桃原エリン 映画部のお悩み相談
「ねぇ先輩。友達ってどう作るんですか......?」
いつもはもう少し賑やかな部室だけど、今は私とみよ先輩の二人きり。だから、ちょっとした悩みを打ち明けてみた。
「えっ、友達?」
私の質問に対して、ピンク色のポニーテールが揺れて、びっくりした顔がこちらを見た。
「びっくりしちゃった。えっとね、お喋りして、一緒に居たら友達なんじゃないかなーなんて」
説得力なくてごめんね、と手を合わせるみよ先輩。とっても明るいけど、時々隠れて何かしている、ちょっとミステリアスな人だ。
「えーと、そうじゃなくて......親友って言うのかな......リオ先輩とみよ先輩みたいな。なんでも話せるというか......信頼の置けるというか」
上手く言葉にできなくて、悩んでいると、「とりあえず、座ろっか」と、みよ先輩が微笑んだ。
「友達じゃなくて、親友を作りたいってこと?」
姉妹のいるクラスメイトが話しているみたいに、優しく、噛み砕きながら先輩が話す。
「こう、気楽に話せる仲から進展したいんですけど......」
これは星花に来る前から悩んでいたこと。誰とでも楽しく過ごせるし、遊ぶことだってできるけど、どこか物足りなく感じていた。友達なんて浅い関係じゃなくて、いろんなことを話せるような、親密な関係になりたい。
環境が変わればもしかしてと期待したけど、星花女子は中高一貫、もっと幼い時からの深い仲だっている。
そのグループに割り込む勇気を、私は持っていなかった。
みよ先輩は静かに相槌を打ちながら、言葉を選んでいるようだった。
「いい人止まりじゃ嫌、みたいなことでオッケー?」
頷くと、どことない達成感が先輩の瞳に見えた。
「エリンちゃんは自分のことって話す?」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ、そのもっと親密になりたい人のこと、どれくらい知ってる?」
「えーと......」
どのくらいと言われると、答えられない。私は親密な関係になりたくて......えっと......
「エリンちゃんはさ」先輩が優しく話し始める。
「多分みんなと、友達以上になろうとしてるんだね」
よくわからないけど、そうなのかもしれない。誰って言われると、特に誰ともってなるし......
「そうなんでしょうか......?」
「エリンちゃんは親密になりたい、この人っているの?」
「いない......かもです」
これから私にも出来るんだろうか。
「でしょ? あっ、決めつけちゃった......。とにかくこう、この人と仲良くなりたいって思える人と出会えれば、エリンちゃんはすぐなんじゃないかな......?」
先輩に言われた通りに考えれば、自然とそういう人が見つかるような気がして、すぐにでも確認したくなってきた。うちのお母さんとママみたいな関係になりたいのは、多分あの子だけだ。
「なんとなくわかりました! ありがとうございます」
「そ、そう? なら良かったけど......」
「ちょっと途中だから、終わらせてからコーヒーでも飲もうか」そう言って先輩が椅子を引き、立ち上がった。合わせて私も立ち上がって、先輩にぎゅっとハグをした。
「私、頑張ってきますね! コーヒーはまた今度で!」
ネットや本で友達とか調べるよりも、すごく有益な情報だった。忘れないうちに早く行動してしまおう! 2学期も残り少ないし、明日、いや今日にでも動かないと。そう思って、私は走り出した。
後日、部室に行くと、みよ先輩が頭を抱えていた。なんかあったのかなぁ。