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第77話 晩餐会始まる

 十八時。晩餐会の会場である謁見の間に、カーミラに連れられてクロエミナ国の王様と王妃様が姿を現した。

 二人とも緊張に引き締まった面持ちで、部屋の中央に用意された食事の席を見つめている。

 豪華な刺繍が施されたテーブルクロスが掛けられた長テーブルに、席を彩る薔薇の花。綺麗に磨かれ並べられた銀食器の数々。

 魔王が自ら用意した品々は、人間が開く食事会で用いられるものと遜色のないものばかりだ。

 人間との食事の席ということで気を遣ったのか、それとも元々魔族の嗜好が人間と似ていたのかは分からないが、これは印象がいい。

 環境は滞在する者の気持ちに影響を与えるからな。

 魔王はゆったりと自分の席に腰掛けていたが、王様たちが部屋に入ってくると、ゆっくりと席を立った。

 それを椅子に座ったまま見つめるフランシスカ。今日の彼女はいつもの黒いドレスではなく、真っ赤なドレスを纏っている。

「よくぞ参られた。余がアラグレアの王、フロイドリオンである」

 テーブルに目を向けて、悠然と語る。

「今宵は我ら魔族と汝ら人間が和平を語る記念すべき日だ。そのための会食の席を設けた。存分に楽しんで行かれるが良い」

 ……魔王の言葉が上から目線なのが気になるが、魔王からしてみればこれでも友好を示しているのだろう。

 俺は小さく喉を鳴らしながら、自分の出番が来るのをシーグレットと共に部屋の隅で静かに待った。

「本日はこのような立派な会食の席に招いて頂き、感謝の念に尽きませぬ」

 王様はお決まりとも言える挨拶を述べた。色々な意味で緊張しているのだろう。

 その証拠に、全身が固くなったままだ。

 王様にしてみれば魔族の国への来訪なんて始めての経験だろうから、無理もないかもしれないが。

「互いに良き話が交わせることを期待したいですな」

「どうぞ、お席に」

 カーミラは王様たちを席に案内し、一礼をして謁見の間から去っていった。

 さあ、俺たちの出番だ。

 ワゴンを押して、俺とシーグレットは王様たちの席に料理を運んだ。

 料理はリベロが施してくれた保温魔法の効果が付与されている。作ってから時間が経っていても熱々のままだ。

「料理は我が国が誇る料理人たちが腕によりをかけて作ったものだ。他では味わうことの叶わぬ極上の一品を楽しまれるが良い」

 目の前に出される料理の皿を見つめながら、魔王が言う。

 魔王自身も料理を楽しみにしていることが声から分かる。嬉しそうなのが伝わってくるよ。

「ラザニア、チョップドサラダ、ミネストローネのフルコースです。デザートにはケーキを御用意しました。御賞味下さい」

 俺は料理の説明を述べながら王様の前に料理を並べた。

 料理の珍しさに興味を惹かれたのか、王様がほうと声を漏らす。

「これは。見たことない料理ばかりだが──」

 こちらを見て、俺に尋ね──

 その表情が、唐突に変化した。

「……もしや……マオか?」

 どうやら、俺が誰なのかに気付いたらしい。

 というか、俺の顔を覚えてくれていたんだな。城から送り出される時に顔を合わせたっきりだったから、とっくに忘れられていると思ってたよ。

「……お久しぶりです」

 俺はグラスにワインを注ぎながら小さく挨拶を返した。

 俺のことを覚えていてくれたのは嬉しいが、今は再会を喜んでいる場合ではない。俺にとっては王様と魔王が和睦についての話をすることの方が大事なのだ。

「何故、御主が此処で料理人などに──」

「その話は話すと長くなりますので、別の機会に」

 俺は会釈をしてその場から後退した。

「今は料理をお楽しみ下さい」

「では、乾杯をしよう」

 手にしたグラスを掲げる魔王。

 それに倣って、他の者も次々とグラスを顔の前で掲げた。

「アラグレアとクロエミナの和平を願い、此処に杯を掲げる」

 皆が掲げたグラスは、燭台の炎の光を反射してきらりと輝いていた。

「乾杯──」

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