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【完結済】この終末は成り行きで(C1)  作者: 高山 理図
Chapter 3 それぞれの生き方
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28話 奇襲

 アウロラとイリアは木々に紛れて移動し、騎士団の追跡を振り切った。

 今は辺境の森の奥深く、どこまでも続く一本道を歩いている。


「もう追ってこないよ」


 このあたりは『神聖なる光の集会』とは異なる宗教管区の土地だ。

 管轄が違うため、ここまできたら聖騎士も追ってくることができない。

 ひとまずの脅威は去ったとはいえ、本格的に二人は根無し草になってしまった。

 飲まず食わずで逃げていたので、小川のほとりで休息をとる。


「ここを抜けたら、小さな町があるみたいよ」


 イリアは邪神からもらった地図を広げてアウロラに告げる。

 それは不思議な地図で、現在地点とこれから向かうべき方角を示してくれ、裏面に広域図、表面に詳細図が表示される。

 方向音痴のアウロラでも着くように、注意書きや所要時間まで浮かび上がる。


「歩き疲れたね。宿に泊まろう。その後は、落ち着くまで物件を探すかな」

「私達そういえば未成年だよね……賃貸物件借りれるんだっけ?」

「金貨があればいけるでしょ」

「そうだ、金貨。持ってたら危ないから銀行に預けておこうか」


 長閑に白雲の浮かんだ、まだ青く透き通った空をアウロラはついつい見上げてしまう。

 新生活の段取りを考えている間にも、どうしても気になる。

 この空を守っている邪神は、今どこで何をしているのだろう。

 主神と戦って無事で済むのだろうか。


 終末をもたらす邪神が、終末を回避するために神々の長と戦ってくれる。

 なんだかあべこべのようでもあるが、今の邪神は人々の味方のようにみえる。


「邪神さん、まだ負けてないんだよね」

「まだ空から火が降ってきたり、ヤバい感じもしてないし。邪神様以外の神様が来たら、すぐわかると思う」


 主神に勝てると言っていた彼の自信が慢心でないことを祈る。

 彼の力に縋り、彼を信じるしかない。


「嵐の前の静けさだよね……」


 イリアはぼんやりと空を眺めている。

 この緊迫した状況はいつまで続くのだろう。

 決着がつくのはいつ?

 そう思うと、二人共やりきれない気分になる。


「暗くなる前に町に入ろう。暗くなると野生動物や魔物が出るでしょ。私達が元気でないと、邪神様が悲しむよ」

「邪神さんは悲しまないよ」

「どこかで見ておられるかもしれないから、気が散らないようにしないと」

「……だね」


 アウロラとイリアは疲れた足と萎える心を奮い立たせ、早足に先を急いだ。


 ◆


 エルは宇宙空間で転移術を駆使し、主神オメガの世界へとたどり着いた。

 認識阻害の神術を重ねがけしたうえで、オメガの世界に単身侵入する。

 他神の世界には空間の膜を切り開いて入るが、管理者は膜の状態にセンサーを巡らせて常に察知することができるため、少しでも膜に触れると気づかれる。

 エルは量子転移と相転移を用いて膜の内側に「出現」する。

 膜を乱さない巧妙な手口を用いたので、オメガには検知されなかった。


(これか……)


