■第4話:英雄の遺した言葉 ~ Hero left the word ~
リヨン、アポロ、ジル、ジニー、シュウトの5人は、景色が荒野から少し変わり、左右を崖に挟まれた谷底のような場所までやってきていた。
ジニー 「大樹海の入り口に近づきましたね。ここから先は私に任せてください。こういう崖に挟まれた地形は入り組んでいて迷子になりやすいんです。」
リヨン 「見て!こっちの崖の土、紫色だよ。」 リヨンは崖の一部分が紫色になっていることに気がついた。
シュウト 「こいつは魔の胞子の影響だな。きっと、こんな所に人間が住むのは無理だろうな。だが、サンドワームみたいな化け物ならいるかもしれないぞ。」
アポロ 「用心したほうがいいな。」
ジル (確かにこの辺りに人間が住むのは無理そうね。でも、さっきからなぜか人間の気配を感じるのよね・・・。)
ジニーを先頭に5人は先へと進んでいった。
声 (れだ・・・。)
ジル 「ねえ。シュウト、何か言った?」 ジルはふと足を止めて言った。
シュウト 「いや、何も言ってないぜ。」
ジル 「微かに人間の声がしなかった?」
アポロ 「何も聞こえないぞ。俺の耳はいいんだ。」
ジル 「そう・・・。」 ジルは空耳かと思い、再び歩き出した。
声 (引き返せ。この先は人間が足を踏み入れてはならない。)
ジル 「ほら、やっぱり聞こえるわ!」
リヨン 「へ?何を言っているの?何も聞こえないよ。」
ジル 「いいえ、確かに聞こえたわよ。」
ジニー 「聞こえませんよ?人間の匂いだってしませんし。ジルさん、少し疲れているんじゃないですか?」
シュウト 「そうだな。あの曲がり角の所で少し休むか。奥に大きな木が見えるから、あの木の根元に腰かけよう。」
5人は大きな曲がり角までやってきていた。その曲がり角にさしかかった時である。5人は目の前の光景に驚き、足を止めたのだった。
目の前には、今まで見たこともない生き物が行く先を阻むように立っていた。体はガオン族並みに大きく、前足と後ろ足の『4つの足』で立っており、顔の周りには立派な金色の毛が生えていた。その4つ足の生き物はこちらを見ると、低い声で話しかけてきた。
4つ足の生き物 「人間どもよ、すぐに引き返すのだ。この先には人間に向けられた巨大な悪意が満ちている。」
アポロ 「なんだこいつは!?」
ジニー 「しゃ、しゃべれるの?」
リヨン 「まるで人間みたいだ。」
ジル 「あ、あなたは誰なの?」 ジルは生き物に向かって問いかけたが、生き物はそれには答えず、次のように話した。
4つ足の生き物 「数年前、とりわけ意志の強い者達がこの先に向かったが、残念ながら正気を失って逃げ戻っていった。やはり普通の人間が足を踏み入れてはならないのだ。お前達が行ってもひとたまりもないだろう。」
ジル 「なんですって?ここまできて引き返すなんてできないわ。」
4つ足の生き物 「聞こえないのか?悪意と闘う力無き者は、すぐさま失せろと言っているのだ!」
鋭い声と同時に両端の崖の上からいくつもの大きな石がガラガラと落ちてきた。
シュウト 「危ねぇっ!」
ジニー 「うわっ!」
5人は危うく石に当たるところだったが、辛うじて避けることができた。落石はまるで5人への警告のようであった。
4つ足の生き物は落石にたじろいだ5人を見ると、後ろを向いてその場から去ろうとした。
ジル 「待って!私達は人間を狂わせる魔の胞子をこの世から無くしたいの!」
ジルは自分でも4つ足の生き物を引き留める理由がわからなかったが、とっさに心に思っていたことを叫んだ。
ジルの言葉を聞いた生き物は足を止めて振り返った。
4つ足の生き物 「お前達にそんなことができるわけがない。彼は1人で『星の意思』との闘いに向かったがな。」
リヨン 「彼って?」
ジニー 「星の意思?」
4つ足の生き物 「だいぶ待たせてしまったが、私も加勢に行くつもりだ。だが、お前達のような闘う力の無い者は邪魔になるだけだ。」
シュウト (こいつは一体・・・?)
