第27話 コンソメ、完成する
冷蔵庫から取り出したざるの中を見下ろして、俺は頷いた。
ざるの中にあるのは、一週間前に俺が干した野菜だ。
どれもからからに乾いており、力を加えるとぱきんと折れる。
これだけ乾いてれば、十分だろう。美味しいコンソメを作ることができるぞ。
俺は調理台にざるを持って行って、調味料の準備をした。
塩。胡椒。ローリエ。
できたコンソメを入れるためのガラスの瓶も用意した。
「あれ、その野菜干すのはもういいの?」
洗った食器を棚に戻しながらリベロが尋ねてくる。
ああ、と俺は頷いた。
「十分に乾いたからな。ようやく続きの作業ができるよ」
後は乾かした野菜を細かく砕いて調味料と混ぜるだけなのだが、この細かくするという作業が大変なのだ。
ミンサーがあれば簡単にできるのだが、此処にはそんな便利な道具などない。
そこで。
「リベロ、手伝ってくれるか? この作業、俺一人だと時間がかかって大変なんだよ」
「うん。いいよ」
リベロに頼んで、風魔法で材料を粉微塵にしてもらった。
俺は包丁を使って細切れにする要領で材料を刻んでいったよ。
材料を全て細かくし終えたら、塩と胡椒、野菜同様に細かくしたローリエを加えて、よく混ぜる。
混ぜた材料を瓶に入れて──
「よし、完成だ」
「これがコンソメ?」
瓶の中身を覗き込んで、リベロはふぅんと鼻を鳴らした。
「これを使うと料理がもっと美味しくなるんでしょ? どんな料理にも使えるの?」
「大抵の料理には使えるよ」
和食に使うことは殆どないが、この世界ではポピュラーな洋風の味付けの料理の大半には使えると思う。
よく使うだろうと思って大量に作ったから、すぐになくなることはないはずだ。
「晩御飯が楽しみだなぁ」
リベロは笑ってそう言いながら、ざるを洗い始めた。
そうだな、早速次の料理から使ってもいいかもしれない。
シーグレットが作ると言った料理に使えるかどうかを見て、使えそうなら積極的に使っていくことにしよう。
俺は瓶の蓋を閉めて、調味料が並んでいる棚にそれを置いた。
「何だ、またお前たちか。休憩時間なのに仕事熱心だな」
羊皮紙の束を抱えたシーグレットが厨房に入ってきた。
「ほれ、料理してねぇんならさっさと出ていけ。しっかり休憩するのもプロの料理人の務めだぞ」
しっしっ、と手を振って俺たちを追い立てるシーグレット。
俺はリベロの肩を叩いて、言った。
「休憩しろってさ。行こうか、リベロ」
「うん、これだけ片付けるから待って」
洗ったざるを拭いて、調理台の下に片付けるリベロ。
歩き出した俺を追って、ぱたぱたと小走りで厨房を出てきた。
「お待たせ。休憩時間は何する?」
「特に何も考えてないな」
「あ、それなら蔵書室に行こうよ。この前、凄く面白い本を見つけたんだよ」
「本はパスだな。俺、魔族の字読めないし」
「そっかぁ……あ、それならさ、字の勉強しない? 僕教えてあげるから」
「えー?」
この遣り取り。魔王城は今日も平和だなって思った。
この瞬間にも、外では人間と魔族が激しい戦いを繰り広げてるんだろうけど──
つい、戦いのことを忘れたくなる。そんな雰囲気が此処にはあった。




