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第67話 シンプルに塩と胡椒で

 風呂に入ってさっぱりとして部屋に戻ったとほぼ同時に、厨房からお呼びの声が掛かった。

 同僚に連れられて厨房に入ると、既にまかないをよそって席に着いている皆が俺を迎えてくれた。

 シーグレットの姿はなかった。料理のことで魔王と話すことがあるとかで、席を外しているらしい。

 俺はまかないが盛り付けられた皿を受け取って、自分の席に着いた。

 夕飯のメニューは、ステーキだった。

 ごろごろと適当な大きさに切り分けられた肉から、肉汁が染み出ている。何とも美味そうだ。

 早速頂こう。

 俺は肉を一切れ頬張った。

 シンプルな塩と胡椒のみの味付けだが、それが肉の旨味をより感じさせてくれる。空きっ腹には堪らないな。

 次々と肉を口に運んでいると、隣からくすくすという笑い声が聞こえてきた。

「すっかり元気になったみたいだね。朝にスープしか食べられなかったのが嘘みたいだよ」

 リベロが俺のことを見て笑っていた。

 俺は口の中に入っていた肉を飲み込んで、言った。

「皆が俺のことを心配してくれたからな。それが特効薬になったんじゃないか?」

「そんなことを言ってくれるなんて。嬉しいなぁ」

 はむっとステーキを頬張って、リベロは俺に問いかけた。

「明日からお仕事するの?」

「ああ。もう具合はいいし。普通に仕事に出るよ」

「そっか」

 厨房をぐるりと見回して、彼は言った。

「やっぱりマオがいないと料理の味が淋しくなっちゃってねぇ。兵士たちが文句を言いに此処に来るんじゃないかって一日中どきどきしっぱなしだったんだよ」

 ああ、コンソメとか醤油とか異世界の調味料を扱うのは現状俺だけだもんな。

 この世界の料理の味付けは基本的に塩と胡椒だけだから、味が淋しいと感じるのも無理はないか。

 料理ってのは一度美味い味付けで味わうと、以前の味付けだと物足りなく感じるものだからな。

 近いうちに皆に異世界の調味料の使い方を教えないとな。

 俺は最後のステーキを口に放り込んだ。

「明日からまた頑張るよ」

「うん。期待してるよ」

 空になった皿を流し台に置いて席を立つ。

 それと同時に、用事を終えたらしいシーグレットが戻ってきた。

「ふー」

 手にしていた羊皮紙の束を、どさりと置いて席に着く。

 随分と疲れた表情をしている。

「魔王と何を話してたんだ?」

「あー?」

 俺が話しかけると、シーグレットはゆっくりとこちらに目を向けた。

「何って、晩餐会の話だ。誰も食ったことねぇような料理を開発しろとのお達しでよ、その他にも色々と注文があるし、流石に参っちまったぜ」

 成程、晩餐会に出す料理の話か。

 魔王のことだから、色々と無理難題を言ってきたであろうことは容易に想像がつく。

 これはシーグレットから詳しく話を聞く必要があるな。

「まあ、まだ時間はある。じっくり考えるさ」

 腹減った、と言って、シーグレットは無造作にフォークを掴むとステーキをばくばくと食べ始めた。

 まあ、シーグレットの言う通りだ。晩餐会のことを考えるのは今でなくてもいいだろう。

 食事は済んだし、今日は片付けは免除されてるから部屋に戻るか。

 たっぷり寝て、明日からの仕事に備えよう。

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