。この国の現状を知ってもらうにはいい機会だ。ついてきてほしい」


 始まる……? それが何を指しているのかは分からない。ともかく、彼についていくとしよう。



 噴水前で合流した二人は、威勢の良い商人の掛け声を耳にしながら大通りを進み目的の場所へと向かう。歩きながら、リュドはイチタに質問を投げる。


「君は、ここへ来るのは初めてか?」

「はい、昨日来たばかりです」

「そうか……では、この街を見てどう思う?」

「どうって……穏やかというか、活気もあるし賑やかでいいと思います」

「表向きはな。だが、ここ数年はその安寧も乱れつつある」

「……と、言いますと?」


 リュドは話の中で、この国の歴史について語ってくれた。


 今より遥か昔に起きた人間と異種族の大戦、『逢禍の刻』。大地は荒れ、木々は朽ち果て、人々を含め数多の生物が死に絶えた。絶望に打ちひしがれる中、人々の生み出した負の感情はあろうことは別世界の魔物を呼び寄せた。幸か不幸か、予想外の第三者の乱入により戦いは激化し、互いに消耗するかたちで大戦は幕を閉じた。


 大戦後、異種族はそれぞれ散り散りとなり、人間は荒れ狂った場所に国を築いた。その当時、筆頭格だった人物が後の初代ラスタルティア王。それがこの国の成り立ち。予想外の形で戦いを終わりへと導いた存在、魔物。大戦を皮切りとし、世界に蔓延した魔物は同時に人間と異種族を結託させた。異種族を含めた人類と魔物の数百年に及ぶ戦い。人類は魔物の大半を殲滅し、残った魔物を人里離れた未開の地へと追いやった。人類は異種族と安寧の誓いを立て、人間は人間の、異種族は異種族の地へとそれぞれ分かれていった。


 話を通して、イチタは知る。今、ここがどんな世界なのか、そして何が起きているかを……。今の話の中に、イチタの中でかつて当たり前だった世界はどこにもない。


 ただ、今の平穏溢れるこの国を見て、そのような壮絶な出来事があったとは信じ難い。現状のラスタルティアを懸念に思うリュド。聞けば納得の理由がそこにはあった。


「どういう訳か、長きに渡る戦いの末に退いてきた魔物の動きがここ数年で急激に活発化してきている。遠方の諸国では、既に故郷を焼かれた者も多い。君の中でも十分、記憶に新しい出来事のはずだ」


 そう、イチタは覚えている。考えるだけでも背筋が凍る。人智を越えた力を持つ生物、魔物。それは彼の中であまりも強大で、あまりにも未知。これから先、何が起こるかは分からない。だが、もう既に自分はその渦中にいることを薄々ながら感づいていた。





 リュドに連れられるまま、イチタはある場所にやってきた。

 

 場所は市街地を抜けた先、丁度例の城の裏手に広がる野原。城の真下に広がる広大な敷地の中心にそれはどっしりと佇んでいた。

 

 巨大な壁に囲まれた円形のスタジアム。パッと見、古代ローマの貴族 ドレスコロシアムのようだ。入口上の外壁に剣と竜の描かれた赤い垂れ幕がかかっている。リュドの話によれば、今日この場所で年に一度の伝統ある祭典が開かれるらしい。

 

 場内に入ると、段々になった客席は八割方埋まっており、大勢の観客がこの華々しい祭典を今か今か待ちわびていた。二人は最前列の通路側の席に座った。

 

 祭典の開始時まで、座ったまま待機していると後から次々と客が押し寄せ、始まる頃にはほぼ満席状態だ。

 

ーーブォーン。


 そうこうしている内に、祭典の始まりを告げるファンファーレが鳴らされる。数秒して、正面の客席の下にあるゲートから重厚な鎧を着込んだ一人の青年が剣を片手にやって来る。

 

 青年は場の中央に移動すると、剣を掲げ声高らかに宣言した。

 

