一話「手にしてしまったモノ」
自分の部屋で学校の図書室から借りてきた文庫本を読んでいる。この作者やタイトルがどれほど人気かは分からない。でも私は本棚の中にある本を眺めてタイトルを順に見ていた。そして気に入った物を手に入れては本の裏表紙の簡単なあらすじを読む。その内容がつまらなかったら元に戻すが、気に入ったらその場で本文をぱらっと捲って流し読みをしてそれでも気に入ればそれを借りて今のように読む。それが私のスタイルである。しかしこれといった本には会わない。むしろ電子書籍や小説サイトといった方が軽いし、私には会う。特別な人が本を書く時代なんて終わってしまった。今は読むのも書くのも誰もが出来てしまう世の中である。それなのになぜ私は図書室に向かうのか。父親の昔話に出てきた本に出会いたいからである。タイトルも作者名もない、この世に一つだけの本と言いたげなあの本を。
「なんかなぁ。面白いには面白いんだけどなぁー」
読み終えてしまった私はそう言って借りてきた本を学校指定のカバンに入れる。
「よし、何か書こう」
私はスマホを手にする。しかし手が進まない。リビングに行って棚から母親が買ってきたであろうポテトチップスの袋を手に入れて戻ろうとする。
「何してんのかな?」
急に後ろから私の胸を鷲掴みしてくる者がいた。
「はうわ。母さん!?」
「バレてないとでも?テレビ見てる隙に盗むなんて。それなのに太ってないなんてね」
「分かったかりゃ、あまり揉まないで」
「そうだ。罰として父さんの部屋でも掃除してきなさい」
「えぇー。父さんいないじゃん」
「いいから。そしたらそれ食べていいから」
母親に言われて渋々父親の部屋に向かう。彼はこの家にいない。彼は単身赴任して遠出で働いている。そして私がこの部屋に入るのはまだ何も分かっていない子どもの頃だっただろう。
ドアノブを開ける。本棚に本がびっしり詰まっていた。マンガや雑誌、小説や詩集などなど。売れば一円でもお金になるであろう代物がたくさんあった。
「たくさんあるなぁ。どこかにやましい本隠してたりして」と私は呟く。
ついでにSNSで『父親の秘密基地に潜入なう』と一言呟いてみる。
そして本棚の下やベッドの下を探し回る。さらに机の引き出しを順に探していく。そして最後の引き出しを引っ張った。そこには一冊のノートが置いてあった。タイトル名は……。
『消える本と最後の結末』と書かれた部分を赤字で線を二本引かれてこう書かれていた。『我々の世界のリスタート』と。その字は線で引かれる前の字に比べて同じとは思えないぐらいの違和感を感じた。私はこのノートをカメラに撮ってSNSに流した。
表紙をめくる。父親が書いたであろう黒い文章の上に赤い字で大きく『さ』と書かれていた。さらに捲ると、見開きに『す』と『が』と同様に書かれていく。それはこのノートが終わる最後まで続いていた。そしてそれらを繋げた文章はこうだ。
『さすが海塚幸平の娘だ これから俺の支配のリスタートが始まるぜ 電子化してな』
それを読み終えた瞬間、私のスマホが震えた。これが私と父親の言っていた例の本との再開になるとは不思議に感じていた私には気が付かなかった。そしてたった今、私のとった一つのとある行動が理由で世界があんな目になるなんて誰が予想できただろうか。
前作と繋がっておりますので、よかったらそちらもお読み下さい。随時更新予定です。今後ともよろしくです。