■第7話:もつ者、もたざる者 ~ go beyond time and space ~
リヨン (皆と一緒にここまで来てしまったけれど、僕は・・・。) リヨンは歩きながら考え事をしていた。
リヨン (ノーム族と同じように、ウィング族も寿命が短い種族なんだよな。僕らハイディ村の人間は、この先、このガイアで本当に生きていけるんだろうか。はぁ・・・、こんな話、僕には荷が重いや。)
あれこれ考えていると、どうにも考えが暗い方へいってしまうことがリヨンの悪い癖であった。
リヨン (村の暮らしは貧しいけれど、結構楽しかったよな。トマス兄さん達は元気かな。ミトラの笛もあんなにうるさかったけど、今ではなんだか懐かしいや。)
ミトラはリヨンの双子の妹であり、ハイディ村ではしょっちゅう笛を吹いていた。リヨンは暗い考えを振り払うように、久々にミトラから預かっている笛を思い切り吹いてみた。
ピィィィィー!!高い笛の音が大樹海に鳴り響くと同時に、ジニーは微かな異変を感じた。
ジニー (ん?気のせいかな。今、大樹海の雰囲気が変わったような・・・。)
アポロ 「お、だいぶ上手くなったんじゃないかリヨン。こんな短い時間でたいしたもんだな。」
ジル 「ほんと、最初は上手く音が出なかったのに、すっかり大きくてキレイな音が出せるようになったわね。才能あるんじゃない?」
リヨン 「そ、そうかな?僕の村では笛なんてミトラぐらいしか吹かないからわからないけど。」
シュウト 「ようリヨン、そういえばお前は遥か北のハイディ村から来たって言ってたよな?あの『漆黒の翼』で有名なヴェント村の近くらしいじゃねぇか。」
リヨン 「うん、貧しい村だけど、アカデメシアに狙われるまでは平和な村だったんだ。まさか、あんなことになるなんて思ってもみなかったよ。」
ハイディ村では、アカデメシアの研究員達によって妹のミトラとその婚約者のルクセンがさらわれ、彼らの家まで燃やされてしまっていた。そして、兄のトマスと一緒に行方不明となったミトラ達を探しに来たことが、自分がここまで来たことのきっかけであったことをリヨンはあらためて思い出した。
ジル 「アカデメシアに狙われたのはともかく、食糧難なのはウィング族も一緒なんでしょ?」
リヨン 「うん。それに義兄のルクセンさんも魔の胞子にやられて意識を失ってしまって、なんで僕らがこんな目にあわなければいけないのかって思うよ。」
ジニー 「そんなに北の村まで魔の胞子が届いているなんて、まさにガイアの危機ですね。」
シュウト 「それでその危機から村を救おうってここまで来たわけか。」
リヨン 「う、うん・・・。」
ジル 「浮かない顔をしてどうしたの?」
リヨン 「実はさっきも考えていただんだけど、村どころか、ガイアの危機を救うって話に、僕なんかが皆と一緒に来てもいいのかなって思っているんだ。」
アポロ 「おいおいリヨン、何を後ろ向きなことを言っているんだよ。お前の兄のトマスや妹のミトラはもっと前向きだったじゃないか。」
リヨン 「トマス兄さん達と比べられても困るよ。僕は村では食糧調達係なんだけど、そもそもドーリア集めぐらいしかできなくてさ。最近はドーリア集めが上手くいかなくなってきて村でもお荷物扱いで、前向きどころか本当はすぐに投げ出してしまいたくなるダメな性格なんだ。」 リヨンは今まで思っていたことを話し続けた。
リヨン 「そうさ、今までずっと兄さん達に助けられてきたんだ・・・。」
ジル 「だけど、リヨンはブレメンでは十分役に立っていたと思うわよ。テオと一緒に私を助けに来てくれたもの。そんなに謙遜する必要はないでしょう?」
リヨン 「それだって全部テオさんのおかげだよ。僕には何の取り柄もないし、ここまで皆と来ることができたのだって、ただの幸運だと思っているよ。」
