カールロット公爵令嬢は魔女である、らしい おまけ
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そこは、とある魔女の隠れ家。
布や靴、帽子をそこらじゅうに広げた居間で、採寸メジャーを首にかけた男と、ピンクブロンドの家主が言い争っていた。
「ロザロニア! あんた自分の師匠と妹弟子の晴れの日に着ていく衣装を値切るとかどういうつもり!?」
「だから、ちゃんとしたもの着ていきたいから頼むんだって! いいじゃ~んベネスぅ、少しくらいまけてよ~! 私、お金ないんだも~ん!!」
突きつけられた見積書を手に、家主が半泣きで男にすがりつく。その美しい白い手を、男は寸分のためらいもなくはたき落とした。
「ないわけないでしょ、あんたがタリスマン売りさばいてがっつり稼いでるの、知らないとでも思って!? 生活費の分しか手元にないとか、あんた黄金食べて生きてるの!?」
「そりゃ多少は稼いでるけど、でも現実にお金ないんだも~ん! 家中探しても、生活費ぎりぎりしかないよ、でも新しい服でレダリカに会いに行きたいしさぁ」
二人は、玄関の呼び鈴が鳴ったことにも気が付かなかった。家主が男の肩をもんでは全身をひねって振り払われている間に、玄関わきの水晶人形が優雅な動きで鍵を開ける。
「はーいまいどあり、あなたの親友ダリエルちゃんが、素敵なディナーと一緒に華麗に……」
「だから、何に使ってんのよ!変な男に貢ぐんじゃないわよ!」
「貢いでないよぉ、寄付したんだよぉ、ねぇ~頼むって」
お下げ髪の魔女は口を尖らせた。この自分を無視してじゃれつき合うなんていい度胸だと、魔力を集めたが。
「貢ぎを寄付だのお布施だのって、それこそがバカな女の常套句でしょうがこのバカ!」
「バカでもなんでも好きに言え、だからこのとーり!」
「土下座しながら高級輸入布地を抱えるなー! だから! 儲けは! どこいっちゃったの!」
結局、やれやれとため息をついて、玄関横の花瓶から勝手に小銭を拾った。魔力は煙のように消えていく。
「……おーい。ご飯、あんたと私の分だけしか持ってきてないけど、ベネスにもいるなら食材と出張シェフ代として追加料金取るわよ」
「あーぜひ頼む! 追加のお金はそこから持ってってー」
「だからロザロニア、あんたそんなガバガバの金銭管理してるから、いざってときの蓄えがないんでしょーが! いいわよ自分の食事代くらい自分で払うわよ!」
二人の攻防を尻目に、ダリエルはキッチンへと向かった。酒を多めに持ってきた自分の予感を、内心で褒め称えながら。
そのうちまた番外編が増えるかもしれませんが、ひとまずここまでです。
最後までお読みくださってありがとうございました。