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龍のこと

更新遅れて申し訳ないです!

今回の見どころは、龍がヴィクテージちゃんに示した反応です!

「ありがとうございました……本当に……」

「いいえそんな。僕も彼女も人外好きで良かったですよ」

「ほんと、あんたが勇敢で助かったわ……」


 ドラゴンの件も無事解決して、せっかくなので僕らはそのままハズコットさんの宿で一泊させてもらうことになった。

 振る舞われた料理は結構民族的……というよりかは、僕が思っていた通りのもので、フランスパン、コーンスープ、パンにつけるバターやフレンチトーストなど、庶民的な食べ物がほとんどだ。


「すみません、こんなものしか出せなくて……」

「お構いなく。私達も突然上がってきた人達ですから」

「何も言えないのがまた辛い」


 フランスパンはいつの時代も硬い。魔法界にいた時は、フランスパンが好きな母と一緒にトースターで焼いて食べていたっけか。

 フランスパンの雑学……誰か語ってくれないかなぁ。雑学好きな校長先生に言ってみれば、少しは分かるかな?


「そういえば、埜牙狼さん……でしたっけ。どうしてそんな見慣れない格好を?」

「え?」


 龍に食事を横取りされながら、僕は声が裏返っていたことに気づく。


「あー……っと……これ、言っていいのかな……」

「いいんじゃない? だって本当のことだし」


 僕の今の服装を大雑把に言えば、『着物』だ。

 後輩達に何故か『侍に似てる』と人気なので、よく着ていっては護身用の刀で後輩達と手合わせをしていることもしばしばなのだ。


「えぇっ魔法界!? すっごい興味あります!!」

「んえ、そうなの?」

「はい! 私、昔から魔法使いって言うのにとても憧れていて……!」

「へぇ……びっくりする人なんているんだ……」

「ほりゃあひっくいほふるへひょ、ふやんしゅいぇわほうをふひゃうひほはんへいはや」

「口にフランスパンを入れて話さないのヴィクテージ、なんて??」


 僕の言葉に、もぐもぐとフランスパンをよく噛み、喉に通すと「そりゃあびっくりもするでしょ、フランスで魔法を使う人なんていたら」と、さっきの言葉を復唱して答えてくれた。


「うーんそれはそうなんだけどさ……」

「なによ、なにかあるの?」

「いや、ここがフランスなのはよく分かったよ。でもさ、普通戦後時代のフランスに僕の世界の敵が現れると思う?」

「言われてみれば確かに……」

「私も詳しくは分かりませんが……それなら、やっぱり軍の人に聞いてみるのが一番じゃないですか?」

「軍?」


 ここは戦後の時代。軍人がいても不思議ではない。

 しかしただでさえ警戒心の強い軍人が、話し相手になってくれるとは到底思えなかった。

 下手したら殺されるんじゃ……。


「フランスの中で一番有力な情報を握っているのが軍人だからね。私はハズコットさんの案が妥当だと思うわ」

「うーん……明日聞いてみる?」

「私はあんたに任せるわ」

「じゃあ決まりだね」


 ヴィクテージが僕に任せるというのなら、とりあえずは二人……と一匹で足を運んでみよう。

 龍もそれに賛成の意を示している。

 なんだか大変なことになりそうだ……なんて思っていた矢先、まさかその予感が当たることになろうとは、僕もヴィクテージも龍も、知る由すら無かったのである。


 ****




「あんたさ、なんで埜牙狼(のがろ)なんていう名前つけられたの?」


 ふいにそんな質問が室内を響かせ、僕は龍を触る手を止める。

 考えたことも無かった。母さんに名付けられたのが最初なものでして。


「……さぁ? 分からないや。僕の母さんは『本当の母さん』じゃないからね」

「は? それってどういう……」

「僕の話を今君にできるほど、僕はまだ君に信頼を置けていない。……本当に信用出来る相手だって自覚し始めたら、またそのうち話すさ」


 確かに一緒にいても居心地は悪くないし、何かと意見も合う。

 僕こう見えてB型なんだけど……もしかしてヴィクテージって……?


