■エピローグ:新たな旅 ~ new journey ~
1週間後-。ブレメン自由都市に不思議な光景が見られた。
ブレメンには、あいかわらず多くの種族が見られたものの、アカデメシアのトレードマークである白装束はすっかり姿を消していた。あの広場での騒ぎ以降、アカデメシアは不吉な集団として評判が悪くなり、研究員達は徐々に脱退していき、今ではほとんど実体が無くなってしまっていたのだ。
そして、もう1つの不思議な光景として、中央広場に様々な種族が20人以上も膝をつけ合わせ、輪になって静かに座っているのが見られた。誰も白装束を着ていないため、種族が違うことがひと目でわかった。
この状況を作り上げたのはカモイ族のレイアである。ノームの村から戻ったレイアは、これからは種族間の争いをせず、知識や技術を分け合い、ドーリアを栽培するために皆で協力しようと考え、路地帯の者達に協力を仰いだのだ。レイア達は、白装束を脱いで自分の村へ帰って行こうとする元研究員達に、1週間後に広場に集まって村の代表同士で話し合いをしようと持ちかけたのだった。もともと、レイアはブレメンで有名人であったため、ある程度の信頼は得られており、その話し合いの目的も、ドーリアの栽培や種族間の争いの禁止という、皆にとって重要な話だけあって、各村からはしっかりと代表が集められた。そして、ついに今日、広場の前にガイアに生きる様々な種族が共通の目的で集まることができたのだった。
そこには、リヨンの兄であるウィング族のトマス、アモリス団の参謀であるリース族のウル、ミロス村の代表としてガオン族のランド、ブレメンの路地帯からはカモイ族のレイアと補佐役のドラン、他にもリザート族やホーン族も複数名集まっていた。
ただし、そこにノーム族の姿はなかった。彼らはやはりノームの神とともに生きることにしたのだろう。
レイア 「それじゃあ、『種族合同会議』を開催するにあたって、まずはリーダーを決めたいと思います。」
ドラン 「レイア、リーダーって具体的に何をするんだ?」
レイア 「えっと・・・。」
トマス 「そりゃ、まずはこの会議における理念を決めるのがいいな。それがなきゃ始まらない。」
ドラン 「それじゃ、理念を掲げてもらって、皆の賛成を得られた者がリーダーってことでいいかな?」
ウル 「いいけどよ、俺はリーダーになるのは断るぜ。どうせ面倒なんだろう。アモリス団で手一杯だ。」
ランド 「俺も頭を使うのはちょっとな・・・。そもそも理念ってなんだ?」
一同 「・・・。」
参加した者達はリーダーを決めるのにも一苦労していた。種族が異なる者が集まっての会議など、生まれて初めてのことだったからだ。一部の者を除いて、ほとんどの者が隣に座っている者の顔すら初めて見る状況であった。
レイア (困ったわ。皆が仲良くできればいいと思って集めたけれど、理念なんてそんな立派なこと、私も考えていなかったもの・・・。)
レイアが途方に暮れていると、見知らぬウィング族の男が手を挙げた。
ウィング族の男 「リーダーは私にやらせてもらえませんか?」
一同は一斉にそのウィング族に注目した。見た目はかなり若い男だった。
レイア 「あなたは?」
ウィング族の男 「私はニケと言います。私が生まれた村はドーリアが枯渇して無くなってしまい、十年以上前にこのブレメンに母と移住してきました。」
レイア 「では、あなたの考えた理念を教えてくれるかしら?」
ニケ 「わかりました。少し古い話になりますが・・・。私は昔、あるリース族に命を助けられたことがあります。そのリース族は、少ないドーリアを貧しい私の家族に分け与えてくれました。そればかりか、命をかけてサンドワームに襲われていた私達を助けてくれました。おかげで私は今、ブレメンで貧しいながらも母と2人で楽しく生きることができています。」
ウル (はて?どこかで・・・。)
ニケ 「そのリース族のしたことは、毎日を必死で生きる皆さん達からみれば、ちっぽけな『気まぐれ』のように映るかもしれません。ですが、こうして顔を合わせて話し合いを続けることで、少しずつではありますが、そのリース族のように『種族の壁を超え、ドーリアを分け合い、命を助け合うことができるようになる』と思うんです。それが同じガイアに生きる人間として、何よりも大きな価値のあることだと思います。」
ニケは少し間をおいて最後に次のように言った。
ニケ 「僕はこの会議を、そのことを証明する為の場所としたいと思います。」
レイア 「・・・リーダーと理念の候補が出たわ。賛成する人は手を挙げてくれるかしら。」
しばらくの間、沈黙が続く-。
ウル 「・・・。」 リース族のウルが黙って手を挙げた。
ランド 「おっと、ウル、あんたが賛成するんじゃ、俺も賛成するしかないね。」 ガオン族のランドも手を挙げた。
トマス 「いいこと言うなぁ。」 ウィング族のトマスも手を挙げた。
