第44話 野菜沢山のカレースープ
俺が作ろうと思っているのは、ずばりカレーだ。
日本から召喚された調味料の中にカレー粉があったのを見て、作れるんじゃないかって思ったんだよな。
カレーは匂いが強いし独特の味だから、ひょっとしたらこっちの連中の口には合わないかもしれないけれど……
いや、カレーは子供も大好きな正義のレシピだ。大丈夫だろうと思いたい。
早速作っていこう。
まず、野菜の下処理をする。
人参、玉葱、ジャガイモ、茄子、ピーマン、カボチャを食べやすい大きさに切っていく。
今回作ろうと思っているのは野菜たっぷりのカレーだから、野菜は種類を豊富に揃えてみたぞ。
肉は鶏肉を選んだ。これも食べやすい大きさにカットする。
鍋に油をひいて、細かく切ったにんにくと生姜を入れて火にかける。
香りが出てきたら玉葱を加えて、薄く色が付くまで炒めていく。
玉葱に色が付いたら鶏肉を加える。表面に焼き色を付けるような感じで焼いていく。
肉が色付いたら人参、茄子、ピーマン、カボチャを鍋に投入。更に水、コンソメ、カレー粉を加えて鍋に蓋をし、煮込んでいく。
カレー粉が入ると一気にカレーって感じがするな。完成していないのにいい匂いだよ。
匂いにつられたのか周囲の料理人たちが鍋を興味津々と見つめている。
涎垂れてるよ、君たち。まだ完成してないんだから落ち着きなさい。全く。
鍋が沸騰したら灰汁を掬って、更に煮込む。二十分も煮込めば十分だろう。
最後に塩と胡椒で味付けをしたら完成だ。
カレーといえば御飯にかける定番のやつも好きだが、今回はスープ風にしてみた。
皿に御飯を盛って、カレーは器によそって──
うん、なかなか美味そうだ。
おっと、思わず涎が出そうになった。
つい食べたくなるのを我慢して、俺は人数分の器に御飯とカレーを盛り付けていった。
「凄い匂いだな。何のスパイスなんだ、こりゃ」
鍋の中を覗き込むシーグレット。
俺はカレーを盛り付けながら、答えた。
「カレーっていうんだ。俺の故郷じゃ皆が好きだった料理だぞ」
「ほう」
キャロットラペを作り終えた料理人たちが、いそいそと調理台の上を片付け始めた。
綺麗になった台の上に、盛り付けたカレーを配っていく。
「この匂い、嗅いでるとお腹が空くね」
人数分のスプーンを布巾で磨いて皿に添えながら、リベロは唇を舐めた。
「準備はできたよ。早く食べよう?」
「よし、準備はできたな。皆席に着け」
シーグレットの号令で皆が我先にと席に着いた。
スプーンを手にして、さあ食べようとカレーの器に手を付けようとした、その時。
何とも言い難い奇妙な感覚を覚えて、俺は思わず手を下ろした。
厨房の出入口の方に目を向けると──
戸口に半分身を隠すように佇んでいた魔王と、目が合った。
彼の傍らにはフランシスカの姿もある。
まるで幽霊のようにそこにいるので、俺はぎょっとしてしまった。
「……異世界の馳走」
おあずけを食らった犬のようなニュアンスで、魔王が呟く。
フランシスカも、魔王の法衣をきゅっと掴んで唇を尖らせてこちらのことを見ていた。
「私も食べたい。貴方たちばかりずるい」
「…………」
俺はスプーンを置いて席を立った。
新しい器を棚から取り出し、鍋に残っていたカレーを盛り付けてワゴンに載せる。
がらがらとやや乱暴にワゴンを押して戸口のところに行き、溜め息をついた。
「分かった、あんたたちにも食わせてやるから、いちいち厨房に来るな。もう少し魔王らしく威厳のある振る舞いをしてくれよ、見てるこっちが情けなくなるんだよ」
俺が謁見の間に向かうと、魔王は妹と共に嬉しそうな顔をしてついてきた。
どうやら、俺がカレーを食えるのは魔王兄妹にカレーを食べさせてからになるようだ。
隷属はつらいぜ。




