■第8話:男が背負うもの ~ negative legacy ~
6人は大樹海の中心地の近くまで来ていた。眼前には真っ白な砂地が広がり、馴染みのない棘のある植物や茎の先で渦を巻いた植物が生い茂っている。それらを囲うように背の高い木々が生え、ディアの光も届きにくくなっているせいか、全体が薄暗く、色彩の無い世界だった。目を凝らすと、紫色の粒子が空気中を飛び交っているのが見える。
シュウト 「ここはきっと大昔からある樹海だな。ずっと人間は立ち入っていないようだぜ。」
ジニー 「なんだか怖いですね・・・。」
リヨン 「この辺は高い木々が邪魔で、飛び回って様子を見ることができそうもないや。僕も歩いた方がいいみたい。」
シュウト 「この先はおそらく普通の人間が立ち入ったら無事に帰ってこれないぞ。魔の胞子もそうだが、この土地に足を踏み入れたら最後、不思議な磁力で自分がやって来た方向がわからなくなっちまうんだ。」
ジル 「なんですって?それは本当なの?」
ジニー (シュウトさんはなんでこんなにいろいろと詳しいんだろう・・・。) ジニーは何でも知っているかのように話すシュウトを不思議そうに見た。
シュウト 「ま、方向については目印をつけていけば大丈夫だ。問題は覚悟のほうだな。この先、何が出てくるか正直わからん。引き返すなら今だぞ。」
アポロ 「リヨンやジルには争いを止めてくれた借りがある。こいつらが行くというのなら、俺は引き返すつもりはない。」
ジル 「あら、ここにきて素直じゃない?私だって同じよ。それに、どんな怪物が出てきたって私は負けないわ。ガオン三戦士の娘なんだから。」
リヨン 「うん、僕も気持ちは変わらないよ。少しでも役に立ってみせるから。」
ジニー 「私もこの先にあるものを確かめたいです。」
シュウト 「そうか・・・。なら皆、後悔はないな?」 そう言うとシュウトは懐から1本の瓶を取り出して、中身をこぼさぬように器に注いだ。
ジニー 「シュウトさん、それは?」
シュウト 「酒だよ。ここから先は一蓮托生だ。きっと今までのように、弱気になると精神をやられる。うんとキツイ酒で景気づけといくか。」
ジニー 「ええっ!?ここでですか?」
シュウト 「器が1つしかないから回し飲みだ。1人1口ずつ、これを飲んだら引き返さない決意とみるからな?もちろん無理強いはしない。」 シュウトはそう言ってまず自分が飲んだ。
シュウト 「くー!とびきりキツイぜ!」
ジル 「かしてちょうだい。私も飲むわ。男どもは尻込みしてもいいのよ?」
アポロ 「なめるなよ。次は俺だっ!」
リヨン 「僕も!う~、キツイ!」
シュウト 「おっと、器が空になっちまったな。ジニー、お前はやめとくか。お子様は水にしとけ。」
ジニー 「な、なにを!?私も飲みますよっ!」
シュウト 「そうかい、じゃあ、ちょこっとだけ注ぎ足すから待ってな。」
ジニー 「興が冷めるようなこと言わないでください!」 ジニーはシュウトの持っている瓶ごと奪いとって、一気に飲み干してしまった。
が-。ジニーはニヤリと不敵な笑みをこぼすと、目を回してドスンとその場に倒れてしまった。
シュウト 「やれやれ、ノーム族ってのは思ったより意地っ張りだな。」
ジル 「仕方ないわねぇ。私が背負っていくわ。」
シュウト 「すまねぇな。」
ジニー 「うーん・・・。こんなに地中ドーリアが採れるなんて、私はなんて幸運なんだ。村の皆に知らせなきゃ。むにゃむにゃ・・・。」 ジニーはひっくり返ったまま、幸せそうな顔をしていた。
シュウト (しかし・・・。)
シュウトは皆を先導するように一足早くその場を離れた。
リヨン 「あ、待ってよシュウト。」
シュウト 「おいていくぞ~。」
ジル 「ジニーって、見た目の割に重たいわね・・・。」
アポロ 「大樹海の中心地まであと少しか・・・。やはり人間の気配はしないな。」
シュウトはスタスタと先を歩いていた。身軽なリヨンはシュウトに追いつくと、気になっていたことを尋ねた。
リヨン 「ところで、シュウトって常に元気だけど、何歳なの?」
シュウト 「俺か?正確には忘れちまったけど45歳ってところだろうな。エイプ族は80年近く生きていたって珍しくないんだぜ。体はボロボロだけどよ。」
リヨン 「同じような体形なのに、ずいぶんウィング族と寿命が違うんだね。うらやましいや。」