シュウト 「そんなもんかねぇ・・・。」
リヨン (本当に幸運なだけだと思うんだ。僕は自分の力で成し遂げたことなんて、1つも無いんだから。)
リヨンは、これまで自分以外の者達が困難に立ち向かう姿を見せている中で、自分の自信の無さを隠すことができないでいた。
キィィィン-。突如、白い光がリヨンの目の前に広がり、リヨンはそのまま意識を失ってしまった。
リヨンが目を開けると馴染み深い景色が目の前に広がっていた。
リヨン 「ここはハイディ村?」 リヨンははっきりしない頭で、首を振って周囲を見回した。
リヨン (でも、ずいぶん静かだな。何か変な感じがする・・・。)
リヨンは微かに感じている違和感の正体を、誰かに会って確かめようと思った。
リヨン (そうだ、そろそろトマス兄さん達はブレメンからハイディ村へ戻っているはずだ。ミトラの家へ行ってみよう。村の人達が火事の後、ミトラ達がいつ戻ってきてもいいように仮の小屋を建ててくれると言っていたし、何よりブレメンから帰ったルクセンさんが心配だ。)
ブレメンではルクセンは魔の胞子の影響を受けて意識を失うほどの危険な状態になっていた。
リヨンは灰色の翼を広げて村の東側にあるミトラの家へ飛んで移動した。
そこには村人達が建ててくれたのであろう、お世辞にも立派とは言えないものの、雨風がしのげるような小屋があった。
リヨンは小屋の前に舞い下りると、小屋の中に向かって声をかけた。
リヨン 「ミトラ、いるかい?」
ミトラ 「その声はリヨン?ううう、苦しいわ・・・。」
ミトラの苦しそうな声に驚き、急いで小屋の中に入ると、そこにはミトラが1人で寝床で横になっていた。酷くげっそりした顔をしている。
リヨン 「ミトラ!?大丈夫かい?トマス兄さんを呼んでこようか?ルクセンさんは?」
ミトラ 「ルクセンですって?ルクセンならとっくに墓の中よ。みーんな魔の胞子にやられてしまって、この村で生き残っているのは、私とアンタとトマス兄さんだけ。私達は背中の灰色の翼のおかげで助かっているのよ。」
リヨン 「な、なんだって!?そんな馬鹿な!」
ミトラ 「ああ苦しいわ・・・。あんたの灰色の翼も、私が貰ったら元気が出るんじゃないかしら?その翼、私によこしなさいよ。ブレメンに体の一部を移植できる研究集団がいるって聞いたわ。」
ミトラは急に立ち上がり、見たこともない恐ろしい目をリヨンに向けると、近くに置いてあった鉈を手に持って振り回した。
リヨン 「ミ、ミトラ、何をするんだ!ぎゃあっ!」 リヨンは叫びながらミトラの振り回す鉈をすんでのところで避けた。
ミトラ 「逃げるんじゃないわよ!大人しくしなさい、このトンチキ!」
リヨン 「た、助けて!」
リヨンは転がるように小屋から出ると、そのまま一目散にトマスの家まで飛んでいった。
リヨン 「ト、トマス兄さん、大変だ!ミトラが錯乱して!戸を開けてよ!」
リヨンが大声でトマスを呼ぶと、トマスは戸を半分だけ開けて顔をのぞかせた。
トマス 「リヨンか、早く中に入れ。」
トマスは家にリヨンを入れるとすぐに戸を閉めた。落ち着かない様子で外を気にしている。
リヨン 「トマス兄さん、聞いてよ!ミトラがさっき僕を襲って・・・」
トマス 「しっ!静かにしているんだ。今、俺達は漆黒の翼の呪いがかかっていると言われて、アカデメシアの連中に狙われているんだ。奴らは生き残った俺達を殺してこの村のドーリアを全て奪う気だ。」
リヨン 「アカデメシアの悪い奴らなら、ブレメンで僕らがやっつけたじゃないか!」
トマス 「何を言っているんだ?アカデメシアはずっと活動を続けているじゃないか。うん?ひょっとしてお前もスパイなのか?」