アポロ 「はん、闘いなら俺達だってできるさ。」 アポロは銃を出して見せた。
4つ足の生き物 「この先に必要なのは腕力や武器ではない。強大な悪意にも惑わされない心の強さ、自分を最後まで信じることができるかどうかだ。」
ジル 「それなら私達だって自信はあるわ。多くの闘いを乗り越えてきたんですもの。村を救うためならどんな敵にだって負けないわ。」
4つ足の生き物 「覚悟はあると言うのだな。」
ジル 「もちろんよ。私は村の英雄、ガオン三戦士の娘なんだから。」
4つ足の生き物 「・・・そこまで言うのならば、お前にその資格があるかどうか、試させてもらおうか。」
キィィィン-。まばゆい白い光が辺り一面を照らすと、ジルは急に頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
ジル 「うう・・・。」
アポロ 「な!?おい、大丈夫かジル!」
ジニー 「ジル、しっかりして!」 ジニーはジルの体をゆすって声をかけたが、ジルは目をつむったままうめき声をあげていた。
リヨン 「ダメだ、言葉が届いてない。ジルに一体何をしたんだ!?」
4つ足の生き物 「心の強さを示してもらうぞ。」 4つ足の生き物はそう言ってその場に座り込んだのだった。
深い森の中-。
幼いガオン族の少女は泣きながらその場にしゃがみこんでいた。少女の近くには同じガオン族の少年が立っていた。辺りはすっかり暗くなっていた。
少女 「えーん。」
少年 「ジル、泣くんじゃない。俺が村までの道を探してくる。」
ジル 「ぐすっ。方向音痴のテオじゃ無理よ。アタシ達、ミロス村へ帰れないんだわ。」
テオ 「なんだと!・・・だけど、きっと村からそう遠くない。少し歩き続けていればすぐに戻れるさ。」
ジル 「疲れてもう歩けない・・・。」
テオ 「・・・ったく、わかったよ。ジルはそこにいろ。ちょっと様子を見てくるから。」
ガサガサ-。テオはジルをその場に残し、茂みをかきわけてさっさと行ってしまった。
ジル 「テオ?怖いわ!1人にしないで!」
ジルの言葉に反応する者は誰もおらず、テオはしばらくの間戻ってこなかった。
ジル 「ぐすん。こんな遅い時間にドーリア探しになんて出かけるんじゃなかったわ。テオ、早く戻ってきて・・・。」
テオが茂みの中を少し歩いて行くと、まもなく村の明かりが見えてきた。
テオ (なんだ、やっぱりすぐ近くじゃないか。さっさとジルのところへ戻って連れて帰ろう。) テオは村の位置を確認すると、ジルの元へ戻ろうした。
その時だった-。テオのすぐ近くで人間の話し声が聞こえてきた。
テオ (あれはリザート族?2人いるな。全身白い格好をしていて、見るからに怪しいし、ガオン族の縄張り近くに何の用だ?)