シュウト 「そうか?長生きすればいいってもんじゃねぇぜ。嫌なことだっていっぱいあるんだからさ。」
リヨン 「そうかなぁ。シュウトこそ、どんなにガイアが危機的状況になったって生きていけそうなのに、何でここまで一緒に来たのかと思ってさ。」
シュウト 「償いかな・・・。」
リヨン 「えっ?」
シュウト 「いや、何でもない。」
リヨン 「何なのさ??」
シュウト (ひょんなことからコイツらと一緒に来たが、やっぱりなんだか懐かしいな。前回はあいつらを守ってやれなかったしな・・・。)」
シュウトはリヨンの質問には答えず、歩きながら物思いにふけっていた。
シュウト 「ごほっ!ごほっ!」 突然シュウトは大きく咳き込んだ。
リヨン 「あれ、大丈夫シュウト?目が真っ赤だよ?」
シュウト 「ああ、さっきの酒が強すぎたようだ。皆、思ったより酒に強いじゃねぇか。」
リヨン 「うん、1人をのぞいてね。」
シュウト 「ハハハ・・・。」
シュウトは咳き込んだ拍子に血を吐いてしまったのだが、リヨンに見えないように手でぬぐっていた。
シュウト (薬と酒でごまかしてはいるが、俺の命もあと少しってところだろうな。でも、はたして大樹海の奥に何が待っているのか、1人の科学者としても、ワクワクしてしょうがねぇぜ。)
5人は大樹海の中心地を目指す。あいかわらず辺りには紫色の胞子が飛び交っており、その濃度はいっそう高くなってきたようだった。きっと大樹海の中心地はあと少しであろう。
シュウト 「まったく生き物の気配がしないな。」
リヨン 「これだけ静かだと、神秘的な場所にも感じるね。」
ジル 「そういえば、数年前、ここに『彼ら』がきたのよね。」
彼らとは、アカデメシアの研究派閥であるネクロマンシーのリーダーであるアルキスと、その妻ゴーラのことであった。
アポロ 「その話、詳しく聞いてなかったが、魔の胞子によって正気を失い、命からがら帰ってきたらしいな。」
リヨン 「うん。僕達は今のところ大丈夫みたいだね。」
シュウト (黒き特質、いや、意志の強さか・・・。それとも何者かがこいつらを守っているのか?ここいらの魔の胞子の濃度は確かに高い、俺も薬が切れたらすぐにでも正気を失うだろうな。)
アポロ 「奴の話によると、食糧となるドーリアも確かにここにあったらしいな。」
リヨン 「それが幻覚じゃなかったことを祈るよ。」
ジル 「その可能性はあるかもね。今となっては、私達が自分の目で確かめるしかないわ。」
シュウト 「人間が足を踏み入れない場所であれば、逆に多くのドーリアが原生している可能性は高い。問題は魔の胞子に汚染されていないかだ。」
アポロ 「む、何か聞こえるぞ。あっちからだ。」 アポロは歩きながら微かな音を耳にした。
アポロの言った方へ皆が移動していくと、しだいに音は大きくなってきた。
ジル 「あ、あれは!?」 ジルは前方に何かを見つけた。
アポロ 「あれは大きな泉だな。奥の方には滝もあるようだ。あれが音の正体だったのか。」
泉は端から端までかなりの大きさであったが、魔の胞子が飛び交う場所には似つかわしくなく、泉の水は透明で澄んでいた。泉全体は切り立った崖に囲まれていて、崖の上から大量の水が泉に流れ落ちていることで、辺り一帯に水の落ちる音が常に鳴り響いていた。
4人が泉の周りをよく見てみると、食べられそうなドーリアが密生していた。それもかなりの数である。
シュウト 「こいつはすげぇ!」
ジル 「ジニー、寝てないで起きなさい!ドーリアよ!」
ジニー 「ふにゃ?もう食べられません・・・。」
ジル 「まったくもう!」 ジルは背負っていたジニーを泉に投げ込んだ。
ジニー 「ぎゃ!お、溺れ、ガボボボ・・・。」
騒ぐジニーをよそに、皆ドーリアに夢中であった。
リヨン 「こ、これ、食べられるのかな?」 リヨンがドーリアを手にとり、ゴクリと唾を飲み込んだ。
シュウト 「・・・どうかな?アポロ、ナイフを貸してくれ。」
シュウトはナイフを受け取ると、ドーリアを半分に切った。ドーリアの断面を見ると、右半分だけが紫色になっていた。
シュウト 「ううむ、きっちり半分だけ汚染されているのか。おそらく、紫色の部分は駄目だ。」
リヨン 「そんな・・・。」
シュウト 「だが、もう半分は大丈夫だと思う。まぎれもない天然のドーリアだ。」
アポロ 「汚染されているところを避けて、種を持ち帰って栽培すればいいんじゃないか?」
