第35話 スモークチーズ
昼の休憩中に厨房に行くと、何やらいい匂いが。
調理台の上に、大量の塊肉が置かれていた。
料理人たちが、ごくりと生唾を飲みながらシーグレットの手元に注目している。
シーグレットは塊肉のひとつを包丁で薄くスライスすると、その肉を口へと運んだ。
ゆっくりと味わって、飲み込み、頷く。
「……よし、ちゃんとできてるな」
「何してんだ?」
「何だ、マオか。ベーコンがちゃんとできてるか味を見てたんだよ」
「ああ、遂にできたのか。ベーコン」
厨房に漂っているいい匂いはベーコンを燻製した時に肉に付いた匂いか。
日本では肉の燻製には桜チップとかの木を使うけど、こっちの世界では何を使って燻製するんだろう?
まあ、美味い燻製ができるのなら何でもいいとは思うけどな。
肉に注目していると、ずいっと差し出される茶色の塊が。
「ほら、お前が燻製しろって言ってたチーズだ」
おっ、ちゃんと忘れずに燻製してくれたんだな。
俺がチーズを受け取ると、片眉を跳ね上げながらシーグレットが訊いてきた。
「お前が言うから一緒に燻製したが……本当に美味いのか? チーズを燻製にするなんざ聞いた例がねぇからな」
「ああ、美味いぞ。それは保障する」
俺は空いている調理台にチーズを運んで、包丁でチーズを半分にカットした。
これこれ、この匂い。まさにスモークチーズって感じがするね。
チーズを一口サイズにカットして、皿の上に並べていく。
どれ、発案者の特権ということで先に味見を。
俺はチーズを一枚手に取って、ぱくっと頬張った。
うん、いい味に仕上がってるね。日本で食べていたスモークチーズとは微妙に味が違うけど、これはこれで美味い。
つい二枚三枚と食べたくなる欲求を抑えながら、皿を持ってシーグレットたちの元へ。
「ほら、味見」
「匂いは悪くねぇな」
シーグレットはチーズを控え目に齧って、驚いたように目を丸くした。
「何だ、こいつは本当にあのチーズなのか? 全然別物になってやがる。酒が飲みたくなる味だ」
「チーズ特有の乳臭さがないな。これは美味しい」
「香ばしいな」
料理人たちも口々に感想を言いながらチーズを齧っている。
スモークチーズ、大成功だな。
今回はお試しってことでチーズ一個分しか燻製にしてないから厨房のおやつにしかならないが、これなら料理の添え物として出してもいいかもしれない。
今度はまとまった数で燻製をお願いしよう。
俺は残ったチーズを冷蔵庫に片付けた。
これはまた後日楽しむことにして、今夜のまかないを何にするか考えよう。
ベーコンが大量にあるなら、ベーコンを使ったレシピにするのがいいかもな。
ベーコンといえば野菜のベーコン巻きが真っ先に頭に浮かぶが、どうせならそれとは違った主食になるような料理を作りたい。
まあ、まだ時間はある。身体を休めながらじっくりと考えよう。




