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新説 源氏物語  作者: 杉勝啓
1/8

紫式部

一条天皇の御代のことです。


琵琶湖の底には人魚が暮らしていました。

今日は人魚の王家の末の姫の16歳の誕生日です。


人魚の少女たちは16歳になると地上に出ることが許されていました。


姫はずっと湖の底にいたので、地上がどんなところか楽しみで仕方ありません。しかし、先に地上に行ったことのあるお姉さんたちは地上なんかつまらないよと言うのでした。


「だって、人間には私達は見えないし、話しかけても人間にはきこえないのだもの」


それでも、末の姫はワクワクしながら地上に出ました。お姉さんたちの言う通り、人魚姫が話しかけても返事をする人間はいません。やっぱり、お姉さんたちの言うとおりだと思い、湖の底へ帰ろうとしたときです。


「あ!お魚」


声がしました。振り向くと可愛らしい少女がいました。


「あなた、私が見えるの」


少女はうなずきました。


「あなた、上は人なのに、どうして、下はお魚なの?」


「う~ん、私は人魚なの」


「あっ、聞いたことがある。お父様がいつか話してくれたお話があるの。でも、そのお話はとても悲しいお話なの」


「悲しい・・お話・・どんな・・」


「あのね、美しい人魚のお姫様が人間の人に恋をするのだけれど、その恋は叶わなくて、人魚のお姫様は泡になって消えてしまうの」


「それは悲しいお話ね」




二人は時が経つのも忘れて、お互いに知っているお話を語り合いました。


「あっ、そろそろ、帰らなくちゃ」


「ねえ、明日もまた会える。ここで待っているから」


少女はうなずきながら帰っていきました。


それから、何日も、二人はおしゃべりをして楽しい日々を過ごしました。




ところが、ある日、少女は待っても待っても人魚の姫と約束した場所にきませんでした。心配になった人魚の姫は少女の家に行こうと思いました。少女の家は教えてもらっていたのですが、人魚姫には足がないので、行くことができません。そこで、海に住む魔女に足をもらいました。そのかわりに人魚は魔女に声を奪われてしまいました。




少女はそれほど裕福ではないけれど、貴族の姫でした。その家の者が話しています。


「姫様はもう助からないだろう。まだ、お小さいのに可哀想に」


人魚姫は、少女の寝ている部屋に行きました。少女は重い病に侵されていました。


苦しそうにしている姫をなんとかして助けられないだろうかと思った人魚の姫は思い当たりました。人魚の肉を食べると不老不死になると。なら、自分の肉を食べさせれば元気になるのではと・・少女の部屋にあったハサミで自分の肉を切り取り、自分の肉を少女の口にに含ませました。




翌朝、少女は、健康を取り戻しました。家の者は奇跡だと喜んでいます。しかし、声を失った人魚姫はもう少女と楽しいおしゃべりはできないのです。人魚姫は少女の前から姿を消しました。




何年もの年が過ぎました。少女は成長して女になりました。結婚して子供ももうけましたが、夫には先立たれてしまいました。




女はつれづれな慰めにかって、幼い日に人魚と話し合った物語を綴り始めました。その物語は評判を呼びました。その評判をきいた大臣がこのたび、女御として入内することになった娘に仕えないかといってきました。女は物語を綴るにも貴重な紙が手に入ると聞いてその話をうけました。そして、女御様に様々な話をして差し上げました。女の綴った物語はどれも面白かったのですが、中でも光るように美しい皇子様の話は人気をよびました。




やがて、女は臨終を迎えました。


「よかった。私は幼い頃、人魚の肉を食べてしまったと思ったけど、あれは夢だったのよね。こうして死ぬことができるのだもの」




「いいえ・・あなたは不老不死なのです」


「あ・・・あなたはあの時の人魚なの」


「ええ、魔女が死んで、声が戻ったので、お話できるようになりました」


「あなたの綴った物語は千年先までも人々を感動させるのです」


「ありがとう。もっとおはなしたかったけれど・・・」




女は息をひきとりました。

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