ジル 「そうね。あらジニー、気がついた?」
ジニー 「おかげで目が覚めましたよ・・・。」 ジニーはジルをにらみつけた。
リヨン 「ジニー、寝起きのところ悪いけどさ、このドーリアどう思う?」 リヨンはジニーに半分に切られたドーリアを見せた。
ジニー 「うん、ノーム族ならこれを栽培できると思います。これらの種を持ち帰って栽培することは私達の新しい使命なのかもしれません。」
ジル 「ノーム族にそう言われると、なんだか頼もしいわね。」
アポロ 「ああ。だが、俺達だけじゃ短時間で皆が必要な種を集めて運ぶのは難しいぞ。汚染されていないドーリアもなるべく持ち帰りたいしな。」
リヨン 「だけど、きっと他の人間はここまで来られないよね。」
シュウト 「それに時間が経てば、いずれ魔の胞子に汚染されていってしまうな。」
ジニー 「つまり、急いで魔の胞子の元を断つことが必要ってことですね。」
その時-。
男の声 「フハハハ、久々に人間が迷い込んできたと思ったら、魔の胞子の元を断つだと?」
女の声 「キャハハハ、本当に人間は身勝手なものね。いっそ、私達が食べてしまいましょうか。おっと、私達には無かったわね。人間についている強欲な胃袋なんてものは。」
謎の声とともに泉の反対側から植物のような形をした化け物が現れた。体の表面は緑色であり、明らかに人間ではない見た目をしていたが、顔には人間のように目や口があり、まるで怒っているかのような表情をしていた。また、その体からは『手』ともいうべき蔓のような触手が無数に伸びており、絶えずウネウネと動いていた。まるで植物の化け物が意思をもって動き、自由に触手を動かしているようであった。
アポロ 「なんだこいつらは!?人間じゃないぞ?」 アポロはとっさに銃を構える。
ジル 「げぇぇっ!気持ち悪いわ!」 ジルも腰の曲刀を取り出した。
リヨン 「こ、これは幻覚じゃないよね!生き物なの!?」
男の声の主 「フハハハ、お前達の言うところの『生き物』ではないな。だが、詳しいことを知る必要は無い。」
女の声の主 「キャハハハ、ここで死んでもらうのだからねぇ。」
シュウト 「生き物でもなく、しゃべるだと?こ、こいつらは・・・。」
アポロ 「よくわからんが俺達に殺意をもっているようだし、人間でないなら躊躇わずに撃つぞ!」
ガアン!男の声の主はアポロの放った銃弾を体に受けると、その場に倒れた。
ジル 「私も遠慮しないわっ!たぁっ!」
ガスッ!女の声の主もジルの投げた曲刀を体に受け、その場に倒れた。
しかし、一度倒れた声の主達は、何事も無かったかのようにゆっくりと起き上がった。銃弾と曲刀が当たった部分がへこんでいるように見える。
男の声の主 「これは火薬玉だね・・・。いつの時代も繰り返すものだ。」
女の声の主 「なんて野蛮な・・・。これだから人間は許せないわ。」
シュウト (『いつの時代も』だと?そうかわかったぞ!)
シュウトだけは声の主の言葉を聞いて、対峙する植物の化け物の正体を理解したのだった。
シュウト 「アポロ、ジル、攻撃しても無駄だ。こいつらに命は無い。ロボットだからな。」
アポロ・ジル 「命が無い?」「ロボット・・・?」
シュウト (その昔、人間はこの星の自然を守り、食糧危機を回避するための自動プログラム『人工知能』を開発したんだ。)
シュウト 「名前は確か、『デメテル』だったか・・・?」
男の声の主 「懐かしい響きだ。マザーの名を知る者がこの時代に残っているとはね。マザーを生み出し、またマザーを消そうとした、強欲な人間達が勝手に付けた名だがね。」
女の声の主 「その名を知っているあなたには真っ先に死んでもらう必要があるわね。」
シュウト 「なぜこいつらが魔の胞子を飛ばすのか、ようやくわかってきたぜ。こいつらには初めから俺達を、人間を殺す明確な意思があったってことだ。」
男の声の主 「フハハハ、その通りだ。」
女の声の主 「キャハハハ、正確には『害虫駆除』ね。」
シュウト 「人間をガイアに棲みつく病原体として認識し、魔の胞子をいわば抗生物質としているってわけか。まるで風の悪鬼扱いだな。」
男の声の主 「マザーは過去の歴史から、この星の未来は人間を駆除してこそ守られると判断した。それも危険な科学の力を2度ともたないうちにな。」