片腕のリザード族 「はぁ・・・。こう暑くっちゃ腹もすかないね。さっさと偵察を終わらせようじゃないか。村の方向はこっちか?」
顔に傷のあるリザード族 「そうだな。黒い牙をもつガオン族がいるという村まではもう少しのはずだ。我々偵察隊は村の場所を皆に知らせればいい。お前も決して深入りはするんじゃないぞ。」
顔に傷のあるリザード族は闘い慣れしているようで隙が無く、見つかったらおそらく無事ではすまないことは、子供のテオにも直観的にわかった。
テオ (黒い牙というと・・・?でもリザート族がなぜ?それにあの白い格好は一体・・・。)
ドーリア探し以外では村の外から出たことのないテオには、アカデメシアのトレードマークである白装束の意味はわからなかった。
テオ (あの方向にはミロス村がある。何をたくらんでいるのかわからないけど、このままあいつらを行かせるとるまずい気がする・・・。どうにか注意をそらして、先に村に戻って大人達に知らせよう。)
ガサガサ-。テオは茂みからわざと音を立てると、すばやくその場から離れた。
片腕のリザード族 「むっ!なんだ?」
顔に傷のあるリザード族 「音がしたな。ガオン族か?気をつけろ、奴らは腕っぷしだけは強いらしい。剣を構えるんだ。」
テオ (や、やっぱり武器を持っているんだ・・・。)
片腕のリザード族 「音がしなくなったな。気のせいか・・・。」
顔に傷のあるリザード族 「ふん。一応、音のした方角を探してみるか。」
テオ (よし、村とは違う方向へ行くぞ。このまま隠れて・・・。)
リザード族達がその場から移動しようとしたその時だった。
ジル 「テオー!どこなの?」 遠くからジルの声が聞こえる。
ジルは不安のあまり、テオを追いかけてきてしまっていたのだ。
テオ (バ、バカ!)
顔に傷のあるリザード族 「ガオン族の娘か。捕まえるぞ。」
すぐさまリザード族達はジルの前に躍り出ると、そのまま剣を向けて立ちふさがった。
ジル 「あ、あなた達、何なの?」
片腕のリザード族 「お前の村はどこだ?」 片腕のリザード族はジルに剣の切っ先を向けて脅すように問いただした。
ジル 「な、何よ!アタシ達も迷子なのよ。」
顔に傷のあるリザード族 「アタシ達?他にも誰かいるのか?出てこい!こいつがどうなってもいいのか?」
テオ (くそ・・・。)
ガサガサ-。テオが茂みから出てきた。
テオ 「村はあっちだ。少し進めば明かりが見える。」
片腕のリザード族 「さっきの音はお前だな。俺達の話を聞いていたのかな?嘘をつかれちゃ困るから、明かりが見えるまで一緒に来てもらおうか。」
リザード族達がテオとジルに剣を向けたまま、テオの言ったとおりの方向へ歩いていった。少し歩くと、テオの言ったとおり村の明かりが見えた。
片腕のリザード族 「あれがガオン族の村か。ふふ、助かったよ。」
顔に傷のあるリザード族 「いいかい、俺達に会ったことは誰にも言っちゃいけないよ。言ってしまったらこうだ。絶対に許さないからね?」
リザード族は目の前の木の枝に向かって剣を振り下ろしてみせた。鋭い音とともに太い枝が根元から切りとられ、バサリと地面に落ちた。
テオとジルは恐怖のあまり一目散に村の方へ走って逃げていった。
片腕のリザード族 「おいおい、逃がしていいのかよ?」
顔に傷のあるリザード族 「子供達に俺達の目的はわからんだろう。それに今から騒ごうと間に合わんさ。さぁ、仲間を呼んでこよう。火と毒矢も忘れるな。今晩中に襲撃するぞ。」
ジルとテオは村の中へ逃げるように帰ってきた。
ジル 「よかったわぁ。村に帰れた・・・。」 ジルは無事に村まで戻ってくることができて、ほっと胸をなでおろした。
