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第9話 鶏のみぞれ煮

 みぞれ煮は凄く簡単な和食のレシピだ。手の込んだ料理が苦手だという人でも作れるから、機会があったら挑戦してみてほしい。

 まずは下拵えだ。

 鶏肉を食べやすい大きさに切って、酒に二十分ほど漬け込む。

 本当は酒と一緒に醤油を使うんだけど、この世界には醤油ってないからな。

 エリンギを簡単に切っておき、大根は皮を剥いて摩り下ろして軽く水気を切っておく。

 鍋に水を入れて昆布を三十分ほどつけてから火にかけて、簡単な出汁を作る。

 昆布でなくても煮干しや鰹節があるならそっちを使ってもいいと思うぞ。

 此処までが下拵えだ。次からは本格的に料理していく。

 といっても混ぜて炒めるだけなんだけどな。

 漬け込んだ鶏肉に小麦粉を薄くまぶし、油をしいたフライパンで焼く。

 焼き色が付いたらエリンギを入れて少し炒め、砂糖、酒、酢、出汁と大根おろしを加えて更に炒めていく。

 火が通ったら完成だ。

 な、簡単だろ?

 俺はネギがある方が好きなので、皿に盛り付けたら切った青ネギをぱらっと。

 今回は出汁を一から作ったから少し時間がかかったけど、出汁の素なんかがあればもっと手早く作れると思う。

 この世界、コンソメなんかもないし、料理する時にちょっと不便なんだよな。

 改めて、日本の調味料って凄く便利なものが揃ってたんだなって思うよ。

「今回の料理は随分と控え目な匂いだな」

 まるで俺の料理が終わるのを待っていたかのような絶妙なタイミングでシーグレットがやって来た。

「変なもんを作ったら承知しねぇぞ。どれ、オレが味見をしてやる」

 お前、単純に食いたいだけだろ。

 まあ、いいけどさ。

 シーグレットは鶏肉をひとつ摘まんで口に入れた。

 ゆっくりと咀嚼しながら、うっとりとした様子で呟く。

「おお、これは……あっさりしていて柔らかいな。パンよりも米に合いそうだな」

 よく分かってるじゃん。みぞれ煮は炊きたて御飯によく合うんだよ。

「これなら王も満足なされる。早速持っていけ」

「……俺が?」

 そこは王の世話係とかメイドが持って行くんじゃないのかよ。

 メイドがいるかどうかは知らないけどさ。

 シーグレットはワゴンを持ってくると、そこにみぞれ煮を載せた。

 他にはパンと、スープが載っている。

 こうして見ると、魔王の食事っていっても兵士が食べているような普通の食事と変わり映えしないんだな。

 あまり高級志向じゃないというか、庶民的というか。

 食事を作ってるのは俺たちだけど、それって魔王としてどうなのかなって思う。

「王の寝室は謁見の間の奥にある。間違って変なところに運ぶんじゃねぇぞ」

 俺はシーグレットにワゴンを持たされて厨房から追い出されてしまった。

 魔王に会うのか……俺が捕まって料理を作れと命令されて以来だ。

 どんな顔をして会えばいいのやら。

 俺はワゴンを押しながら、かつての宿敵の姿を脳裏に思い浮かべてはぁっと息を吐いたのだった。

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