出会った日のこと
僕が彼女と出会ったのは、それは暑い夏の日。
僕は異世界……基、魔法界の出身で、彼女はフランス出身。
特に彼女は、僕と違って平民の身。色々と苦労して暮らしてきたらしい。
そんな僕と彼女がどうやって出会ったのか…………。
僕の自己紹介も兼ねて、それを今から説明しよう。
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僕は歌仙埜牙狼。歌仙が苗字で、埜牙狼が名前。
でも大体の人は、埜牙狼をのがろうと読み間違えるので、そこからあだ名がついて、基本的な愛称は「がろー」。なんとも素晴らしき当て字。俗に言うキラキラネームなのだろうか……。
僕も僕で、がろー呼びのほうが楽だ。名付け元の母さんを恨んだりとか、そういうのもしていない。ただそうやって呼ばれるのが嬉しいだけなんだ。
僕が普段いる世界は、住民のほとんどが魔法を使うことが出来る『魔法界』と呼ばれる所だ。
魔法界は、簡単に言えば現代日本の一部になる。戦争だって起きるし、ニュースも現代日本のことが度々流れてくる。
でも時代の流れはこちらの方が発展しているらしく、あちらの世界ではまだ二〇〇〇年を越えて僅か一五年強しか経っていない。
魔法界を年代で例えると、大体三〇〇〇年程だろうか。つまり言うと、魔法界は現代日本の「未来」の世界ってことになる。
魔法とは言っても、生まれ持った『魔力』と呼ばれる偏りに値する属性がいくつかあって『氷属性』『火属性』『雷属性』『風属性』『混属性』の五種類に分けられる。
その中でも『混属性』は、ほか四つの属性魔法全てを使いこなすことが出来る、魔法界には大体片手五本指で数えられるほどしかいない、非常に珍しい属性だ。
『ガリシア=ベディリア』『レイラ=アリスタン』『歌仙智之』『ペスト=チチェン』『メイル=ガーマイア』
この五人が主に有名な混属性の魔法使いだろう。
『ガリシア=ベディリア』は、僕が普段通っている魔法学校の校長先生。得意な魔法は雷属性系。
昔はとんだやんちゃ者で、前の校長先生でも手が出せなかったんだとか。
『レイラ=アリスタン』は、他世界からやってきた異世界転移者。であり、ガリシアさんの一番弟子。得意な魔法は風属性系。
『歌仙智之』は、その苗字の通り僕のおじいちゃん。
僕のお母さんのお父さんだ。得意な魔法は氷属性系。
今はもう亡くなっていて、『英雄碑』と呼ばれる魔法界の屋上に立てられた碑に、その名前が刻まれている。
『ペスト=チチェン』は、世界的にも有名な旅人兼魔法使い。得意な魔法は火属性系。
僕達とは違う世界「現代日本」を生きてきたらしい。ちなみに人外。
現在は森に立て篭もって寺子屋を開いているほど、魔法の実力は有名だ。
『メイル=ガーマイア』は、僕の昔の親友。それでいて、死ぬはずであった僕の運命を変えてくれた、一人の恩人。得意な魔法は属性全般、本物の混属性と言える。
智之と同じくもう亡くなっていて、英雄碑にその名前が刻まれている。
一応、この五人の中では一番強い魔法使いとして知られている。
さて、本題に入ろう。
僕はいつも通り魔法学校に通おうとして家を出た。
箒に乗って、杖を持って、黒装束を着て、お母さんに元気よーく行ってきますと言ったものだ。
ところがその行き道での事だった。
なんだか変な人達が僕の前に現れて、僕を連れ去ろうとしたんだ。
……何を言っているか分からないと思うけど、僕も何を言っているのかが分からない。
これが僕の精一杯の語彙力と言うやつだ。許してほしい。
『こいつを連れていけば、あのフランスは───』
なんてボソボソと小声で聞こえてきたテナーボイスを聞き流しながら、僕はしばらく意識を失うことになるのだ。
*****
「……あれ? 大丈夫? 元気? ちょっと、生きてるー?」
そんな聞きなれない陽気な声が聞こえて、僕はようやく意識がはっきりとしてくる。
誰だ……? 友達のシュリーか? それとも名草か?
いいや違う。僕の友達はこんな陽気な声は出さない。
……試しに目を開けてみた。
するとそこに居たのは、
「あ、良かった生きてた。大丈夫ー? 君、私の前に落ちてきたから凄いビックリしたんだけど……」
見慣れない少女だった。
年は僕よりも一歳か二歳下くらい。背も僕より小さく、少し小柄な印象を醸し出す……緑髪の少女。
「…………えっと……お一つお聞きしてもよろしいですか……?」
「なによ、助けたんだから先にお礼くらい言いなさいな」
「アッすみませんありがとうございます……」
「で? 何よ」
「ここは何時代でしょうか?」
「時代って……あなた、頭とち狂ってんの? ここは一九八二年よ。他に聞きたいことは?」
うん? 一九八二年?
それって戦後真っ盛りな時じゃないですか。僕聞き間違えたかな?
「一九八二年? あの、ここどこですか?」
「フランスだけど……って大丈夫? 頭回ってる?」
フランス?
……あ、なんだか僕は察してしまったよ。
これってもしかして……
「僕……異世界転移しちゃった……?」
「は?」
そんな彼女の素っ頓狂な声から、僕と彼女の時は動き出した。