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第69話 小麦粉を捏ねて

 誰もいなくなった厨房で、俺は一人小麦粉をふるっていた。

 これは、此処にある小麦粉でラザニアの生地が作れるかどうかの実験だ。

 セモリナ粉を仕入れてほしいって言ったら、セモリナ粉って何だってシーグレットに言われるんだもんな。大人しくあるもので作ることにしたよ。

 作った生地は細く切ればパスタになるから、夜のまかないとして使えば無駄にはならないしな。

 それじゃあ、作っていこう。

 ボウルに小麦粉を入れて、中央をへこませておく。

 別のボウルに卵と油と塩を入れて混ぜ合わせ、合わさったら小麦粉のへこませておいた部分に入れる。

 周囲から小麦粉を崩していきながら卵液に合わせていき、混ぜる。

 ある程度混ざったら手で軽く捏ねながら、粉っぽさがなくなるまでまとめていく。

 まとまったら麻布でしっかりと包んで、冷蔵庫へ。この状態で二時間ほど寝かせる。

 休憩しながら時間を潰し、二時間経ったら再度厨房へ。

 寝かせ終わった生地を取り出し、状態を確認する。

 ちょっと不安ではあるけど……まずまずの出来具合だ。これなら伸ばしてもぼろぼろに崩れたりはしないだろう。

 生地を調理台の上に置き、手で捏ねて馴染ませていく。かなり固めなので全身の力を使って丁寧に捏ねていく。

 滑らかな生地に仕上がったら、生地を伸ばしていく。この作業がなかなか大変だが、麺棒を使って丁寧に行っていく。最終的に一ミリくらいの薄さに仕上げるのが理想的だ。

 ラザニアの生地にするならここで作業は終わりだが、今回はパスタにするので生地を細く切っていく。

 太さが均一じゃないのはまあ御愛嬌ってことで。

 完成した麺はトレイに移して、全ての作業は終了だ。

 実際に作ってみて思ったことだが、これを晩餐会当日にやるのはちょっと大変そうだな。

 でも、当日に作った方が味はいいだろうし……

 事前に仕込みをするべきかどうか、悩むな。

 考えていると、厨房にぞろぞろと料理人が集まってきた。

 時計を見ると、既に休憩時間が終わっていた。

 小麦粉を捏ねる作業ってのはどうしても時間がかかるものだからな。仕方ないか。

「あれ? マオ、休憩時間も料理してたの?」

 小麦粉の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。リベロが小首を傾げながら尋ねてきた。

 俺は流し台に突っ込んでおいたボウルを洗いながら、答えた。

「晩餐会の料理作りで、ちょっと確認したいことがあったからな」

 トレイの上の麺に目を向けて、考える。

 パスタにするなら、トマトソースにするのが王道だろうな。

 そうなると、トマトの水煮が必要になるな……

 トマトはあるし、作るか。

 俺は洗い物を終えて、足下の野菜箱からトマトを取り出した。

 水煮は簡単にできる。湯剥きしたトマトを塩と一緒に水で煮詰めるだけだ。

 夕飯作りの仕度を手伝いながら、八個分のトマトの水煮を作った。

 八個はちょっと多すぎたか? まあ、トマトたっぷりの方がパスタは美味いからな。

 ちょっと時間が早いけど、パスタ、作り始めるか。

「まかないもう作るの? 早いね」

 材料を揃え始めた俺に、肉を切りながらリベロが言う。

 随分大きな肉だな。これ全部使うのか。

「夕飯は何作るんだ?」

「これ? ブラックサーペントのから揚げだよ。前にマオが作り方教えてくれたでしょ? ブラックサーペントがたくさんあるから、から揚げにしようって話になったんだ」

 ブラックサーペントとはその名の通り黒い蛇の魔物らしい。食肉としては結構メジャーなものなのだそうだ。

 蛇肉か。蛇って鶏肉みたいな味がするっていうよな。美味いのかな。

 から揚げにすれば、どんな肉でも美味く食えそうな気はするけど。

「こんなに作るのが簡単なのに美味しいんだもの、から揚げって凄いよねぇ」

「そりゃ、から揚げは正義のメニューだからな」

 から揚げなら、作るのにそこまで時間はかからないだろう。

 俺はパスタ作りの方に集中してて良さそうだな。

 調味料を揃えて、野菜を揃えて、準備は完了だ。

 フライパンを取り出して──いざ、調理開始だ。

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