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第38話 俺が求めるものは

 厨房の中で、見知らぬ男とシーグレットが睨み合っている。

 彼らの周囲には、床に沈んだ料理人たちの姿がある。

 皆一様に血まみれで、力なく半開きになった唇の間から血を吐き出していた。

 彼らが既に生きていないことは、一目瞭然だった。

 俺はふらふらと彼らの傍に歩み寄り、体に触れた。

 掌に触れた同僚の体は、冷たかった。

 ついさっきまで生きて動いていたのだと思うと──喉の奥に石がつかえたような、苦しさが込み上げてきた。

「よくも、オレの部下を……」

 シーグレットは歯を食いしばって、手にした包丁の刃を相手に向けた。

 男は何も言わない。冷たい眼差しでシーグレットを見据えて、右手の剣の先を彼へと向けるばかりだ。

「てめぇは生きて帰さねぇ。この場で解体してやる」

「…………」

 シーグレットが吼え声を上げて男に突進した。

 男は全く動じず、剣をすっと真横に構えた。

 影が交錯する。

 シーグレットは失速して、男の横を通り過ぎそのまま竈に頭から突っ込んだ。

 彼が纏う制服の白が、胸の辺りから鮮やかな赤に染まっている。

 血が付いた剣を振り上げて、男が口を開いた。

「解体されるのは、お前の方だったようだな」

「……!」

 何か叫びかけたシーグレットの口が、溢れた液体で塞がった。

 男の剣は、シーグレットの喉をまっすぐに貫いていた。

「魔族は一匹たりとも生かしておかない。地獄に堕ちろ。それが世のためだ」

 剣が横に払われる。

 胴体から離れたシーグレットの首は、目を見開いた表情のまま壁に激突して、床に落ちた。

 首を失った胴体がとさりと竈に凭れ掛かる。

 男は剣を振るって刃に付いた血を払うと、俺にゆっくりと視線を合わせた。

「魔族に飼われて災難だったな。だが安心しろ、お前はもう自由だ」

「────!」

 俺は叫んだ。腹の底から。

 頭の中が慟哭で満たされていく。目の前の場景が、真っ白く塗り潰されて消えていく。

 そして。

「…………!」

 がばっと俺は身を起こす。

 柔らかな闇で満たされた部屋を見つめて、どくんどくんと大きな鼓動を打っている心臓を掌で撫でて。

 生々しい後味が残っている夢の記憶を思い返し、唇をきゅっと真一文字に結んだのだった。

 ……今のは夢だ。ただの夢……

 自分に言い聞かせ、俺はベッドから降りた。

 うっかり眠ってしまった間にどれほどの時間が経過したのかは分からないが、あれだけ鳴り響いていた警鐘はぴたりと止んでいた。

 警鐘が止まったということは、もう警戒する必要がなくなったということであって。

 侵入者は倒されたのか、それとも侵入者が魔王を倒したのか。

 知らなければならない。人間として。勇者として。

 俺は意を決して部屋を飛び出した。

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