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義弟の指

作者: 又蔵 雲國斎
掲載日:2017/10/03

 義弟の指が体に触れるたび、じんわりと甘い痺れがわたしの内側に広がる。

「…………ここは?」

 分かってるくせにいちいち訊かないで。そう思いながらも、わたしは決まりきった言葉を返す。

「ん、気持ちいい」

 我ながらゾッとするような鼻にかかる声。体が熱を帯びてくると、自然にこんな声が出てしまう。甘ったるく発した自分のこの声が、なおさら体を熱くする。

 決して細いわけでもないのに、どこか繊細な義弟かれの指。その指がもたらしてくれる快感は夫のソレとは比べ物にならない。申し訳ないけど、この味を知ってしまったら、あの人じゃもう満足はできない。

 おかげで初めて義弟にしてもらったあの日から、夫には一度もしてもらっていない。

 触れるか触れないか。そのぎりぎりのラインで指を這わせて焦らせて。かと思えば、まさにそこ、という箇所をピンポイントで攻めてわたしを翻弄する。

 気付けばもうすっかり義弟のなすがまま。 ただ、彼の指を期待して、彼の指に身を委ねるだけというありさまだ。

 こんなの、不器用な夫にはとても無理な芸当だ。実直さに惹かれて結婚したあの人だけど、同じ親から生まれてどうしてこうも違うのだろう。見た目も性格も正反対なら、指の器用さだって真逆。

 比べたって仕方ないのに、悪いと思いつつもどうしても比較してしまう。夫にこの指があったなら、なんて少しの罪悪感とともに思いながら、わたしは思考がぼやけてくるのに合わせてそっと目を閉じる。

 静かなリビングに、衣擦れの音が染み渡る。それだけで脳の奥がじくりと疼く。

 体はじんじんと火照り、どこもかしこもが敏感になってしまったような、あるいは鈍感になってしまったような不思議な浮遊感に飲み込まれていく。

「アッ」

 不意打ちのような快感に体がびくんと跳ねて、大きな声が出てしまった。慌てて左手で口を押さえる。

「ちょっと義姉さん、兄貴起きちゃうじゃん」

「うん、ごめん」

 小声で返してソファを見る。

 顔を赤らめた夫が、柔らかく寝息を立てていた。

 仕事で疲れていたのか、食後のお酒であっという間に酔い潰れて眠ってしまった。

 これまでは夫がいない時にしてもらってたけど、眠りこける夫の横で雑談をしていたら、なにやらこんな流れになってしまった。わたしの方が年上だからと始めは強気でいても、気付けば彼のペースに乗せられて。

 夫を起こさないようにと気を付けてはいたのに、たまらず声が出てしまった。

 …………義弟がいけないのだ。

「ひょっとして痛かった?」

 柔らかい声で囁かれる。

「……気持ちよかった」

 なら良かった、と義弟が体を動かす。

「じゃ、体起こして」

 言われて、期待が高まる。

 頭がぼうっとする中で、言われたとおりに体を起こす。彼の指はとても素敵だけど、わたしはやっぱりこれが一番好きだ。

 背後から両肩を掴まれ、硬い物が押し当てられる。

 その感触にわたしの中にかすかに緊張が走る。

「力抜いて。いくよ」

 頷く。

 ぐっ、と力強くソレを押し込まれる。

 リビングに小枝が折れるような軽い音が響いた。

「う――――っ、ふぅ……」

 一瞬息が詰まって、直後に全身が弛緩。なんとも言えない心地よさが体を満たしていく。それからゆったりと思考がクリアになる。

「はい、お疲れさん」

 ぽんと肩を叩かれて、わたしはがっくりと(こうべ)を垂れた。

「あー、気持ちよかったぁ」

 ぐりぐりと首を回す。驚くほど軽い。

「ていうか義姉さん、体すぐ凝りすぎだから。少しは運動しろっつったじゃん」

「わーかってるけどさぁ。主婦は大変なんだって、色々」

 色々ってなにさ、と問われて色々は色々さぁと返す。色々は色々さ。

「むふーん、やっぱり旦那にしてもらうのとは全然違うや。なんていうかこう、生まれ変わったような気分になるよね」

「いや俺プロだし。比べられても困るし」

「またしてね」

「そりゃいいけどさ。ところで義姉さん」

 急に義弟が真面目な顔になって、少しドキリとする。

「な、なに?」

「……太った?」

「う、うるせえよッ」

 うるせえよッ。

「おまえもうるさいよ」

「あ、ほら。兄貴起きちゃったじゃん」

「うるせえッたらうるせえッ」

「いやだからおまえがうるさ」

「うーるーせーッ」

 なんてお馬鹿なやり取りをしながら、わたしは愛しい義弟の指に視線を向けて内心で舌をなめずる。

 次は、いつしてもらおうかな。


          終

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