第84話 勇者は異世界を満喫する
それから月日は流れ。
魔族の国アラグレアに、クロエミナから遠路はるばるやって来た人間の商人が訪れるようになった。
彼らが取り扱う調味料や保存食の数々は、魔族の食生活を豊かにしてくれた。
無論、魔族だけが交流の恩恵を受けているわけではない。
クロエミナでも、魔族の旅人が出入りするようになってから腕の良い魔道士が誕生するようになったという。
今度、一流の魔道士を決めるための大会があちらで開催されることになったのだとか。
両種族の交流は、互いに良い影響を与えてくれているようだ。
「肉の準備はまだか、火の準備はもうできてるんだぞ!」
厨房は相変わらず。兵士たちの食事を作るので大忙しの日々を送っていた。
俺はどっちかというとまかない専門だったけど。
後、魔王の食事な。
俺が作るのはもっぱら異世界の料理だから、それを嗅ぎつけた魔王が厨房に突撃してくるんだよな。
いちいち相手をするのも面倒なので、それなら最初から魔王の食事は俺が作った方がいいってことになったのだ。
本当に、食事が絡むと残念になる魔王だよ。
「マオ、何作ってるの?」
「これか? カルツォーネっていうんだ。要は具が入ったパンみたいなもんだな」
「へぇ、美味しそうだねぇ」
仲間と会話をしながら作る料理は楽しい。
俺は、この生活に満足している。
住んでいる部屋は使用人用の狭い部屋だし、風呂もトイレも共同設備ではあるけれど、そんなことなど気にならないくらい、此処での生活には魅力が詰まっている。
魔族と暮らし始めた人間たちも、この魅力を感じてくれているだろうか?
きっとそうだと、俺は思いたい。
「シーグレット、石窯借りるぞー」
カルツォーネを焼きながら、俺は棚の上にある小瓶に目を向けた。
コンソメ、少なくなってきてるな。そろそろ作り足すか。
コンソメだけではない。色々な調味料が減ってきている。
醤油が手に入ってから和食も結構作るようになったから、調味料の減りが結構激しいんだよな。
また魔王に日本の調味料を召喚してもらうか。
──こんな感じで、俺のこの世界での生活は送られている。
人間と魔族との戦争がなくなった今、俺は勇者ではなくなったが。
それでも俺は、人から名を問われたらこう答えるだろう。
人間と魔族の共存を求めることに奔走した、隷属の勇者である、と──




