三話「消えた母親」
私が部屋の扉を開けると、そこはまるでさっきまでとは異なった世界が広がっていた。家の中身の家具や壁が破損したらしくそれらの破片が飛び散っている。階段を下りる。
「母さん?母さーん」
返事がない。リビングの方に進むと、鉄パイプが無数に転がったり突き刺さったりしている。その先には外に繋ぐ大きな穴が広がっていた。外に出てみると、そこはいつもと変わりがなかった。
「乗って」
目の前に赤いボディーをベースとしたバイクに跨る白いヘルメットをした人に声をかけられる。後ろに乗れと言うらしい。私よりも少し年上のようだ。
「あなたがお母さんを?」
「違うわ。これから、そのお母さんを救いに行くの。私がこの目で見たから」
私はどうしたらよいか、困惑した。スマホを取り出し、先ほどのアプリに尋ねてみる。
『この女性を信用していいの?』
何を聞いているんだか、だいたいリアルなんてこと分かるわけないって思いながらも打ってみたが、すぐに返答が来た。
『何たる偶然の奇跡?信用していいだろう。ただ血を扱う女は怖いってことは覚悟しとけ』
つまり信用していいことは確実らしい。
「ありがとうございます。私は海塚理沙って言います」
「理沙ちゃんね。どこかであったかしら?まっ、いいわ。私はメルリア……気軽にメアさんって呼んでいいからね?それじゃ、行こうか?」
「あの、私バイク乗るの初めてなんで」
「ここに跨がればいいんだけど、ごめんね、振動とかで股間痛めるよ」
私は彼女の言う通りに跨った。不思議な感覚が私の肌を弄ぶ。
「じゃ、あとは私に両手でハグしてね」
「ハギュゥ?」
「驚きながらも出来てるじゃない。離さないでよ、落ちるから。では、レッツラァーゴー!!」
私たちのバイクはこうして発進したのだった。