テオ 「ああ、助かった・・・。」
ジル 「さ、さっきの人達は?」
テオ 「いいか、あいつらのことは忘れよう。とにかく家でじっとしているんだ。」
ジル 「でも、大人達に言わなくて大丈夫?」
テオ 「もしあの2人が村を襲っても、この村の大人達なら大丈夫だ。大人のガオン族より強い奴らがいるはずはない。そんなことより、下手にあいつらの話をして恨みをかったらジルが危ないじゃないか。黙っているんだ。」
ジル 「うん・・・。」
ジル達は不安を抱えながらそれぞれ自分の家に帰った。
ガオン族 「おかえり、ジル。今日は村の感謝祭だったというのに、こんなに遅くまで村の外でドーリアを探していたのかい。何か変わったことは?」
ジル 「ううん、特に無いわ。ドーリアも採れなかったし・・・。おやすみなさい。」
数時間後-。静まりかえった真夜中のミロス村で『事件』が起こった。白装束の集団が村の英雄達を襲ったのだ。
ジルの育ての父、ガオン三戦士の1人であるジェイクの家には火が放たれ、火は瞬く間に家中に燃え広がった。ジル自身にも火が迫ってくる。
ジル 「ああああ!熱いわ!誰か助けて!ママー!!」
ジルの母 「ごほっ、ごほっ!ジル、あなただけでも逃げなさいっ!」
ジェイク 「ジルー!今助けるぞ!」
ジル 「パパっ!ママが!!」
ジェイク 「むぅっ・・・!お前だけでも・・・!!」
ジル 「うわぁぁあん!!」
止まらぬ火の勢いに、ジルの家は無残にも崩れ去ったのだった。
大樹海の入り口-。ジルはずっと頭を抱えてその場にしゃがみこんでいた。
リヨン、アポロ、シュウト、ジニーの4人はジルを心配して声をかけ続けていたが、ジルは周りの様子に全く気がついていないようだった。
ジル 「ぎゃあああ、熱いわ!火が迫ってくる!」
シュウト 「ジル、しっかりしろっ!火なんかどこにも無いぞ!」
4つ足の生き物 「ふん・・・。お前の覚悟とやらはその程度のものだったか。もういいだろう。」
ガオオオォン!4つ足の生き物が雄叫びをあげると、ジルは正気を取り戻した。
ジル 「こ、ここは・・・?はっ、今のは幻覚?」
4つ足の生き物 「お前ごときが村を救おうなどと、よくぞ言えたものだ。」
ジル 「ひょっとして、あの時、私が・・・。」
4つ足の生き物 「そうだ・・・。あの日、村に白き悪魔を招いたのはお前自身なのだ。」
ジル 「そ、そんな・・・。」
ジルの忘れていた記憶-、いや、無意識に封印していたのであろう忌まわしい記憶の蓋が開いてしまった。
ジルは自分こそがアカデメシアをミロス村に誘導してしまったのだということを、今はっきりと思い出したのだった。
ジル 「そ、そんな・・・。あの時、迷子になった時に、私が、リザート族を村へ・・・。そして父は、母は、村の英雄は・・・。あ、ああ、ご、ごめんなさい!」
ジルは正気を取り戻したものの、再び頭を抱えて膝をついてしまった。その顔には生気が無く、真っ白であった。
ジル 「ああああ・・・。私が、私のせいで!」
リヨン 「しっかりしてよジル!自分の力で村を救うんでしょう!」
ジニー 「ダメだ・・・。さっきから私達の声が聞こえていないみたいです。これも魔の胞子の影響でしょうか?」
シュウト 「おそらく魔の胞子は関係ない。この様子、よくわからんがジルは過去の辛い記憶を思い出し、自分の心と闘っているんだろう。」
アポロ 「だとしたら俺達にできることはないな・・・。」
リヨン 「そんな・・・。こんなに苦しんでいるのに何もしてあげられないなんて・・・。」
パチパチ-。ボウッ!
