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翼の証明Ⅲ ~種の方舟~  作者: ニンジン
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■第6話:ノームの使命 ~ ask yourself ~

明け方、5人は再び大樹海の中心地に向けて出発した。

ジニー 「大丈夫ですか?腕の怪我は。」 ジニーは平らな場所を選んで歩きながらアポロに向かって話す。

アポロ 「心配させて悪いな。たいしたことはないし、銃も握れる。」

リヨン 「さっきはびっくりしたよ。」

アポロ 「ああ・・・。急に銃の引き金が引けなくなってな。ジニーが襲われると思って必死だったんだ。」

ジニー 「ありがとうございます。私なんかのために。」

アポロ 「私なんかってことはないだろう。この旅の大事な案内人だし、ノーム族は俺達からすれば神聖な種族なんだ。」

ジル 「そうよ。ノームの民は『精霊』とか、『ガイアの守り人』とかって聞くわ。」

ジニー 「ノーム族にそんな価値は無いですよ。」

リヨン 「え、何でそう思うの?」

ジニー 「ノーム族は今はこのガイアにたったの20人程しかいません。ケルン長老からは、おそらく私の村の皆がノーム族の最後の生き残りと聞いています。」 

アポロ 「それは少ないな。」

ジニー 「私にとっては、この旅の目的が皆さんと少し違うかもしれません。皆さんは自分達の村や種族を救いたいと思っているんですよね。」

ジル 「そりゃそうよ。」

ジニー 「私達は仮にドーリアが豊富に採集できるようになっても、ここまで少ない人数となってしまっては子孫を残していくことは難しいでしょう。どのみちノーム族は滅びる運命なんです。」

アポロ 「そんなに悲観しなくてもいいじゃないか。」

ジニー 「いいんですよ、事実ですから。でも、これから私のすることが、ガイアの平和と繁栄につながるのなら、ノームの神も喜んでくれると思うんです。」

リヨン 「村や種族を守ることよりも、ひょっとして自分の人生よりも、ガイアの平和と繁栄が大事だってこと?うーん、ウィング族も生き残りは少ないはずだけど、僕らはそんな風には考えていないよ。」

ジル 「ブレメンに移住してみたらどう?ひょっとしたら、旅をしている他のノーム族だって見つかるかもしれないし、カモイ族は遠い親戚なんでしょう?」

ジニー 「ノーム族は大地の民、鼻は利きますが目はろくに見えないんです。村から出て土の少ないところに出ていっても、生きていく自信はありません。」

アポロ 「やろうと思えばできるだろうに。」

ジニー 「村の皆はガイアのために村の中で自分の役割だけをまっとうとしようとしていますし、私もそのつもりなんです。」

リヨン 「今の生き方でいいって言うんなら、僕らは別に何も言わないけれどさ。」

ジニー 「私には村の中でやらなければならないことがあるんです。」

ジル 「何よ?」

ジニー 「私は、ケルン長老から旅人達の置いていった記録をもらって、読み書きを学んでいます。ノーム族が確かにこの時代に生きていたことを記録しておくためです。ノーム族は皆がそれぞれ自分の役割をもっています。以前、村にいた読み書きができた者も、私に近い血筋の者らしいのですが、十数年前に亡くなってしまったらしく、私がその後を継ごうと思っています。この旅を終えて村へ戻ったら、もう村を出ることもないでしょう。」

ジニーの思いを聞いた皆は少し黙ってしまった。

シュウト 「それはいいけどよ、別に我慢しなくったっていいじゃねぇか。」 それまで黙って話を聞いていたシュウトが口を挟んだ。

ジニー 「我慢?」

シュウト 「そうさ、ノームの村のために、自分の人生ってものを犠牲にしてしまっているのさ。」

ジニー 「そんなつもりは・・・。」

シュウト 「俺にはわかるぜ。お前さんは外の世界に興味があるんだろう?だからこそ、いろいろと知識を得ようと来訪者の案内はお前が率先して受けているんだろうし、本当は、いろいろな種族がいるブレメンにも行ってみたいと思っているんじゃないのか?」

ジニー 「う・・・。」

リヨン 「そう言えば、ノームの村で僕達の話を聞こうと一番近くにいたのはジニーだったね。」

ジニー 「あ、あれは記録するためですよ・・・。」

シュウト 「お前さんは自分の本当にしたいことを我慢して、長老や村の皆に与えられた役割を演じているのさ。リヨン達の話を聞いていると、やっぱり外の世界は面白いと思っただろう?」