リヨン 「そ、そんな、違うよ!はっ、そうだ!ミトラがルクセンさんが死んだなんて言っているんだ!本当なの?」
トマス 「だから何を言っているんだよ?ルクセンの奴は、体に巣食った魔の胞子が繁殖しないよう、俺が殺してやったじゃないか。」
リヨン 「なっ!?」
トマス 「おっと、近くで音がするな・・・。敵が攻めてきたようだぞ。お前も武器を持て。やるかやられるかだ!」
リヨン 「殺し合いなんてやめてよ!そ、そうだ、僕がドーリアの種を採ってくるから、それを育てて皆で分けるんだ。話し合えばわかるよ!魔の胞子だって僕が拡散を止めてみせるから!」
トマス 「お前にそんなことができるわけがないだろう。臆病者のお前は隠れていればいい。」 トマスはそう言って鉈を持って家の外に出ていった。
リヨン 「そ、そんな!待ってよ!」
リヨンがトマスを追うように家の外に出ると、家の周りにはアカデメシアのトレードマークである白装束を着た者達が槍や弓矢を構えて立っていた。
トマスは鉈を振り回して白装束達と闘っている。
リヨン 「なんなんだよこれ・・・。こんなの悪夢だろう・・・。悪夢!?そうか、幻覚なんだ!」
その時-。空から声が聞こえた。
声 「やっと気がついたか。」
リヨンが空を見上げると、黒い翼をもった生き物が羽ばたきもせずに空中で静止していた。
翼の生き物 「そう、これは幻覚だ。ただし、お前の選択によっては、近い未来に現実のものとなるだろう。」
リヨン 「そ、そんな。」
翼の生き物 「お前にはこの未来を変えられる力があるのか?」
リヨン 「僕が未来を変える・・・?僕には無理だよ。何ももってやしないんだから。」
翼の生き物 「確かにお前は弱き翼の種族だ。1人では闘うこともできない。そして何ももっていない。」
リヨン 「そうだよ・・・。」
翼の生き物 「だが、何ももっていないからこそ、もっているものもある。」
リヨン 「え?何を言っているかわからないよ。」
翼の生き物 「わからないのか?」
リヨン 「だから僕は1人では何もできないなんてことだけは、とっくにわかっているよ。無理なんだよ!」
翼の生き物 「・・・ならばこの村の運命は、お前の見ている幻覚のとおり、お前の命とともにここで終わりとなろう。言っておくが、ここでの死は精神の死。このまま現実に戻ることはできないぞ。」
そうこうしている間に白装束達はトマスを槍で串刺しにしてしまった。トマスは苦しそうな声をあげて地面に倒れると、そのままピクリとも動かなくなった。
トマスを始末した白装束達はケタケタ笑いながらリヨンに近づいてきた。
リヨン 「・・・どうしたら?」
白装束達は弓矢も持っており、飛んで逃げようとすれば飛び立った瞬間を狙われるのは間違いなかった。
リヨン 「確かに僕は何ももっていない・・・。」
白装束達はリヨンを取り囲み、もはや逃げることも難しい状況となった。そもそもここは幻覚の中、どこへ逃げればいいというのか。
死を覚悟したリヨンは目をつむった。すると、頭の中に遠い大樹海まで一緒に来た仲間の顔が思い浮かんだ。
リヨン 「そうだよ、ここまで来れたのは僕の力じゃない。皆のおかげなんだ・・・。」
白装束達は今にもリヨンに襲い掛かろうとしていた。
リヨン (アポロ、ジル、シュウト、ジニー、皆助けて!) リヨンは心の中で仲間の名前を叫んでいた。
数十秒後-。しばらくしても白装束達はなかなか襲ってこなかった。
リヨンが目をあけると見慣れた者達が目の前に立っていたのだ。
リヨン 「あれ?皆なんでここに?」
シュウト 「おいリヨン、意識はあるのか?こいつらは何だ?」
アポロ 「なるほど、ここはリヨンの幻覚の中だな?お前の声に呼びこまれたみたいだ。」
ジニー 「私も体験しましたけど、幻覚の世界の中に入れるなんて、これはスゴイや!」