皆がジルを心配していると、急に前方から火が発生した。それはどう見ても『本物の火』であった。
火はそれほど大きくなかったが、彼らの道を阻むように燃えており、少しずつ四方に広がっていった。
シュウト 「む、なんだ!?なぜ火が?」
ジル 「あああ・・・!火事よ・・・。火が迫ってくる。怖いわっ!」 ジルは火の存在に気がつくと、その場で固まったまま動けなくなってしまった。
ジルの頭の中にはガオン族の雄たけびや悲鳴が繰り返し響いていた。ジルにとって、この状況はまさに悪夢のようなものであった。
アポロ 「しっかりしろっ!火の勢いはたいしたことはない。見えないのか?こんなもの走って抜ければ大丈夫だ!お前は英雄の子なんだろう?」
ジル 「英雄の子なんて言わないで!私が村を不幸にしたのよ!」
リヨン 「ジル、火は近くの木にも燃え広がっているし、このままここにいても危ないよ。無理にでも走って先に抜けてしまったほうがいい。」
ジル 「ひぃぃぃ!助けてテオ!助けてパパ!」 ジルは恐怖と後悔に襲われ、泣き叫んでいた。
シュウト 「この様子じゃジルは先へ行くのは無理だな・・・。」
そこに、全く別の男の声が聞こえた。
声 「情けないな。英雄の子が聞いて呆れるわい。」
ジニー 「へ?だ、誰ですか?」
後方から1人のガオン族の男が現れたのだった。そのガオン族は錯乱しているジルにゆっくりと近づいた。
ガオン族 「どれ!」
バシィィン!ガオン族の男はジルの顔を思いっきりひっぱたくと、そのままジルの腕を掴んで背負うように投げ飛ばした。
ジルが投げられた辺り一面には大きく砂煙が舞った。
ジル 「アイタタタ・・・。な、何すんのよ!」
ガオン族 「目が覚めたか?」
ジル 「え、あなたは・・・?ミロス村の南の森で会ったおじさん?なんでここに?」 ジルは目をパチクリさせている。
キーラ 「俺の名はキーラだ。このガイア中に飛んでいる魔の胞子とやらの存在を噂で聞いてな。俺にも何かできないかとノーム族の村へ行ってみたところ、お前達のことを聞いて追ってきたんだ。」
ジル 「キ、キーラってまさか・・・?」
キーラ 「ジルよ。俺はもう隠居している身だが、お前はまだ未来に向かって生きていかなければならない。お前の父、ジェイクの遺言は俺が聞いている。」
ジル 「父の遺言ですって!?」 投げられた衝撃で正気を取り戻したジルは、キーラに向かって言葉を返した。
キーラ 「あの時、少なくとも俺は、アカデメシア達がずいぶん前からミロス村を狙っているのを知っていたさ。ずっと、アカデメシアの連中が怪しいと思っていたからな。お前がアカデメシアを村へ誘導しなくとも、遅かれ早かれこうなることはわかっていたんだ。しかし、想像以上に汚い手を使う奴らだった。幼い子供もいるというのに、皆が寝静まったときに火を放つなんて・・・。」
アポロ 「口を挟んで悪いが、あんたはひょっとしてあのガオン三戦士なのか?」
キーラ 「昔はそう呼ばれたこともあったな。」
ジニー 「ガオン三戦士・・・。初めて見た・・・。」
ジル 「そんな・・・。生きていたなんて。」
キーラ 「よく聞けジルよ、ジェイクの遺言はこうだ。ガオン族は世界で最強の種族だ。だが、強さとは力の強さではない、心の強さだ。村の為に、種族の為に、そして仲間の為に、自分に何ができるのかを自分自身に問い続けるのだ。そしてどんな困難が待ちうけていようとも、その答えに向かって突き進む、心の強さをもつのだ。ジル、お前ならそれができるはずだ。」
ジル 「心の強さ・・・。」
キーラ 「死して魂は受け継がれる。受け継ぐ者は魂に恥じない生き方をせよ。」
ジル 「死して魂は受け継がれる。受け継ぐ者は魂に恥じない生き方をせよ・・・。」
キーラ 「そうだ、ジェイクは今もお前の心の中で生きている。銅像の前で誓ったのだろう?それは嘘だったのか?目の前の火など怖くない。本当に怖いのは自分を見失ってしまうことだ。」
ジル 「・・・。」 ジルはキーラの言葉を聞くと、ようやく立ち上がった。