「我が名はエルマー。騎士の誇りにかけて、必ずや悪しき魔物の首を聡明で麗しきベルエッタ陛下に捧げよう!」


 その宣言を受けて、会場の熱が一気に高ぶる。場はまさに狂喜乱舞の大盛り上がりだ。

 

 その熱風にのまれそうになっていると、横からリュドが説明を加えた。

 

「この祭典は、王国の力強さや民衆の気高さを鼓舞する場であると同時に、女王直属のラドメッダ騎士団の入団試験も兼ねている。クニビトにとっては、待ち望んでいた年に一度の目玉の日さ。世界に魔物が現れて以降、彼らはこの国を魔の手から守り続けてきた。まさに英雄という訳だ」

 

 国の成り立ち、魔物との関わり。歴史を紐解けば、この熱狂ぶりにも納得がいく。会場の熱風に飲まれ、自然と心身が高ぶるのを感じる。

 

ーーガシャン。


 すると、今度はこちら側の観客席の真横にある鉄格子の扉が開く。中からぬぅっと出てきたのはこれまた巨大な体躯を持ち合わせた一体の生物。太く短い後ろ脚でのそのそと二足歩行しながら前へ前へと進んでいく。

 

 特筆すべき点は体のでかさだけではない。背中に覆われた長い棘。毛のように見えて、その先端の鋭さはアイスピックに引けを取らない。

 

「奴の名はジャゴアシ。王都から北東に位置するガルガイヤ砂原に生息する魔獣だ。動きは鈍重だが、見て分かるように頑強な鎧と強靭な棘を有している。攻守ともに抜かりなく仕上げられたそれはまさに歩く要塞だ」


 リュドの言う通り、生身の人間が太刀打ちするにはあまりにも無謀な相手と言える。ヤマアラシと亀を掛け合わせたかのようなその生物は、様子を窺いながら青年の周りをゆっくりと旋回する。それに合わせて青年も剣を構えながら慎重に間合いを取る。


 場に緊張が走る。お互いに踏み込める隙を見計らい絶妙な駆け引きの中、戦いが進行していく。

 

ーーゴァッ!


 先に動いたのはジャゴアシの方だ。両爪を立てながら彼に向かって突進する。

 

「くっ!」

「おおっ!」


 青年は間一髪のところでその攻撃を躱し、すかさずサイドから攻撃に転ずる。

 

ーーガキン。


 だが、彼の渾身の一撃はむなしくもその硬い鱗にはじかれてしまった。歩く要塞の名の通り、そう易々と物理突破できるほど容易な相手ではない。

 

 青年は続けて連撃を繰り出す。それでも、誓いを込めた刃の切っ先は一寸も魔物を貫くことはない。

 

 ジャゴアシは体を大きく回転させると、その太い尻尾をしならせ、左から青年に向かって叩きつけた。

 

 青年はギリギリ盾で身を守るも、その一撃は想像以上に重く、そのまま吹き飛ばされる。会場は一瞬ざわめいたが、青年はすぐに立ち上がり今度は走りながら魔物の背後に回る。奴の背中は棘に覆われていて攻撃はできない。剣を構えたまま、青年は魔物の背後でじっと背中を睨み続ける。

 

 魔物がゆっくりと振り向いた刹那。青年は振り向きざまの隙をついて奴の懐に潜り込む。そして、そのまま剣を大きく振り上げ、その勢いでジャゴアシの胸を斬りつけた。

 

ーーガァッ。


 ジャゴアシは、悶え声と共に天を仰ぐと、ふらふらと後ろによろめきながら、地面に倒れた。

 

「勝った……」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」


 彼の勝利を目の当たりにし、再び会場に歓声が沸き起こる。歓喜の突風に上乗せして、口笛や称賛の声が飛び交う。

 

 青年も両手を上げ、客席からの愛に応えた。

 

ーーピクッ。


「ん?」


 見間違いではない。歓声に紛れながら届いた微動。それは悪魔が再び目覚めることを知らせる予兆とも言えた。そして、すぐに現実のものとなる。

 