女の声の主 「マザーの体の中の忌々しい『アーク』を逆に利用し、それを行っていくことが私達の役目なのよ。」
植物の化け物達は触手の先から紫色の粉を振りまいた。一番前にいたシュウトはそれをまともにかぶってしまった。
シュウト 「ぐわぁああ!」
リヨン 「シュウト!」
アポロ 「こ、こいつらも魔の胞子をまけるのか!?」
シュウト 「・・・ガハッ!お前達、一旦逃げるんだ!」 シュウトは朦朧とする意識の中で、ここは一度撤退すべきと判断した。
ジル 「逃げるの!?」
シュウト 「こいつらは自分で動いているように見えるが、きっと親玉に操られているはずだ。一旦逃げて、そいつを叩くんだ!」
リヨン 「でも、逃げるって言ったって、どこへ!?」
ジニー 「皆さん、こっちです!」
ジニーは、この状況を予測していたのか、近くの地中を掘り返しており、そこには身を隠せるような大きな穴ができていた。
ジル 「ジニー!この穴は?」
ジニー 「振りまかれた胞子は風を受けて最初は上の方に舞うようです。これだけ深い穴なら、ほんの短い間ですが、胞子を避けることができます。さぁ、早くこの中に!」
5人は穴の中へ転がりこんだ。
男の声の主 「逃がさないぞ・・・。」
女の声の主 「隠れても無駄よ・・・。」
植物の化け物達は、触手を動かしながらゆっくりと穴の方へ近づいてくる。
ジニー 「今だ!アポロさん、あれを狙って落とすんです!下敷きにしてやってください!」 ジニーは崖の上の大きな石を指さした。
アポロ 「なるほど、あれか!」 アポロは崖の上の石に向かって銃を撃った。
ガアン!銃弾は石に命中したものの威力が足りなかったのか、石は欠けただけで落ちてこなかった。
アポロ 「くっ、失敗か・・・。もう1回だ!」 アポロは石を落とそうと、再び銃口を崖の上に向けた。
ガアン!ガアン!アポロが何発か銃を撃ち続けると、崖からは石の代わりに細かい土の塊がバラバラと崩れ落ちた。
しだいに土の塊や大量の砂が地面へ降り注そぎ、植物の化け物達はそれを大量に浴びていた。
ジル 「あれじゃ動きを止められないわ!アポロ、早く石を落としてよ!」
アポロ 「わかっている!難しいんだ!」
男の声の主・女の声の主 「ザ、ザザザ・・・。」「ザザザ・・・。」
ジニー 「あれ?」
皆の予想に反して、植物の化け物達は大量の土や砂を被ったことで動きが止まった。
リヨン 「あいつら動きが止まったよ!?今のうちに逃げよう!」
ジニー 「ど、どっちへですか?」
シュウト 「決まっているだろう、ここま来て引き返してどうする?奥へだ!」
5人は全速力で植物の化け物達が現れた方角へと走り、だいぶ距離をとったところでようやく立ち止まった。
ジル 「はぁ、はぁ・・・。なんだったのよ・・・。」
アポロ 「ふぅ・・・。見たこともない化け物だったな。あれじゃ銃では倒せそうもない。」
先ほどの化け物達は一体なんだったのだろうか。シュウトを除く4人には全くわからなかった。
シュウト 「・・・。」 シュウトは考え込んでいた。
ジニー 「シュウトさん、あなたは何かを知っていますね?私達に教えてくれませんか?」 ジニーはシュウトに尋ねた。
シュウト 「・・・仕方ねぇな。あれは大昔の人間が作ったロボットだよ。生き物じゃないんだ。」
リヨン 「やっぱり生き物じゃないんだ!」
アポロ 「だが、動いているし、言葉も話しているぞ?それになぜ俺達を襲ってくるんだ?」
シュウト 「ロボットはプログラム、つまり命令さえあれば動けるんだ。襲ってくる理由ははっきりとはわからないが、奴らは『害虫駆除』と言っていた。これは昔の言葉なんだが、要は俺達人間のことを自分達にとって敵だと決めつけているってことだ。」
ジル 「なんでよ!?いい迷惑だわ!」
シュウト 「なぜ害と決めたのかまでは俺にもわかんねぇさ。(俺だって人間が作ったものが、あんな風に人間を襲うなんて、いまだに信じられないぜ。)」
ジニー 「それにしてもシュウトさんには、なぜそんなことがわかるんですか?」
シュウト 「俺は奈落の底でずっと過去の世界のことを調べていたんだ。お前さん達ノーム族が奈落の近くに住むずっと前からな。ケルン長老には少し話したが、そこには過去のいろんな人間の発明が詰まっていたんだ。チャリオットの製作技術なんかもそこから拝借したのさ。今は話すとキリがねぇから、俺達の目的が達成できた時に全てを話すよ。」