ジニー 「や、やめてください。私は役割をまっとうし、ノームの村に骨をうずめるんですから。この旅だって、ケルン長老に言われたから同行しているだけですよ。それに・・・。」

シュウト 「それに?」

ジニー 「皆さんと違って目が全然見えないから、ちっとも面白くないんです・・・。こればっかりはどうしようもないじゃないですか。」

シュウト 「ははぁ・・・。やっぱりそんなことか。お前さんは頭がいいが、賢いわけじゃないようだな。」

ジニー 「なんですって?」

シュウト 「本当の意味で生きていないってことさ。『我欲あってこそ生きている』だぜ?こいつは昔の・・・。ああ、確か昔のエイプ族の哲学者の言葉だ。」

ジニー 「ガヨク?テツガクシャ?よくわかりませんが、それは人間のもつ欲望でしょう?」

シュウト 「欲望、おおいに結構じゃねぇか。ジニー、はっきり言ってお前は『滅びゆくノーム族で不幸だな~』って酔いしれているだけなのさ。」

ジニー 「シュウトさん、怒りますよ!?」

シュウト 「そうこなくっちゃな。その怒りだって我欲の1つなんだぜ。ほれ、こいつを顔につけてみろよ。」 そう言ってシュウトは、あるものを差し出した。

ジニー 「これは?」

シュウト 「いいからつけてみろって。この2つの穴が目の位置にくるようにだぞ。」

ジニーはシュウトから渡されたものを顔につけてみた。

ジニー 「わっ、よく見える!なんですかこれは!?」

シュウト 「こいつは眼鏡って言うんだ。俺の持っていた双眼鏡を改造して、さっき完成したんだ。強すぎる光を遮って、距離感を合わせてさ。」

ジニー 「なんて綺麗な景色なんでしょう・・・。ガイアはこんなにも美しかったのですね。」

シュウト 「ノーム族は目がほとんど見えないから、村から出たがらないのも無理もないと思っていたさ。だが、これからは自分の目で見て、自分で感じた事を記録していけばいいじゃねぇか。お前は若いし自由なんだ。」

ジニー 「シュウトさん・・・。ありがとうございます。」

ジル 「さすがシュウトね!」

アポロ 「そんなによく見えるのか。たいしたもんだな。」

リヨン 「すごいや。よかったね、ジニー!」

眼鏡を通して見た世界と、シュウトの『自由』という言葉は、ジニーにとって衝撃的なものだった。ジニーはしばらくの間キョロキョロと辺りを見回していた。


その時-。ジニーの身に不思議なことが起きた。目の前にいたシュウトがグニャリと形を変えていったのだ。

ジニー 「あれ?」

ジニーはとっさに眼鏡をつけたり外したりしたが、どう目を凝らしてもシュウトのいた位置に、『4つ足の生き物』が見える。

4つ足の生き物は、体は小柄だが手(前足)は大きく、黒い爪が生えていた。

ジニー 「こ、これは・・・?」

ジニーが4つ足の生き物が急に現れたことに驚いていると、徐々に周囲の景色や地面までも歪みだした。

ジニーは目を回してそのまま意識を失ってしまった。


しばらくしてジニーが意識を取り戻すと、そこはノームの村の景色に変わっていった。

ジニー 「こ、ここはノームの村だ。嗅ぎ慣れた匂いもするし、間違いない・・・。」

ジニーは確かに大樹海にいたはずが、一瞬でノームの村に移動したことに戸惑っていると、聞き慣れたノーム族の声がした。

ケルン 「それでは今から裁判を執り行う。ノームの神のもとに、嘘や偽りは許されない。」

目の前にはケルンが険しい顔をして立っており、他の村人達もジニーを取り囲むように立っていた。

ジニー 「ななな・・・?」

ケルン 「そして、有罪の場合は死刑だ。よろしいかな?」

ジニー 「ケルン長老?これは一体何の裁判ですか?ノーム族に罪を犯すような者はいないはずでは?」

ケルン 「何の裁判って、お前の裁判だよ。」

ジニー 「そんな馬鹿な!なぜですか!?」

ケルン 「お前は今、大きな罪を犯そうとしているではないか。自覚が無いのか?」

ジニー 「全然心当たりがありませんよ!何の罪だと言うのですか?」

ケルン 「ノームの民がもつべきでない『我欲』をもってしまった罪だ。」

ジニー 「そんな!?」

ケルン 「人間にとって我欲とは必要以上のものを得ようとする卑しい心、下手をすれば争いや憎しみの原因にもなる。違うか?」

ジニー 「そ、それは・・・。」

ケルン 「お前の役割はノームの神によって決められていると言ったはずだ。お前だけではない。我々ノーム族はこの村の中で自分の役割をまっとうして生きていくことを大事にしている。それ以上のものを求めてはいけないのだ。」