 その恐怖はすぐにこの場にいるもの全員に伝わった。歓声が一斉に止み、人々の顔が徐々に青ざめていく。異変に気付いた青年は背後からの殺意を感じ取ったのか瞬時に振り返る。

 

 ……が、遅かった。

 

 青年が振り返った時。既に完全復活した奴がそこにいた。

 

ーー

 

「ぐわっ!」

 

 振り払った腕を防ぐ間もなく直撃し、青年は吹き飛ばされながら壁に激突した。

 

「ううっ……」


 青年は壁の前でうずくまったまま動かない。最初のように盾で受け切ることも間に合わなかったため、かなりの致命傷だ。

 

 ジャゴアシは瀕死の彼に近づくと、再び腕を振り上げた。

 

「嘘……だろ?」

 

 そこからどんな結末になるかは、容易に想像できた。客席から悲鳴の声が上がる。


 この場にいる誰もが、彼の死を予見した。

 

 ……と、その時だった。


「見つけた!」


 客席の通路を駆け抜けながら、何者かがイチタの横を通り過ぎる。ただ、その声はどこかで聞いた覚えがあった。

 

 突如、会場に乱入したその人物は、何の躊躇もなく修羅場に降り立つと、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「あ、あの子は……」


 白髪のロングヘアに翡翠の瞳。そして、背中に秘めたその白銀の剣。

 

 間違いなく、それは森で出会ったあの時の少女だった。


 「どうしてここに……」

 

 突然の乱入者に、会場がざわざわする。

 

ーー誰だ? あの子。


ーーもしかして、何かの演出?


ーーでも、結構かわいいじゃん。


 会場のあちこちから彼女に対する感想が飛んでくる。イチタにもなぜ、彼女がここにいるのか分からない。が、そんなことよりも、今あの場に入るのは危険すぎる。

 

 案の定、ジャゴアシは予想外の乱入者に気がついた。振り上げたままの腕をゆっくりと下ろすと、後ろにいる少女へと体の向きを変える。

 

 牙を剥きながら喉音を鳴らし、明らかな敵対意識を持っている。その殺意は青年に向けていたもの以上に強い意思だ。

 

 ジャゴアシは今までに見せなかった。四足歩行の体勢を取ると、地面に爪を食い込ませ、勢いに任せてダッシュした。

 

 魔物の猛襲を受けてなお、少女は眉一つ動かさずに奴の行動を冷静に注視する。一定の距離まで詰まると、少女は背中の剣を引き抜いた。 

 

 少女は微動だにすることなく、落ち着いたまま奴との戦闘に臨む。魔物との距離がさらに縮まる。長い爪を持つ腕が届く範囲まで寄ると、ジャゴアシはその腕を大きく上げ、少女に目掛けて勢いよく振り下ろした。

 

ーーズドン。


 例のごとく、少女は宙を舞いながらするりと身を翻して攻撃を難なく躱す。ジャゴアシは続けざまに攻撃を繰り出すも全て彼女にいなされてしまう。その圧倒的な身のこなしと跳躍力を見て、会場からまた新たに歓声が湧き起こる。

 

 なかなか攻撃が当たらないことにしびれを切らした魔物は今までと違う動きを見せた。体を小刻みに揺らすとくるりと背中を向け、左右に激しく揺らす。そして、四股を踏むように足を地面に叩きつけた。その拍子で背中の棘がまるで弾丸のように一直線に飛んでいく。

 

 だが、奥の手として見せたその技も、彼女の前には無駄な小細工であることを知る。少女は特別大きな動きもなく、自分に向かって飛んできた一本目を上体を軽く傾けることで躱し、続けて飛んできた二本目を半身で避ける。棘は彼女に致命傷を負わせることもないまま、背後にある観客席の壁に突き刺さった。

 

 魔物は少女が無傷であることを確認すると、爪で地面を掻き荒ぶった様子で猛突進した。

 

