第54話 勇者の思い
皆で協力し合ってどうにか全ての料理を終わらせた俺たち料理人は、祭の会場にもなっている大食堂へと向かった。
大食堂には既に大勢の兵士がいて、テーブルの上に並んでいる料理をつつきながら談笑し合っていた。
料理、皆に好評みたいだな。ステーキもサラダもスープも均等に量を減らしているよ。
中でも特に数を減らしているのは、俺が作ったから揚げだった。
やっぱりから揚げは正義のメニューだな。美味いもん、から揚げ。
よし、俺も食うぞ。長時間料理を作ってたということもあって胃の中はすっかり空っぽだ。
空の皿に生肉ステーキとサラダを盛って、スープは器によそって、俺は空いている席に座った。
肉を生で食べるのは初めての体験だ。どんな味がするんだろう。
フォークでステーキの端をちょいとくずして、ぱくり。
ちょっとぴりっとするのは胡椒が入っているからか。ケッパーもいいアクセントになってるな。
少し癖がある味だけど、もっちりしていて美味い。好みが分かれそうではあるけど、俺はこれ好きだ。
サラダの方はどうかな。
透明のこんにゃくみたいなのが入ってるけど、これがブルーカクタスか。サボテンの果肉って透明なんだな。
ちょっとつるつるしていて、噛むとほんのり甘い味がする。
ドレッシングのないサラダなんて、って思ってたけど、これならドレッシングがなくても十分に美味いな。
肉を食べて、野菜を食べて、スープを一口。
フライングエッグのスープは、俺が日本にいた頃によく飲んでいた卵スープによく似ていた。
野菜たっぷりで、それなりに食べ応えがある。大きめの卵の塊が入っているのも個人的には嬉しい。
コンソメを使っていないのでちょっと味に物足りなさはあるが、胡椒が効いているのでそれなりに美味しく頂くことができた。
「この肉美味いな!」
「こっちの芋も美味いぞ。エールが飲みたくなるな」
「俺はこのパンが好きだ。甘くてふわふわしてて、幾らでも食べられそうだ」
「こんな料理を作るなんて、うちの料理人は大したもんだな。褒めてやりたいぜ」
周囲では料理を食べた兵士たちの感想が飛び交っている。
これだけ喜んでもらえるなんて、一生懸命に作った甲斐があるというものだ。
「マオの料理、好評だねぇ」
俺が料理を食べて一息ついていると、スフレパンケーキを大量に盛りつけた皿を持ったリベロがやってきた。
パンケーキばっかり食って、飽きないのかな、こいつ。
「凄い量だな」
「これすっごい美味しくて。ついつい手が伸びちゃうんだよね」
どうやらリベロは甘いものが好きらしい。
俺も甘味はまぁ好きな方だけど、流石にこれだけの量は食えないな。
「僕、マオが羨ましいよ。いつでも好きな時に好きな料理が作れて、食べられるんだもの」
「こやつの作る馳走は美味だ」
背後から、声。
俺が振り向くと、そこには両手に料理を盛った皿を持った魔王が立っていた。
魔王もいたのか。というか、魔王がこんな場所で兵士に混ざって料理を食ってるなんてな。
魔王の分の料理は別に分けて運んだはずなんだけど、そっちはどうしたんだ?
「あんたの分の料理は別に用意したはずだろ。そっちはどうしたんだよ」
「美味い馳走はいくらあっても良い」
……あれだけ食っといて足りないって言うとか。
「異世界の料理も、異世界の甘味も、余を大いに楽しませてくれる存在だ。それらを食せるというだけでも、祭を開いた甲斐があるというものよ」
祭は民のためにやってるんじゃないのかよ。
本当に異世界の料理が絡むと残念になる魔王だな。
「勇者よ。余は実に気分が良い。これだけの馳走を作ったことを褒めてつかわすぞ」
俺だけが作ったわけじゃないんだけどな。
褒めるなら、俺だけじゃなくて厨房の連中全員を褒めてほしい。
あいつらも、魔王や兵士のために日々頑張って料理を作っているんだから。
「これからも余の下で美味い馳走を作れ。これは命令である。余の心が躍るような魅力に溢れた馳走を期待しておるぞ」
「……命令も何も、そのために俺にこの首輪を填めたんだろ」
俺は隷属の首輪をくいっと持ち上げて、言った。
「心配しなくても、料理はちゃんと作ってやるよ。この首輪がある限り、俺はあんたの奴隷なんだから」
俺が厨房に馴染んでいるとはいっても、俺が魔王の奴隷であるという事実は変わらないわけであって。
その事実がなければ俺は料理人になることもなかったんだろうけど、それを考えると複雑な気分になる。
もしも俺が魔王に負けてこの首輪を填められることがなかったら──俺は、気のいい厨房の連中まで魔族の仲間だってだけで斬り捨ててたんじゃないかって。
今の俺には、魔族だって理由だけで此処の奴らと戦う気はない。隷属の首輪がなくなっても、その考えは変わらないだろう。
何とか戦う以外のことで、人間と魔族との関係を収めることはできないものかと考えているのだ。
新しく召喚された勇者が此処に来る前に、その方法を見つけたい。
俺の前から去っていく魔王の背中を見つめながら、俺はいつの間にか真面目に引き締まっていた面持ちで長い息を吐いたのだった。




