第71話 勇者として
いよいよ明日は晩餐会だ。
シーグレットが仕入れてくれた食材も揃ったし、当日はどう動くかの打ち合わせも済んでいる。
後は、その日が来るのを待つだけだ。
「明日が本番だ。皆、マオから自分の役割に関しての話は聞いてるな? 一人一人が落ち着いて行動すればミスも起こらねぇ。確実に目の前の仕事をこなすこと! 分かったな」
『はい!』
朝お決まりの朝礼を済ませたら、皆朝飯作りのために各々の持ち場に移動する。
今日の朝飯はピラフだ。何かピラフを食いたい気分だったから俺が提案したのだ。
鍋に米と水を入れたら具材の準備だ。
細かくみじん切りにした人参とマッシュルーム、コンソメ、塩、バターを鍋に入れて米と一緒に炊き上げるだけで出来上がり。簡単だろう?
そうして兵士の朝飯とまかないを作ったら、食事の時間。
ピラフを美味しく頂いたら、片付けをして明日のための最終確認だ。
俺は厨房と冷蔵室を往復して、明日使う食材をチェックしていった。
肉は傷んでいない。トマトの水煮は事前に作っておく、卵は新鮮なものが揃っている……
大事なことだからな。手抜きしないでしっかりとやっておきたいんだ。
「気合入ってるねぇ」
俺の様子を見てリベロが微笑みながら声を掛けてくる。
その言葉に適当な相槌を打ちながら、俺は作業を進めていった。
今の俺には、余計なことを考える余裕すらない。
それだけ、晩餐会を是が非でも成功させたいという思いは俺の中でかなりのウェイトを占めていた。
人間と、魔族の共存──
千年前に断たれた交流を復活させるための力として、俺の作った料理を役立たせたいのだ。
どうか、クロエミナ国の王様たちが、人間が、魔族と手を取り合おうと考えてくれるように──
そのためだったら、どんなに手間のかかる料理でも喜んで作ってやるさ。
「……よし」
確認作業を終えた俺は鍋を取り出して、トマトの水煮を作る準備を始めた。
トマトの水煮は保存が利くからな。今のうちに作っておいた方が明日の作業が楽になるだろう。
「何か手伝おうか?」
「それじゃあ、トマトの湯剥きを手伝ってくれるか?」
俺の戦いは始まったばかりだ。
手に持つのは剣じゃないけど、勇者として、最後まで納得がいくように戦い抜いてやる。
そして、皆が笑顔になれるような勝利を収めてやるんだ。