 少女は剣を構える。ただ、少しだけその型が変わる。下に向けた剣先をやや後ろ寄りに向け、重心を深く落とす。そして、今度は自分からダッシュして迫り来るジャゴアシの懐に潜り込むと大きく剣を薙ぎ払った。

 

 魔物の動きが止まる。断末魔すら響くことのないまま、今度こそ力尽きた。


 少女は何事もなく、剣を鞘に納める。それはまさに、森の中で見たあの時の再現であった。会場が少女を称える拍手と声で埋め尽くされる中、イチタの頭に駆け巡るある予感。今ここで行かなければ、もう二度と彼女と会うことはないかもしれない。せめてあの時の礼くらいは伝えておきたい。


 イチタはこの機会を逃すまいと気づいたときには体が自然に動いていた。

 

 観客席を飛び出し、少女のいる場内に入る。当然、ギャラリーから戸惑いの声が聞こえてくるが、今はそんなのお構いなしだ。イチタは魔物の亡骸の横で立ち尽くす少女の元へ急いで駆け寄る。


 「あ、あの!」


 イチタの一言に、彼女は振り向いた。

 

「また会えるとは思ってなかったから、今すげぇどぎまぎしてる。さっきはその……言いそびれちゃってごめん。君がいなかったら俺、どうなっていたことか……」


 少女は無言のまま、イチタを見つめる。

 

「だから、言わせてくれ。あの時は、助けてくれてありがとう」

 

 すると、彼女の口から、予想外の言葉が返ってきた。

 

「……誰?」

「へ?」


 少女はまさに「どちら様?」といった感じで、言葉で応じることもなく彼をあしらう。


「もしかしてだけど……覚えてない?」

「?」


 少女は首を傾げる。イチタは手ごたえのある反応を得るために、もう一押しする。


「いや、ほら! あの時、俺が森の中で怪物に襲われそうになってたところを、君に助けてもらっただろ?」

「私、あなたを助けた覚えなんてないけど」


 その様子からして、嘘をついているようには見えない。本当に覚えていないのか?

 

 想定していなかった返答に困惑し、どう収拾つければいいのやら……。途端にこの場にいる意味が分からなくなった。

 

 それでも、こうしてまた出会えて、直接お礼を伝えることができただけで、イチタは少しばかり満足していた。

 

ーーガチャン。


「な、なんだ?」


 ゲートの向こうから、ぞろぞろと場内に複数人の男が入ってくる。カチャカチャと鎧の金属部がこすれる音を鳴らしながら、堂々と土埃舞う地面を闊歩する。遠目でも、その威圧感は伝わる。雰囲気からして、この祭典の関係者達だ。さらに後から医療班らしき人達も登場。壁際で倒れた青年をタンカに乗せ、向こうへ運び込んでいった。

 

「お前ら、そこから動くな」


 先頭にいる目元にキズのついた屈強な男が険しい表情で二人を凝視する。近くに横たわった魔物に視線を移すと、腕組をし淡々と分析する。

 

「首筋に相当な深い傷。頑強な鱗ごと斬り裂いたところを見るに、並大抵の剣裁きではないな」

 

 重低音の響いた、やたらと説得力のある声色で男は語り出した。

 

「だが、闘技場祭典規定により、部外者による闘技場内の乱入は絶対的な禁止事項となっている。ここは伝統ある祭典の場。故に、それを乱したお前たちは即刻処罰の対象だ。大人しく、こちらに従ってもらう。


 男は静かながらも、圧のこもった態度で二人に詰め寄る。何とか許しを得ることはできないか。切迫した数秒、どうにも覆しようのないピンチに、イチタの心境は乱れに乱れていた。


「ちょいと、失礼」

「お前は……」


 男の視線が二人のすぐ後ろへ向けられる。イチタが追って振り返ると、そこにはリュドがいた。深々と頭を下げ、礼を持ってこの場にはせ参じる。

 

