第40話 スライム、どう食べる?
俺の夢の中で血の海と化していた厨房は、俺が最後に出て行った時の様子そのままの姿で俺を迎えてくれた。
部屋の中央にはシーグレットと何人かの料理人がいる。皆で調理台を囲んで、台の上に置いてあるものを指差してああだこうだと話し合っていた。
俺が厨房に入ると、足音で気付いたのだろう、彼らが一斉にこちらを向いた。
「あ、マオ。僕たちのお勤めはおしまいだからそのまま部屋にいて良かったのに」
リベロは柔らかな微笑を俺に向けた。
半歩横にずれて、俺が集団の中に入れるようにしてくれる。
「結局あれから何もなかったよ。兵士たちが頑張ってくれたみたい」
「ああ。魔王に聞いた」
集団の中に入って、調理台に目を向ける俺。
調理台の上には、子供ほどの大きさがある透明な物体がどんと載っていた。
見た目は巨大なゼリーの塊のようだ。表面はつるんとしており、なかなか弾力がありそうな代物だ。
「何だこれ」
「何だ、スライムを見たことねぇのか? マオ」
塊をぺしぺしと叩いてシーグレットが意外そうな顔をする。
俺は、この世界に来てからスライムというものを見たことがない。人から聞いた話である程度はスライムについて知ってはいるが、現物を見たのはこれが初めてだ。
スライムってこんななんだな。もう少し溶けかかった、アメーバみたいなやつかと思ってた。
しかし、何でまたスライムなんかが此処に?
「何でスライムがこんなところにいるんだ?」
「何でって……食うんだよ。当たり前のことを訊くんだなお前」
スライムを、食べる?
あまりにも意外すぎるシーグレットの一言に、俺は目を何度も瞬かせた。
「……食えるの? スライムが?」
「独特の歯応えがあるぞ。まあ……味はねぇから、美味いかって言われたら微妙なんだけどな」
シーグレットは脇に置いてある包丁を手に取った。
そのままスライムに包丁の刃を入れて、すっと器用に切り分けていく。
二センチくらいの角切りにしたスライムを、俺へと差し出してきた。
「ほれ。食ってみろ」
言われるままに、俺はスライムを口に入れた。
……確かに、味はない。噛み終えて味がなくなったガムを噛んでいるような、そんな味だ。
歯応えは、そこそこある。ゼリーっぽい見た目だから柔らかいかなって思ったんだけど、意外と固さがある。
何だろう、これとすごいよく似たものを前に食べたことがあるような気がするのだが。
うーん……これって……あ、あれだよ。思い出した。
ナタデココだ。あれに食感がそっくりなんだ。
フルーツゼリーとかに入れて食べたら美味そうだな、これ。
まあ、この世界にはゼリーなんてないんだけど。
「これをどうやって料理するかって考えてたんだよ。味がねぇ食材だから扱いが難しくてな」
眉間に皺を寄せて後頭部をがしがしと掻くシーグレット。
「何か名案はねぇか?」
名案、ねぇ。
ナタデココといえばデザートにするのが王道の食べ方だけど、この世界のデザートは果物の蜂蜜漬けだけだしな。
ナタデココ……そうだなぁ。
果物ならこの世界でも結構種類が豊富にあるし、ここはフルーツポンチにするのが手堅いか。
シロップはないけど蜂蜜はあるし、蜂蜜を水に溶いてなんちゃってシロップを作って、果物に振り掛けて……と。
うん。いけそうだ。
俺は足下の箱からリンゴとオレンジを取り出した。
「美味く作れるかは分からないけど、レシピはあるから作ってみるよ」
「へぇ、凄いね。スライムを美味しく食べられる料理があるんだ」
感心の声を上げるリベロにオレンジを渡して、言った。
「魔王に甘味を作れって言われてるからついでだよ」
フルーツポンチも一応甘味の部類に入る……と、思う。
シュークリームなんかと比較したら単なる果物の盛り合わせじゃないかって言われそうだけど、こんな時間だしいちいち小麦粉練るのも面倒だし、今回はこれで納得してもらおう。一応作ってやったんだから文句言うなって感じで。
果物を剥いて切るだけだし、此処にいる奴全員に手伝ってもらえばすぐにできるだろう。
俺は箱から次々と果物を出して、同僚たちにそれを押し付けていった。
果物を切っている間に、俺はシロップ作りだ。
さあ、どんな出来栄えになることやら。




