■第1話:エイプ族を名乗る男 ~ a scientist ~
New Cast シュウト=アンビシャス:エイプ族 ジニー=ロンド:ノーム族 ケルン=マグワイヤ:ノーム族
ズドオオン!!耳を劈くような轟音が草原に鳴り響く。
男 「焼きサンドワーム(砂の悪魔)の出来上がりっとぉ。」
自由都市ブレメンの遥か南の草原に、大きな筒を肩に担いだ男が立っていた。背格好は中肉中背、痩せ型で目は鋭く、鼻は他の種族と比べて高く、翼はないが背格好はウィング族(有翼人種)に似ていた。
少年 「す、すごい!」
もう1人、かなり背の低い種族が男の傍にいた。見た目は、かなり若く少年のようであったが、手はごつごつしていて爪は大きく灰色であった。
男 「化けて出てくれるなよ。俺は幽霊の類には弱いんだからさ。」 男はそう言って得意気に火薬の匂いが残る筒をなでてみせた。
少年 「これがあなたの言う『科学』ですか・・・。」
男 「ああ、科学というには少し雑な作りだがね。リース族(有尾人種)が使うような火薬銃の一種さ。」
少年 「それにしても、あの巨大なサンドワームをたった一発の銃で・・・。」
男 「まぁ銃といっても、ちょいと改造したからな。俺達エイプ族(多指人種)の先祖様が得意とした技術、そして自分達をも不幸にした技術でもってね。ま、いわば負の遺産さ。」
サンドワームの死体を見ながら男は少し悲しい顔をしてみせた。
少年 「負の遺産?」 少年は男の言葉に不思議そうな顔をしてみせた。
男 「こんな物騒なものが役に立つなんて皮肉なもんだってことだよ。そうだ、こいつはもうお前にやるから、ちょっと担いでみろよ。ほらよっと。」
男は乱暴に筒を少年に投げ渡すと、少年は思わずよろけてしまった。
少年 「ちょ、ちょっと!重いじゃないですか!」
男 「へええ、意外と力もちじゃねえか。てっきり落としてしまうかと思ったけどね。ハハハ。」
少年 「ノーム族(大爪種族)は力もちなんですよ。この爪で固い土を掘り進むこともできますからね。腕の力だって強いんですよ。でもこれだけ大きいと、背中に担ぐしかないですね。」 少年はそう言うと、サンドワームを捕獲しようと腰にぶらさげていた縄で筒を背中に固定させるように結んだ。
少年 「よし、これでいいか。」
男 (ふうん、チビのくせに器用なもんだ。) 筒を渡した男はその様子を眺めて満足そうに笑った。
男 (それにしてもまったく、奴らはバカみたいにデカイけど、どうして人間様を襲うのか、不思議なもんだな。遥か昔、さんざんガイアを汚した人間を恨んでいるのかもしれねえな。)
男 「さてと、大体この『奈落』の入口近くの草原には、化け物どもはいなくなったか。」
少年 「ありがとうございました。私達はこの辺を縄張りに暮らしていたんですが、凶暴化したサンドワームに襲われて困っていたんです。ええと・・・」
男 「俺はシュウトだ。礼はいらねえよ。ちょうどこのあたりの地質を調べていたからな。そのかわり、ここより南の情報を教えてくれ。」
男の名はシュウト。普段山に暮らすエイプ族は、他の種族に比べて長生きであり、 5本指であらゆる道具を器用に使いこなすのが特徴であった。彼は人間を襲う化け物の情報を集めてはそれを退治し、僅かな報酬を貰って暮らしていた。
少年 「私もちゃんと名乗っていなかったですね。失礼しました。私はノーム族のジニーです。最近、このあたりでもサンドワームのような巨大な生き物が暴れ回っているんです。南へ行けばいくほど、その数は多いようで・・・。でも、彼らはもともとそれほど凶暴な生き物ではなかったはずなんです。どうも皆、正気を失っているとしか思えません。」
シュウト 「何?」
ジニー 「人間の少ないこの奈落の近くでは、外敵も少ないことからサンドワームの動きも鈍く、本来なら積極的に人間を襲うことはありません。それに・・・」
シュウト 「それに何だ?」
ジニー 「彼らが凶暴化した原因を調べに、南に行った私の仲間も、つまり人間も、正気を失って戻ってきたんです。彼は、もがき苦しんでいたかと思うと急に暴れだし、しだいに話も通じなくなり、そして病に倒れると、ひと月前に死んでしまいました。」
シュウト 「そいつは妙だな・・・。」
ジニー 「ノーム族は寿命は短いけれど、彼は特に若く元気があったはずなのに・・・。」
シュウト 「理由はわからないが、南の方角が危険なのか。それじゃあ、ここから離れてもっと北に逃げるべきじゃねぇのか?」