ジニー 「ノーム族のことを記録する役割ならしっかり果たすつもりです。でも、もっと知りたい、もっと見たいと思うことがそんなにも悪いことなのでしょうか?」

ケルン 「なぜそう思う?ワシらはまもなく滅びる種族。死にゆく運命ならば、ノームの民として使命をまっとうしていくことが幸せだと思わないのか。」

ジニー 「・・・。」 ジニーは黙ったままシュウトから貰った眼鏡を握りしめた。

ケルン 「今からでも遅くない。我欲は捨て、多くを望まず、ノームの民として恥じない生き方をするのだ。」

ジニー 「・・・いいえ。捨てません。」

ケルン 「な、なんだと?」

ジニー 「シュウトさんに言われて気がつきました。今、私は『生きて』いるんです。我欲を捨て、このまま狭い世界に閉じこもることは、本当の意味で生きているとは私には思えないのです。」

ケルン 「お前はノーム族にとっての罪の定義そのものを否定するというのか・・・?」

ケルンは目をつむると、大きく息を吸い込みジニーに向かってはっきりと次のように言った。

ケルン 「・・・ならば、最後の質問だ。ここにいるノーム族の皆を全員納得させることができれば罪に問わないことにする。」

ケルンの最後の質問という言葉に、村人達の視線が一斉にジニーに集まった。

ケルン 「今、この時代の全ての人間にとって、『生きる』とは何だ?」

ケルンの質問にジニーは少し間をおいてから、村人全員に聞こえるように大きな声で次のように答えた。

ジニー 「私はシュウトさんや彼らを見てきて思いました。それは・・・。」

ケルン 「それは?」

ジニー 「それは・・・。」


再び景色が大樹海へと変わった。そこにはジニーを心配するリヨン達の顔があった。

ジニー 「うーん・・・。」

リヨン 「あ!ジニー、気がついたようだね。大丈夫かい?」

ジル 「4つ足の生き物が現れた途端、アンタひっくり返って気絶してたのよ?」

ジニー 「ええと・・・、あれれ?私は結局、無罪ということで?」

アポロ 「おいおい、何を寝ぼけているんだ?歩けるか?」

リヨン 「怪我は無いみたいだね。結局、4つ足の生き物は何もせずに消えてしまったけど。」

シュウト 「ふぅ、よかったぜ・・・。(実は、村を出てからずっと無理をさせていたんじゃないかと思ってたんだよな・・・。)」

ジニーが無事であったことに、4人は一安心したのだった。

シュウト 「さてと・・・。この辺りは視界も広くて歩きやすいし、もう道に迷うこともないだろう。」

ジニー 「ん?どういう意味ですか?」

シュウト 「ジニー、ここまで無理に連れてきちまったけどよ、ここから先は一緒に行ってもらう必要はないかもしれん。お前さんの体調も心配だし、辛かったら村に帰ってもいいぞ?」

ジニー 「はぁ?何を言ってるんですか!私が行かなきゃ誰がこの旅を記録するっていうんですか?ええ、絶対に行きますとも!」

ジニーはシュウトに貰った眼鏡を再びかけると、さっさと前を歩き出した。

シュウト 「ほぇ?急にどうしちまったんだ?」

ジニー 「シュウトさん、モタモタしているとおいていきますよ!あなたは私の相棒なんでしょう?よろしくお願いしますよ!」

リヨン・アポロ・ジル 「待ってよジニー!」「アイツ、あんなに体力があったのか?」「どうしたのかしらね?」

シュウト (ま、本人の意気込みはどうあれ、どうやらジニーもこの先に行くことを認められたようだな。)


慌ただしく出発した5人は、すぐ近くの地面に小さな穴が開いていたことに誰も気がつかなかった。

穴の中から彼らを見つめている存在があった。4つ足の生き物である。

4つ足の生き物 (そうだ。どのような困難が待っていようとも諦めることはない。大地の神は常にお前達を見守っている。たとえ何も見えない闇の中でも、勇気をもって足を踏み出せば、その先には光が待っているかもしれないのだ。)

5人は振り返ることなく、先へと歩いていった。

4つ足の生き物 (それにしても、昔の呼び名を久々に思い出すことになるとはね・・・。ノームの神は全てを見通していらっしゃるのか。)

4つ足の生き物はそのまま地中深くに潜り、姿を消したのだった。

そう、どのような運命にも絶望することはない。生きるとは、未来への『希望』をもつことである。

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