ある日、私は突然ヒヨコになった。
ショートショートの作品です。特に何も考えず書いているので何も考えず読んでください。
いつものように気だるい眠りから目が覚めた。虚ろな目で部屋を見渡すと、自分がヒヨコになっていることに気がついた。驚きと不安で、声も出ずにただ座り込んでいた。
そんな私に向かって、飼い猫のミケがにじり寄ってきた。ミケは私を見て、不思議そうな顔をしていた。私は咄嗟に話しかけてみたが彼女からのリアクションはなく、ただ見つめられていた。
私を食べたりしないか一抹の不安を覚えたが、彼女は私の近くでくつろぎ始めた。どうやら彼女はこのヒヨコを私だと認めたようだった。私は、どうやって元の姿に戻れるのかと思考をめぐらしていたが、彼女の体毛に包まれるとどんな悩みも消えてしまった。
私は彼女と一緒に生活する中で、自分がヒヨコだということを受け入れるようになった。元の姿に戻れることはないかもしれないが、彼女との日々を大切に過ごしていこうと思った。案外キャットフードも悪くないものだ。
ある日、私は部屋の窓から外を眺めていた。窓の外には鳥たちが飛び回っていた。その中で一羽の小鳥が私に気がついたようで、窓際に止まって私を見つめていた。
私はその小鳥に興味を持ち、窓を開け迎え入れた。小鳥は私に近寄ってきて、鳴き声を聞かせてくれた。私も小鳥に話しかけたが、当然のように通じるはずがなかった。試しにピヨと鳴いてみた。手応えはなかったがとても恥ずかしい気持ちにだけはなった。
しかし、その小鳥との出会いが私の運命を変えた。ある朝小鳥たちは机の上の書類の山を崩した。挟まっていたペンで巣でも作りたかったのかと考えたが、無性にタバコとコーヒーが欲しくなった。
崩れた書類の山に目を通すと事の発端である契約書が目に入った。私は記憶を辿っていくと、ある実験に参加したことが原因だと思い当たった。その契約書には、この実験の危険性について記載されていた。私は悔やんでも悔やみきれなかった。
しかし、私はその原因を見つけた。彼女の胸の中で眠る一時とは別れなければならないが、私は決意を固め、その実験の主催者に連絡をし、彼らに人間に戻る方法を尋ねた。
主催者は私に対して、新しい実験に参加してもらうことを提案してきた。しかし、私は再び危険な実験に参加することには躊躇した。
それからは、自分自身の力で人間に戻ることを決意した。それから、私はヨガや瞑想などの方法を試してみた。時に極上の体毛に癒され、時に小鳥たちとの会話に混ざってみた。
1か月が過ぎた頃、いつものように気持ちが良い朝を迎えた私はミケを見下ろし、はっきりとした目で部屋を見渡した。私は、ついに人間に戻ることができた。
私はミケと小鳥達に感謝の気持ちを伝え、今後は再び危険な実験に参加することはないことを誓った。部屋の惨状はいたし方ない。地道に片付けるとするか、人間らしい生活を送らなけ…
ピローン
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「この度は、我が社の福利厚生プログラム『傷病休暇の快適な過ごし方Ⅲ』をご利用いただき誠にありがとうございます。バイタル、メンタル共に正常値まで快復したようで何よりです。つきましては明日以降のお客様のご予定を頂戴しておりますのでお伝えします。朝8時30分より第3会議場にて指標会議、10時より…」
最後まで読んでいただきありがとうございます。現実逃避は一時的にしても大変に後が大変になるだけですね。
ただ、ヒヨコになって猫に甘やかされる経験は最も有意義であり最上の癒しだと思う。