プロローグ
『寂しい』
そう思ったのは何年ぶりだろうか。
もしかしたらもっと経っているのかもしれない。あの子だって、きっとそう思っているはずだ。
「……連れないよなぁ、ほんと……」
言葉に合わせるように、ベッドに微かにかかる長いカーテンは静かな音を立てて風に揺られる。
『私を置いて』なんてさ。出来るわけないじゃないか、と思っても、そうせざるを得なかったあの時の運命を魔法で変えたいくらいだ。
僕の世界の、通っていた魔法学校において、『友達や歴史、人に関わる運命を変えてはいけない』……そんな一つの掟がある。僕の友達はそれを実行して、今や死ぬはずだった僕の運命を変えてくれた。
そんな英雄として称えられた僕の友達は、今は土の中で安らかに眠っている。
通常、魔法というのはどこでも使えて、どこでも箒に乗れて、何処にだって行けたはずなんだ。
どうしてあの時、運命を変えずにそのまま見過ごしたのだろうか。あんなか弱い女の子を見捨てるなんて、男としてどうなのだろうか。友達にも、あの子にも、引っぱたかれるに違いないさ。
「……それでも」
行かなきゃ。
立ち上がり、僕は早足で部屋を出た。
閉め忘れた窓からは、いつになく寂しい風が、まるで鳴くように吹いていたのを僕は見逃さなかった。
『あの子はこっちだよ』
そう、風が囁いている気がした。