「久しぶりだな。ギルバード殿」


 ギルバードという名の男は一瞬眉を顰めると、その表情とは裏腹に平坦な口ぶりで話を続けた。


「来ていたのか……お前にしては珍しいこともあるもんだ」

「相変わらず素っ気ないねぇ。せっかく大親友が訪ねてきたってのに……」

「そっちこそ魔物退治は上手くやっているようだな」

「有望な新人が集まったおかげさ。ただ、現状の体制では我々の力を十分にお見せすることができないのが、少々残念ではあるがね」

「お前らの基準でそう簡単に事が運ぶと思うな」

「おっと、こりゃまた手厳しい。ここは昔のよしみで、一度くらい上に掛け合ってくれても良いようなものを……」

「お前のことだ。どうせすぐに粗が目立つ。それで?何の用だ。 わざわざ挨拶だけしに来たわけじゃあるまい」

「もちろん。本題は別にありましてな」

「ほう? 言ってみろ」

「では単刀直入に……彼らを許してほしい。当然ながら、貴重な祭典に乱入したことは私の方から謝罪しよう」

「なぜお前がそんな気を回す?」

「そこにいる少年は一時的に私の方で預かっていてね。今日は共にこの祭典に足を運んだというわけさ」

「何のために?」

「もちろん、後学のためさ」

「その割には、随分と躾がなっていないな。教える順番が逆だろうが、まあそれはいい。貴様にどんな考えがあろうと、祭典に割り込んだ以上はそれ相応の処罰を下す必要がある。これは、義と美徳を重んじる騎士団の長である私に課せられた使命だ」

「ならばその処遇とやら、私の方で任せてほしい」

「何?」


 そこから数秒、ギルバードは口を噤んだ。場の緊張がさらに高まる。リュドも彼の心を動かすため、何かしら手繰り寄せようとしているのは、言葉の節々に感じる。


「先ほども伝えた通り、今回の乱入騒動は彼を闘技場に招き入れた私の責任だ。事情は不明だが、祭典に割り込んでしまった以上、弁明の余地もない」

「……なるほどな。私がどう判断するかはさておき、そこの小僧について、一応は理解した。だが、そっちの女はどうだ? お前は先ほど、二人を解放しろと言ったな。話を聞く分には、少なくともこの女に肩入れする義理などないように思えるが?」


 ギルバードは正論じみた物言いで彼に追及した。しかし、リュド。これにはまったく

動じず、ここぞとばかりに自身の誠意を前面に突き出していく。


「いいやギルバード。君は分かっているはずだ」


 リュドの目が、今までにない真剣なものへと変わる。ギルバードは眉間にしわを寄せ、彼を見つめ返した。

 

「確かに、私はそちらのお嬢さんのことは何も知らない。しかし、彼女はこれだけ狂暴な魔物をいとも簡単に仕留めた上、勇敢な騎士の窮地に駆け付けた。そして私はこの場に討伐団の長という立場で来ている。今回の彼らの粗相に対し、全身全霊の誠意を込め、全ての責任を背負うつもりでここに立っている。君も一組織をまとめ上げる立場ならお分かりだろう」


 ギルバードは彼の巧みなまでの熱弁を鬱陶しそうにしながらも、その言い分に口をはさむことなく黙って耳を傾ける。ついさっきまでの一方的な姿勢が和らいでいるように見えた。


「……変わらないな。お前は昔から」


 ギルバードはそれ以上何も言うことはなく、眼前にたたずむイチタとセリカを見つめた。

 

「失礼します」


 すると、奥から別の兵士がやってきた。ギルバードのところまで近寄ると、何やら彼に耳打ちしている。その後、兵士は深々と頭を下げ、何事もなく去って行った。

 

「女王陛下がお呼びだ。お前の最終的な処遇については、謁見の間にて判断されることになるだろう。ついてこい」

 

 たどり着くは生か死か。男の背に続いた先で、それが決定する。三人は宮殿の中へと向かった。

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