ジル 「アンタ達だけに任せられないわ。あいつらを倒せばいいのね。皆、リヨンの頭の中を襲う悪夢を退治するよ!」
リヨン 「悪夢・・・。そうか、これは僕の頭の中の恐怖なんだ・・・。」
シュウト 「こいつら白装束は、きっと死者の群れみたいなもんだ。俺達も実体じゃないはずだが、槍で刺されると精神に傷を負うかもしれん。」
ジル 「皆、武器を持っていないリヨンを守るのよ。」
リヨン 「なんで僕を守ってくれるの?確かに助けて欲しいと思ったけれど、これは僕が生み出した幻覚なんだから、皆が危険な目にあう必要はないよ。」
アポロ 「いまさら何を言ってるんだ。」 アポロはナイフをシュウトに渡すと自分は銃を構えた。
ジル 「闘いは私達に任せてよね。お化けが相手じゃ、ちょっと苦戦するかもしれないけど。」 ジルは曲刀を構える。
シュウト 「おいジニー、こいつらに攻撃を仕掛けるように命令している奴がどこかにいるはずだ。探せるか?」
ジニー 「ふうむ。確かに匂いますね。時間を稼いでくれますか?どうも空が怪しいです。」
アポロ・ジル・シュウト 「おう。」「任せてよね。」「早くしてくれよ。」
リヨン 「な、なんで皆逃げないのさ!?死んでしまうかもしれないんだよ?」 リヨンは大きな声で4人に向かって言った。
すると、4人は1人ずつリヨンの言葉に答えたのだった。
アポロ 「はぁ?お前がイイ奴だからに決まってるだろ?最初は純粋な馬鹿とも思ったけどな。おっと、悪口じゃないぜ。」
ジル 「純粋なぶん、誰かを騙すことはなさそうだし、私達にとっても恩人だものね。」
シュウト 「ほんの短い時間かもしれねぇけど、ここまで一緒に来たら、もう仲間だろう?寂しいこと言うなよ。ノームの村では冷たいこと言って悪かったな。」
ジニー 「ちょ、ちょっと皆さん、格好イイこと言ってないで、私も仲間に入れてくださいよ!」
リヨン 「・・・。」
皆の言葉を聞き、それまでリヨンの頭の中を占めていた迷いは無くなっていた。
リヨン 「皆、ありがとう。でももう大丈夫だよ!」
翼の生き物 「・・・。」
リヨン 「翼の生き物よ!やるなら僕を狙うんだ。皆の気持ちが僕を支えてくれるのなら、僕はきっと恐怖なんかに心を傷つけられない!」
翼の生き物 「もういいだろう・・・。降参だ。」
リヨン 「降参?」
翼の生き物 「リヨン、気がついたか。今、お前の周りには仲間がいる。仲間を信じること、仲間に助けられることも立派な力なのだ。そして種族の違いなど理由にしない仲間がいるからこそ、前に進むことができるのだ。」
リヨン 「仲間・・・。」
翼の生き物 (私がそうであったようにな・・・。)
リヨン達は仰向けになって目を覚ました。
リヨン 「うーん・・・。」
ジニー 「ふぅ。助かりましたね。」
アポロ 「やはりリヨンの幻覚の中だったのか。厄介な場所だったが、リヨンの意志の力でかろうじて抜け出せたようだな。」
ジル 「これから先も幻覚の中に吸い込まれることがあるかもしれないけど、皆で立ち向かえばきっと怖くはないわね。」
シュウト 「それにしてもジニー、あまり役に立ってなかったよな。何だよ、『空が怪しい』ってのは・・・。」
ジニー 「う・・・。そ、そんなこと言いましたっけ?聞き間違いじゃないですかぁ?」
ジル 「ジニーってこんな調子のいい性格だったっけ?」
アポロ 「さぁな。」
リヨン 「とにかく皆、ありがとう。皆の助けがあれば、これから先、僕にもきっと何かできると思う。」
ジニー 「あ、黒い羽根が落ちてますよ。」 ジニーは地面に落ちていた1枚の黒い羽根を拾うと、珍しそうにそれを眺めた。
シュウト (漆黒の翼か・・・。きっとゴールは近いな。)