しかし、ウル達のことを見知らぬ、その他の者達は手を挙げようとしなかった。これから先どのような重大な話し合いがされるのかもわからない中、簡単に目の前にいる者を信じていいのかわからないのだ。
レイア (どうしよう、まとまらないわ・・・。せっかくこれだけの人達が集まったのに、ここで強引に決めてしまうと、今度から参加してくれなくなってしまうかもしれない。それではまた争いも・・・。)
皆が無言の中、時間だけが過ぎていき、しだいに会議の参加者達もイライラしだしてきていた。
その時-。
ケルン 「会議の場所はここかな?遅れてすまんのぅ。」
レイア 「ケルン長老!ノームの村から来てくれたんですね。嬉しいわ。」
一同 「ノームの村だって?」「あれがノーム族か、初めて見たぜ。」「ノーム族の長老が姿を現すなんて・・・。」「何しに来たんだ?」
ケルン 「・・・なになに?ほほう、そうかそうか。ならワシもそこのウィング族の若いのが言っとるのに賛成だ。」
ケルンは会議の輪に加わってここまでの話を聞くと、おもむろに手を挙げたのだった。
一同 「ノ、ノーム族の長が賛成だって?そ、それなら俺も賛成だ!」「僕も!」「私も!」
ケルンが手を挙げたことで、会議に参加した全員が手を挙げたのだった。
ケルン 「おや?遠くから老人が来たかいがあったかね、レイア?」
レイア 「ええ・・・。ケルン長老、ありがとうございます。」 レイアはお礼を言った。
ケルン 「なに、歌のお礼だよ。」 ケルンはにこやかに笑った。
そしてレイアは皆に向かって大きな声で言った。
レイア 「では、全員一致でリーダーはウィング族のニケとします。そして、会議の理念は『種族の壁に打ち勝つこと』とします。」
一斉に拍手が起こった。
ニケ 「皆さん、ありがとう。頑張ります。」
種族が異なる者達からの拍手など、これまでレイアの歌以外で起きたことがあっただろうか?
この日は、今を生きるガイアの民が新たな出発をした記念すべき日であった。
少し離れた場所で、リヨン、ジル、アポロ、ジニーは旅の準備をしていた。
リヨン 「ブレメンの会議はトマス兄さん達に任せれば大丈夫だと思うんだ。」
ジル 「ミロス村の代表がランドなんかで大丈夫かしら。アイツ、私よりバカよ?」
アポロ 「そいつはやばいな。すぐに降りたほうがいい。」
ジル 「なんですって?やっぱりガオン族とリース族だけは仲良くできそうもないわね!」
ジニー 「まぁまぁ、争いが嫌いなカモイ族達もいるし、ブレメンでは喧嘩はしないでしょうよ。」
リヨン 「でも、ああして並んでいるのを見ると、僕らのこの体の違いは何のためにあるんだろうって思うんだよね。」
ジル 「さぁね、考えたこともなかったわ。」
アポロ 「そんなこと、どうでもいいじゃないか。準備はできているぜ、どこを目指すんだジニー?」
ジニー 「南へまっすぐですね。いつかきっと緑の大地にたどり着けると思います。」
リヨン 「南へか・・・。僕達が行った大樹海の先には何があるんだろうなぁ・・・。」
ジニー 「でも、長旅になりますよ?覚悟はできているんですか?」
アポロ 「覚悟だと?なら、このメンバーで景気づけといくか!」 そう言ってアポロは酒の入っている瓶を取り出した。
ジル 「ふふっ、ジニー、今度は背負ってあげないんだからね。」
ジニー 「う・・・。さぁさぁ行きましょうか!ボヤボヤしているとおいていきますよ?」
リヨン・アポロ・ジル 「うん!」「おう!」「よぉし!」
4人は元気よく旅立つのであった。
■あとがき:不自由が証明するもの
彼は考えごとをしていた。なぜゆえ種族が違うと体のつくりが違うのか。自分はその時がきたら、リース族のように仲間の為に戦えただろうか。ガオン族のように誇りに満ちた存在でいられただろうか。ノーム族のように何よりも平和を愛することができただろうか。それらはきっと、仲間と旅をしていくことで少しずつ理解し、手に入れられたのかもしれない。
ところで、人間が仮に全ての能力を手に入れてしまったら、すべての不自由から解放されてしまったら、どうなってしまうのか。全てに満たされた完全な存在、それはもはや神であり、人間としては生きることができなくなるのだろう。彼は理解していた。『足りない』 ということが、人間の心をこの世界に留めてくれる碇となることを。それほど遠くない過去、鳥籠から出ていった黒鳥は、天空に向かってどこまでも飛んでいってしまった。完全な自由になってしまった黒鳥は、もうこの世界に帰ってくることはないのかもしれない。
丘の上の村には今日も風が吹く。常に心満たされず、不自由であることを悲しむ必要はない。人間には足枷が必要なのだ。あなたをこの世界につなぎとめてくれるのだから。
あなたの手からすり抜けた風船が空へと消えてしまわないように。
~ Fin ~