ジニー 「それも必要かもしれません。ただ、北の方ではドーリアをめぐって、ガオン族の村とリース族の縄張りを中心に争いが続いているらしいんです。この辺はせっかく地中ドーリアが育つ肥沃な土壌ができてきたというのに、それを捨てて北へ行って、人間どうしの争いに巻きこまれたくないのです。」
シュウト 「争いね・・・。どうやらそうらしいな。」 シュウトもドーリアが枯渇していることで種族どうしのいざこざがあるという噂を頻繁に耳にしていた。
ジニー 「化け物より、案外人間の方が怖いものです。」
シュウト 「はっ、違えねぇな!(ったく、しょうがねぇな。せっかくあいつらが毒光を消したってのによ。)」
シュウトはうなだれてから、また顔を上げると、今度はジニーの顔をのぞきこんだ。
シュウト 「それじゃあよ。俺達で南へ行ってみるかい。正気を失わせるものの正体を調べにさ。な、相棒よ!」
ジニー 「へっ、相棒ですって!?何を言っているんですか、困りますよ。私は村の記録をまとめる係なんだから、そんな危険なこと!」
シュウト 「なぁに遠慮してんだよ!危険だからこそ、お前の頭の良さと器用さが役に立つんじゃねえか。もうこの銃の構造は把握したろ?それに昔、お前みたいなウンチク語るちっこい奴がいたんだ。ノーム族は賢くて勇敢だって知ってるぜ!」
ジニー 「そんな、支離滅裂な!」
シュウト 「シリ?なんだって?わかるように言ってくれよ相棒!」
ジニー (話が通じてない・・・。)
2人が話をしていると、そこに1人の老人が現れた。ジニーと同じ、小柄なノーム族であった。
ノーム族 「ジニーよ、その者とともに南に行ってきてくれないか?」
ジニー 「ケルン長老!?」
ケルン 「ワシらノーム族はノームの神を信仰し、基本的に必要以上の食糧を得ようとせず、争いも好まない。誰にも迷惑をかけずに限られた生活範囲でひっそりと生きてきた。・・・だが、少しずつ世界が変わってきたようだ。サンドワームが狂ったように暴れているのは、世界の終わりの前兆かもしれん。」
ケルンと呼ばれた老人は、倒れたサンドワームに近づくと、その腹を持っていたナイフで切り裂いてみせた。
ケルン 「・・・うむ、このままではガイアにとってきっとよくないことが起きる。こいつを見るのだ。」
2人がサンドワームの腹を覗きこむと、普通は赤色のはずの腹の内側が紫色に染まっていた。
ジニー 「こ、これは・・・。」 ジニーは思わず息を飲んだ。
ケルン 「毒・・・、のようだな。ノームの神が見守る地中からは毒は生まれないはず。ひょっとするとかなりの量の毒がガイア中の空に舞い、それが大地に染みこんでいるのかもしれん。ワシらの地中ドーリアもこの毒に侵されたらひとたまりもないだろう。いや、きっと地中ドーリアだけではない・・・。」
シュウト 「さすが長老、鋭いねぇ!そう、ノームの村どころか、ガイア全体のピンチってことさ。今すぐにじゃないかもしれないけどよ。でも、これは俺とお前でやらなきゃならないようだぜ?相棒よ!」
ジニー 「なんで私が・・・!?」
シュウト 「お前は銃を見てもビビんねぇし、無駄に賢いところがアイツと似てるんだよね。」
ジニー 「アイツって誰ですか?」
シュウト 「お前の灰色の爪よりも、もっと黒く濃い、漆黒の爪をもっていた奴さ。」
ジニーの灰色の爪は、やはりノーム族の中でも珍しかった。長老はシュウトの言葉を聞くと、目をつむり、何かを懐かしそうにしていた。
ケルン 「ところでシュウトさん、あなたの体は大丈夫なのですか?おそらく十数年前の・・・。」
シュウト 「おっと、気にするなって。俺は何度も死の淵から蘇っているんでね。」 そう言って自分は大丈夫だというように胸をドンと叩いた。
シュウト (残りの命、この時代の人間達のために使うって決めたんだ。この時代の人間も楽しく前向きに生きているようだし、やっぱ人間てのは無限の力を秘めていると思うんだよな。)
シュウトはジニーの背中の銃を見つめると、胸につかえた何かを振り払うように力強く首を振った。
シュウト (そうさ、昔の人間は、ちょいとばかり力の使い方を間違えちまっただけさ・・・。)
シュウト 「よし、旅の準備をするぞ。ジニー、手伝ってくれ。」
ジニー 「準備?」
シュウト 「あれさ。」 シュウトは丘の向こうを指さした。