「ちょっと聞いていい?」

「なによ」

「ヴィクテージってAB型でしょ」


 暫くの沈黙。

 カチッカチッと秒針がの鳴り響く時計が一分の経過を表しているのにもかかわらず、僕にはそれ以上長く感じられるほど気まずい空間になった。


「……なんでわかったの変態」

「ちょっと待って、なんでそこで変態が出てくるの」

「だってなんで……はぁ!? え、いやなんで!?」

「僕がB型だから」

「……えっはっ? は……えっ?」


 訳わかんないとでも言いたげに声を裏返らせるヴィクテージ。

 実は混属性の『メイル=ガーマイア』はO型。

 僕の友達であるシュリー=ノーレッジはA型。

 伊澄(いすみ)名草(なぐさ)はAB型。

 そして、僕がB型。

 この四人でいると居心地がよく、一番気が合うのは誰かと聞かれると答えづらい。

 それくらい仲の良い三人で、僕が魔法学校に入学した時から同じクラスだった子達なのだ。

 ちなみに僕以外全員女子。もはやハーレム状態。結構軽蔑するような目で見られることが多かったけか……。

 そんな中、ヴィクテージの性格がAB型の名草とそっくりだったのだ。そこでピンときただけのことであって、何も特別なことなどしていない。



「……あんた、ステータスが見える目でもあんの?」

「ないよ?」

「じゃあなんで!?」

「僕の友達にAB型の子がいてさ。ヴィクテージにそっくりな性格をしてるんだよ」

「へぇ……」


 納得したような声をあげたヴィクテージが龍に触ろうと手を伸ばす。

 ……しかし、その龍は、彼女が触ることを拒んだ。

 それどころか、触ろうとしたヴィクテージの手を引っ掻こうと、今度は龍の方から手を伸ばしたのだ。


「っ!?」

「わっえっ!?」


 僕が触っても何もしないのに、何故かヴィクテージにだけ威嚇したり、手を出したりするのだ。

 シャアアアッと、毛を逆立てて激しく威嚇する龍を見て、ヴィクテージは咄嗟に僕の後ろへと隠れる。


「……私、嫌われてる……?」

「みたいだね……」

「……」


 彼女が驚くのも無理はないと思う。

 流石に僕もこれには驚いた。

 でも、その龍に対して、僕は怒ることをしなかった。

『この子の裏には何かある』

 そう確信したのは、その日の夜中であった。



 ****




 ヴィクテージが眠ったのを確認して、僕は目を開けてベッドから身を起こす。

 可愛い寝顔だ。純粋で無垢な寝顔は、僕が見るには勿体ないくらいだった。

 窓からは明るい光が差し込んでいる。

 月の光だ。煌々と輝くその月は何も語らず、ただ僕らをじっと見下している。

 半分開いた窓は、音を立てながら涼しい風を運び、僕の身体を叩きつける。同時に、近くの海からほのかな潮の匂いを乗せており、僕の鼻をつんざいた。


 ……その下。月を見上げるシルエットが一つ。

 冷蔵庫騒動を起こし、食事を奪おうと僕とバトルしていた、あの龍だった。


「……ねぇ君、人間の言葉を話せるようになりたい?」


 ゆっくりと、龍は振り向く。怯えているからなのか、恐る恐る振り向いているようにも見えた。

 数秒僕を凝視したあと、首を傾げる龍。

 おそらく『どういうこと?』って言うジェスチャーの意味だろう。表情からして疑問に満ちている顔だから……間違いないと思う。


「さっきさ、ヴィクテージに手、出していたでしょ? その時さ、僕怒らなかったよね。なんでかわかる?」

『……』


 あの時、なんで僕が怒らなかったのか。

 それは、『僕達は動物の言葉が分からない』から。

 人や動物の気持ちを分からずして、理不尽に怒るわけにもいかないと思ったのだ。


「僕、大切な人にああいう事をされたら普通に怒るんだけど……出会ったばかりだし、君の気持ちが分からないからさ。怒ろうにも怒れないんだよ」

『……。…………』


 ふと、龍は何かをジェスチャーで訴えてきた。

 ヴィクテージを指さして、次に僕を指さす。

 そばにあったテーブルに移動して、羽根ペンで紙に『Passé』と書いた。

 その『Passé』から矢印を十五センチ程引っ張って止めた左隣に『Maintenant』と書いた。

 フランス語だ。前者の『Passé』は『過去』、後者の『Maintenant』は『今』という意味だ。

 矢印をぐるぐると円を描くようにペンを動かしている。


 彼女と僕、過去と今、矢印……間。


「……もしかして、ヴィクテージが僕の過去を知らないからってこと?」


 龍はこくこくと頷いている。どうやら僕の言った通りのようだ。


「なるほどね……でも、僕もあの子の過去知らないよ? なのにどうして僕だけに懐くんだい?」


 僕が問いかけると、またペンを持って文字を書き出す。


「『Elle(彼女)』、『Vous()』、『L'oeil()』、『Ne() correspond(わせな) pas()』。『Nom(名前)』、『Ne() pas() appeler(ない)』」。


「『彼女は僕と目を合わせないし名前を呼ばない』そう言いたいの?」


 さっきよりもはっきりと頷いた。

 僕がそう解釈できたのは、普段から彼女は僕と目を合わせないことからだ。話している時も、必ず下かどこか違う目線を向いている。

 それに、僕のことを名前で呼ばずに『あんた』と言っている。

 何かあるとは思うが、完全に信用されていない僕がわざわざ聞くのもどうかと思っているのだ。

 この子は人間を観察することがうまい。よく見ていると、そう感じた。


「そうだなぁ……僕は彼女の気持ちも分からないよ。信用もされていないから、目を合わせてくれないのは当たり前だと思うんだ。でもそれは、君にとって苛立たしい事なのかい?」

『……』


 僕を見てくる。

『そんなの、言われなくても分かるでしょ』

 そう言われている気がして、僕は次に出そうと思っていた言葉を飲み込んだ。


「君の気持ちは分かった。それを理解した上でもう一度聞くよ。

 ……君、人間の言葉を話せるようになりたい?」


 代わりにそう聞いた最後、暫く沈黙が続いた。

 短い爪を頬に当て、月を見ながら考えている。

 半分開いた窓から柔らかな風が吹き付けてきた。

 それは青色の僕の髪の毛と、薄水色の龍の体毛をそっと揺らす。

 ヴィクテージと話した時の沈黙よりかは短く感じたが、それでも、この空間の静けさはどこか時間の経過を忘れさせてくれた。


 僕が最初に話しかけて、五分経過した。


『……』


 龍が僕の方を向いて大きく頷いたのを、僕はこの目でしっかりと見ていた。

御一読お疲れ様でした!

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あの日、私はあなたの栞だった。も是非、御一読お願いします。
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