アポロ 「相当火が強くなってきたな・・・。ここにいたらまずい、皆行くぞ!」 アポロは立ち上がったジルを見ると、火に向かって駆けだし、火が強いところをうまく避けて一瞬で向こう側に行ってしまった。
シュウト 「俺らも行くかい。」 シュウトもそれに続いた。
リヨン 「僕も。」 リヨンは翼を広げ、火を難なく飛び越えていった。
ジニー 「ぼ、僕も!」 ジニーも慌てて駆けだした。
しかし-。目の前の火に気をとられていたジニーは、近くの大きな木が根元から焼かれ、燃えながら倒れてくることに気がついていなかった。
大きな音を立てて大木がジニーに向かって勢いよく倒れてきた。
キーラ 「危ない!」 近くにいたキーラが下敷きになりそうなジニーを咄嗟に突き飛ばした。
ジニー 「ギャッ!」
キーラは、かろうじてジニーを突き飛ばすことができたが、燃える大木を自分の背中でまともに受けてしまった。
キーラ 「・・・ぐぅっ!」
キーラは足と腕を痛めたようで、完全に押し潰されてはいないものの、そのまま大木の下で身動きがとれなくなってしまっていた。
ジニー 「キーラさん!!」
キーラ 「早く行け!どうせ俺の体はボロボロだ。ここでくたばったって構わん。ぐぅぅぅ!」 キーラはチリチリと背中を焼かれながらジニーを先に行かせようとした。
シュウト・リヨン・アポロ 「まずい!」「助けなきゃ!」「おう!」
キーラ 「うぐっ!よせっ・・・!俺の力でもビクともしない、お前達の力でも無理だろうし、近づいて体に火が燃え移ったら危険だ。」
シュウト 「くそっ!何か方法は・・・。」 シュウトは考えをめぐらせたが、助ける方法がなかなか思い浮かばなかった。
キーラ (ぐぅぅ・・・。こ、ここまでか・・・。)
その時-。
ジル 「どぉっせいぃぃ!!」 ジルは大きな掛け声とともに、燃え盛る大木に強烈な体当たりを浴びせた。
その衝撃で大木はキーラの背中から動き、ドスンと鈍い音をたてて地面に転がった。
キーラ 「がはぁぁ!助かったか・・・。」
ジニー 「す、すごい!やったあ!」
ジル 「ミロス村のジルをなめんなっての!さぁ火の無い所まで走るよ!」
シュウト・リヨン・アポロ 「元気あるじゃねぇか。」「ジル、完全復活だね。」「お転婆が戻ってきたな。」
一同は火の無い所へ移動すると、あらためてお互いの無事を確認した。キーラは大きな怪我は無かったものの、その場にがくりと膝をついてしまった。
リヨン 「キーラさん、大丈夫ですか?」
キーラ 「ふぅ・・・、大丈夫だ。だが、この辺りは魔の胞子が濃すぎて、老体の俺には厳しいようだ。頭がクラクラする。一緒に行けなくて悪いが、少し休んで森に帰らせてもらうことにするわい。」
ジル 「キーラおじさん、ありがとう。もう迷わないわ。」
キーラ 「そうか・・・。それならよかった。俺にも何かできることがあると思ってここまで来たんだがな、お前達を見つけて格好つけて登場したものの、このザマだ。それにしてもさっきの体当たりには参ったわい。俺が現役だったとしても吹き飛ばされていたかもしれん。がはは・・・。」
ジル 「ふふふ・・・。」
いつの間にか4つ足の生き物はどこにもいなくなっていた。
5人は一息つくと、再び出発の準備をした。
キーラ 「そうか・・・。じゃあ、酋長のテオを失って・・・。そしてお前はミロス村を救うためにここまで来たのだな。」
ジル 「うん。救うなんて大それたこと、できないかもしれないけどね。それと、テオからはライオネル=アーサーが私の本当の父親だっていうことも聞いたわ。」
キーラ 「それも知っていたのか・・・。最強の男どもの娘には心配なんぞ不要だな。」
ジル 「ええ。きっと魔の胞子の拡散を止めてみせるわ。」
キーラ 「期待しているぞ。」
シュウト 「よし!目的地も近くなってきたようだし、ここからは一気に行くぞ。それじゃあキーラさん、ありがとうな。」
キーラ 「気をつけて行くんだぞ。」
キーラは5人を見送ると再び腰を下ろした。
キーラ (ゴホッ。ふぅ、ひどく疲れちまったわい。なぁ、ひょっとして今も生きているんじゃないのか?俺の時間は、あの時から止まっているぞ・・・。)
キーラの耳にガオン族の遠吠えが聞こえたような気がした。