 幾つもの巨大な星系がエルの目を奪う。

 オメガの世界は複数の銀河系にわたる広大なもので、確かに規模だけはエルの知る限り最大の世界を作ろうとしているようだ。

 エルはオメガの世界に入るなり、転移を使ってオメガの神殿へと一気に距離を詰める。


 オメガの側近ともいえる神々は二百柱程度。

 職能神らが労働力を供するために集められ、オメガは玉座で世界の創造に没頭していた。

 エルは完璧な認識阻害を解き、オメガの玉座の前に降り立った。


「誰かと思えば、エルではないか」


 表面上は穏便にしながらも、オメガの瞳には敵意が見える。

 ヴァッソの報告が耳に入っていたのだろう。

 エルは無感情に、しかし蔑むようにオメガを見下ろす。


「それだけの手勢を集めて俺を指名しなければ手が足りないか?」

「これは手厳しい。ぜひとも万能神に見本を見せてもらいたいものだな」


 オメガは玉座から離れ、エルと事を構えるために絢爛豪華な上着を脱ぎ捨てる。


「エルだ……」

「万能のエルか。一万年ぶりか」

「どこにいたんだ」


 神殿に会した神々は騒然とする。

 旧い神々はエルの出現に騒然となるが、若い神は彼を知らない者もいる。


「何をそんなに騒ぎ立てることがある」

「万能の才に恵まれたエルの器量も武力も、オメガを凌駕するからだ」


 何しろエルは数々の伝説を持ち主神の格を認められながらも、目立つことを嫌い、小さな星を管理し隠居していたと言われている。

 さらにここ最近の消息は知られていなかった。


「ヴァッソをよこして俺に終末の即時執行を命じたな」


 エルは真偽を確かめるようにオメガに問いただす。


「拒否したとも聞いている」

「それで済むならそうと言え」

「愚か者め。ただでは済まんよ」

「だろうな」


 エルは空間を撫でるように切り裂いて破滅を齎す黒い大剣を手にし、オメガののど首に触れるかの距離で顕にした。


「ならば斬り捨てるまで」


 オメガは転移をかけてエルから距離をとる。


「エル!」

「貴様あッ!」


 オメガの側近数十柱は即時に武器を手にし、エルに襲いかかってきた。

 対オメガ戦で全勝という過去のエルの戦歴を知る者は、主神との一対一には持ち込ませたくないだろう。


「主神を襲うとは、血迷いましたか!!」


 先駆けは守護の神ミラ。

 神盾で防護壁を作り出し、エルの黒剣の神威を無効化しようとする。


「どけ」


 エルは神盾ごと黒剣で切り裂き、十重二十重に拓かれた防護壁を一閃で切り捨て、ミラも切り捨てた。ミラは盾を失いエルの神力に焼かれて蒸発し、秒ももたず大気へと還される。


「おのれエル。やったな……!」


 二の手は戦神アルノ、追尾性能のある火器でエルに集中砲火をかける。

 エルは高速転移を繰り返し弾道を誘導し、敵軍に衝突させる。

 これまでの振る舞いが嘘のように、不死身の神々を相手に、エルは容赦しない。

 その他大勢の神々をひと薙ぎで蹴散らし、超高温で焼き尽くす。

 エルの鍛えた黒剣に断たれた者は、魂まで分解される。

 職能神はやがて数千年もの時を経て蘇るが、その時には別の神格となる。実質の死だ。

 蓄えに蓄えておいた神力を原資に黒剣の性能が最大限に発揮されるのは、終末の時ぐらいだ。


 エルは素手でオメガの首を捕らえると、そのままオメガを巻き込んで外宇宙へと転移をかけ、これ以上の犠牲を避けるために取り巻きの神々から孤立させる。

 外宇宙に転移したと同時、元素分解の神術を発動。


【元素分解】


 オメガが反撃を企てる以前に決着を図る。

 エルは元素分解を加えながら質量攻撃を重ねがけし、異なる次元へと断片を飛ばす。

 オメガの身は引きちぎれ、物理的に再生できない状態で削り取られてゆく。

 それで気を引いている間に、更にもう一手を撃つ。

 オメガの空間を宇宙紐コズミックストリングでぐるりと括って切り離す。

 空間内に存在する事象は、何者も逃れることはできない。


【現事象を確定】 


 時空神でもあったエルは、空間を自在に操ることができた。

 節約を重ね蓄えてきた万能の力を惜しみなく発揮する。

 切離された空間から空間転移を使って同空間に戻ってくることはできない。

 戻ってきたとしても、そこは異なる時空になっている。

 決着はついた。


「愚か者はそちらだったようだな」


 エルがひとたび相手を加害すると決めたら、完膚なきまでに叩き潰す。

 常勝の彼に、誰も勝つことはできなかった。

 エルとオメガを追って外宇宙へ転移してきた神々も、既に決着がついたことを見届けるほかになかった。


「エル……お前……」


 お手並み拝見などと言っていたヴァッソが吠え面をかいている。

 オメガと一騎打ちで破れた以上、エルを主神と認めなければならない。


「オメガは滅ぼした。あんたらは降るか、今すぐ叛逆して散るか選べ」


 この瞬間に、万能神エルは主神を襲名した。


「旧律法を廃止、新律法を定める。従わぬものは今すぐ名乗り出よ」


 個々の神々の拓く世界に、開拓者の自治権を認めること。

 他神の世界を侵害しないこと。

 エルはたった二つだけの律法を定めた。

 あまりに自由すぎる律法に、ヴァッソも含め全神は新律法を反対皆無で受け入れた。


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